2013 Fiscal Year Research-status Report
公契約規制と最低賃金制度および労働市場への影響に関する国際比較研究
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24530330
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
岸 道雄 立命館大学, 政策科学部, 教授 (20330011)
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Keywords | 生活賃金 / 公契約 / ニューヨーク市 / 最低賃金 / 雇用 |
Research Abstract |
平成25年度は、主としてアメリカ合衆国の生活賃金条例(Living Wage Ordinance)について調査研究を実施した。特にニューヨーク市における生活賃金条例の歴史、変遷、近年の動向について詳細に調査し、ニューヨーク市で働く労働者にとっての意義、雇用に対する効果、課題、連邦政府および州政府の最低賃金との関係について分析を行った。 アメリカ合衆国における生活賃金条例は、近年、日本の地方自治体で制定が広がりつつある公契約条例のモデルとみられる。ニューヨーク市は全米でも最も生計費が高い都市の一つであること、2010年に生活賃金に関する新たな条例案が市議会に上程されたことを踏まえ、ニューヨーク市の生活賃金条例をケース・スタディの対象とした。文献調査に加え、ニューヨーク市会計監査局、National Employment Law Project等の非営利研究機関においてインタビュー調査を行った結果、①ニューヨーク市長側は生活賃金の適用拡大は雇用の喪失をもたらす恐れがあるといった研究報告書を発表したものの、そのメソドロジーについて複数の研究機関から疑義が出され、生活賃金の適用拡大の経済効果および雇用への効果については肯定、否定の両論が存在していること、②公契約に従事する労働者と市から補助金を受けた事業者に雇用される労働者にのみ適用される生活賃金よりも広範囲の人々に適用される最低賃金の引き上げについても、近年アメリカ合衆国では、New Minimum Wage Researchと呼ばれる複数の新たな学術研究により、必ずしも雇用に負の影響を及ぼさないといった分析結果が示されていること、等について理解することができ、今後の日本の公契約条例のあり方の検討および最低賃金制度改革への示唆を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度はイギリス、平成25年度はアメリカ合衆国について調査研究を行い、研究対象とした4カ国のうち、2カ国について研究計画および研究目的に沿った調査研究を行うことができているため。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度は、主としてドイツとデンマークにおける公契約における賃金条項と最低賃金設定のあり方について調査研究を行う予定である。ドイツは2015年から新たに法定最低賃金制度を導入することになっており、こうした動きの背景、その設定方法、労働条件改善の効果、雇用への影響等についてどのような議論と分析が行われているのか、また公契約に関する法に基づく賃金条項設定のあり方の歴史、現状、課題ついて調査を行う。デンマークについては、法に基づく最低賃金制度はなく、労使が締結する協約に基づき最低賃金が設定される仕組みとなっており、世界的にみて非常に高い最低賃金を設定しているため、具体的な水準設定の根拠と方法、雇用への影響および公契約における賃金条項設定の現状と課題について調査を実施する予定である。 平成26年度は本研究を集大成する年度のため、4カ国を対象とした調査分析に基づき、今後の日本の公契約条例および最低賃金制度に関する改革の方向性について提言を行う予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度に学内の研究費を受給することができたため、使用予定だったイギリス現地調査に関わる旅費について本研究費から執行する必要がなくなったことが主な理由である。 ドイツとデンマークにおける現地調査に関する旅費、日本国内における両国についての文献調査に関わる旅費および資料複写費、本研究に関係する和洋図書購入費、国内における公契約条例、最低賃金制度の実態調査に関わる旅費等に主として使用する予定である。
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Research Products
(1 results)