2012 Fiscal Year Research-status Report
介護サービスの質と非裁量・制御不能要因を包含した頑健な効率性測定と時系列への拡張
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24530334
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Tezukayama University |
Principal Investigator |
山内 康弘 帝塚山大学, 経済学部, 准教授 (20533996)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 介護 / 生産効率性 / 包絡分析法 |
Research Abstract |
本研究では、我が国の介護分野を対象として、サービスの質、外部環境、地域連携政策などを考慮したうえで、サービスの生産効率性を横断面及び時系列で把握することを目的としている。我が国は、少子高齢化の進展、経済成長の鈍化などにより、人的資源、財政資源に限りがあり、高齢者の増加による介護サービスの提供と生産効率性の両立が喫緊に求められている。 そうした背景のもと、介護サービスの生産効率性を計量的に把握したうえで、各サービス主体の経営上の取り組みやサービス、特徴、地域の政策、外部環境などによる影響が統計的に有意に効果を有するか否かを検証し、改善策を検討することは、政策的にも有意義であると言える。本研究では、「包絡分析法(DEA; Data Envelopment Analysis)」とそれを発展させたモデルを援用し、分析を進めている。 具体的に当該年度は、先行研究であるTone (2002) and Tone and Tsutsui (2007)を援用し、2010年の日本における地域介護の効率性を計測したうえで、費用効率性の構造を詳細に分析するため、費用効率性を技術効率性、価格効率性、配分効率性に分解し分析を行った。2010年の日本における介護ケアの提供について分析した結果からは、技術効率性が最も多大な損失を生じさせており、全体の損失の90%以上であること、技術効率性の損失の大半が賃金コスト、特に介護スタッフまたはその他スタッフ向けであること、「配分効率性」の損失の大半が、介護スタッフの賃金コストであることなどを明らかにすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本申請研究では、我が国の介護分野を対象として、サービスの質、外部環境(非裁量・制御不能要因)などを考慮したうえで、サービスの生産効率性を計量的に横断面及び時系列で把握することを目的としている。そしてこれまでの先行研究の欠点を踏まえ、本申請期間(3年間)では、以下の研究を遂行することとしている。 (1) 効率性測定へのサービスの「質」の包含 (2) 効率性測定への外部環境(非裁量・制御不能要因)の包含 (3) 時系列への拡張、介護保険施行後10年間の効率性評価 当該年度(初年度)では、(1) 効率性測定へのサービスの「質」の包含を目指して、先行研究の洗い出しやデータの収集に努めた。Kooreman (1994) などが指摘しているとおり、ヘルスケア分野の生産効率性分析では、サービスの「質」を無視してしまっている研究が多い。実際、応募者が最近行った分析[Yamauchi (2011) ]でも、データの入手困難性などからサービスの「質」を十分に調整できていない。本申請研究の貢献として、まず、先行研究で吟味されてきたサービス提供の構造(Structure)、過程(Process)、成果(Outcome)「SPO framework」に関する研究[Donabedian (1988) など]を援用し、介護サービスの「質」に関する計測用のデータベースを構築することを目指している。日本では要介護認定が実施されており、全国的な「要介護度」のデータが整備されている。まず手始めに「要介護度」のデータを質のデータと捉えて、分析を行った。その結果は、ひとつの英文論文としてとりまとめることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、当初の研究目的のうち、(2)効率性測定への外部環境(非裁量・制御不能要因)の包含について進めていく方針である。Ruggiero (2004) などが指摘するとおり、介護サービスの効率性を測定し、各主体に効率性の向上を促していくためには、各主体の裁量ではどうすることもできない要因、または、制御することができない外部要因をモデルに取り入れ、それをコントロールした上で効率性の評価を行うことが重要と言える。事実、応募者がこれまで行ってきた研究でも、外部環境要因を十分に調整できているとは言えない。本申請研究の貢献として、諸外国の先行研究で吟味されてきた非裁量・制御不能要因に関する研究を援用しつつ、我が国の介護サービスに特徴的な気候的要因・地理的要因(例:豪雪・辺地・過疎・半島・離島等)などを出来る限りモデルに取り入れるべく、効率性の計測に必要なデータベースを構築することとする。また、計量モデルにおいて注意すべきことは、効率性スコアと非裁量・制御不能要因が同時決定でありバイアスが存在することである。[Ruggiero (2004) 等参照]。本研究では、Simar and Wilson (2007) が提案したブートストラップ手法による2段階の推定方法によってバイアスを回避し、頑健な推定量を求め、非裁量・制御不能要因による影響を明らかにする。さらに、非裁量・制御不能要因をコントロールしたうえで、国等による地方への財政支援が効率性にどのような影響を与えているのかを計測し、Kornai (1986) が指摘した「ソフトな予算制約(Soft Budget)問題」の存在有無を明らかにする方針である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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