2012 Fiscal Year Research-status Report
台湾をめぐる科学技術人材の国際移動の新潮流に関する実証研究
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24530335
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kyushu Sangyo University |
Principal Investigator |
中原 裕美子 九州産業大学, 経営学部, 准教授 (40432843)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 国際労働力移動 / 研究開発のグローバル化 / 台湾経済 / 中国経済 |
Research Abstract |
平成24年度は、2010年代の台湾をめぐる科学技術人材の国際移動の事例の収集とその分析にあたった。その中でもとりわけ、中国と台湾の間の科学技術人材の労働移動という2010年代に入ってから出てきた新しい現象に着目して研究を進めた。 その結果、台湾と中国の企業の間で相互に人材獲得を図る動きがあることが明らかになった。 台湾企業が中国の人材を欲するのは、台湾で不足している理系人材の数の補填のためであるが、この動きは大きく2つに分けられる。1つは、中国に研究開発拠点を設立し当地の人材を活用しようとする動きである。もう1つは、2011年に台湾政府が中国からの留学生を解禁したことに伴う、台湾に留学してきた中国人学生に対する将来の雇用を見据えたアプローチである。 他方で中国企業が台湾の人材を採用するケースも増加してきた。2000年代の半ばから、中国企業の間で台湾の人材をリクルートする動きが出ていたが、それに加え、2009年に中国から台湾への直接投資が一部解禁されたため、台湾人が、中国に行かず台湾に進出してきた中国企業で就労するという動きが出てきた。そして、中国企業が台湾人を欲するのは、台湾人の持つ先端技術や能力を求めてであった。 そして、台湾の高度人材は全体でみると流出超となっているという問題も発見された。台湾政府が育成政策や海外からの導入政策を講じ、台湾企業も流出防止を図っていても、実際には理系人材が不足する状況は解決せず、今後さらに深刻になる可能性もあることが明らかになった。 また、国際ワークショップ「The Challenges of Highly Skilled Migration in Asia and the Pacific」で発表すると同時に、世界各国の高度人材の国際移動に関する研究発表を聞き、他国の事例を知ることで、台湾の事例を客観的に見る機会も得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、3年間の期間中に、現在の諸外国から台湾への科学技術人材の移動、および台湾から中国への科学技術人材の流出について分析し、2010年代の台湾をめぐる新たな人材移動の潮流を描き出し、加えて「後発国から後発国へ」という新しい移動の類型を明らかにすることを目的としていた。その目標は、現段階では、おおむね予定通りに進展している。 ただし、平成24年度は、以下の理由で、配賦された科学研究費を、当初の予定より少なく支出することとなった。 まず、当初は夏に台湾に6泊7日の調査出張を行う予定であった。しかし、中国・北京において人材関連のインタビューに応じてくれる人が見つかったため、行き先を中国に変更し、また、このインタビューを主目的としたことにより、調査出張の日程も3泊4日と短縮することになったため、海外調査の旅費が大幅に減少した。 また、3月に今年度の成果発表を兼ねて、東京で行われた人材移動に関する国際ワークショップにおいて、英語での発表および他国からの人材移動の研究者との意見交換を行ったが、このワークショップ発表に伴う旅費や滞在費は、ワークショップの主催者である上智大学比較文化研究所が支出して下さったため、この国内出張にかかる旅費も不要となった。 上記の理由により、平成24年度の科学研究費の支出は、当初の予定より少ないものとなり、残額を平成25年度に繰り越すこととなった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、2010年代の台湾をめぐる新たな人材移動の潮流について、さらに詳細かつ具体的な研究を行っていく。具体的には、台湾において、どの分野の人材が不足しているのか、どの分野の人材を他国からの充足で補っているのかについて、引き続き分析していくのと同時に、平成24年度での研究で分析した中国以外との間の人材移動に焦点を絞って調査していく。 そのために、引き続き、国内外の出版物を購入し、国内での資料収集を行い、文献調査を行う。 そして、平成25年度は、次の「次年度の研究費の使用計画」欄に記述するように、マレーシアおよびシンガポールと、台湾との間の科学技術人材の移動について調査することとする。 さらに、最終年度である平成26年度は、夏季休暇中に台湾に6泊7日の調査出張を行い、台湾のハイテク工業区や先端技術の開発を担う国立研究所へのヒアリングをし、台湾のシンクタンクや大学の研究者と意見交換を行うことを考えている(具体的には、新竹科学工業園区管理局副局長および公関室副研究員、工業技術研究院人力資源處学習発展組組長および産業経済與趨勢研究中心副主任、国家実験研究院科技政策研究與資訊中心の職員、中華経済研究院国際研究所所長および国際研究所研究員、第三研究所研究員、開南大学学長および国際企業学系主任などである)。 そして、当初の計画通り、2010年代の台湾をめぐる新たな人材移動の潮流を描き出し、加えて「後発国から後発国へ」という新しい移動の類型を明らかにするための研究の総仕上げを行うこととする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
「11.現在までの達成度」欄に記述した通り、出張の行先・期間変更等により旅費の支出を抑えることができたため、繰越金が生じた。その繰越金と平成25年度請求分の助成金を合わせて使用計画は、以下の通りである。 平成25年度は、シンガポールおよびマレーシアと、台湾との間の科学技術人材の移動について調査することとする。 まず、前期の間に文献調査を行う。文献調査は、基本的には日本で入手可能な文献やインターネットで収集した各種資料で行うが、必要に応じて台湾の国家図書館をはじめとする研究機関や図書館から資料を取り寄せる。そして、夏期休暇中に、シンガポールおよびマレーシアへの調査出張を行う。シンガポールでは、National University of Singaporeにおいてシンガポールにおける高度人材の移動を研究しているBrenda Yeoh氏と面会し、聞き取り調査を行う。Yeoh氏はシンガポールへの高度人材の移動全般について研究されているので、台湾からの人材移動のみならず、他国からの人材移動との比較をしながらのヒアリングが可能だと期待できる。また、シンガポール政府が打ち出している、外国人の高度人材受け入れ政策についても聞き取り調査を行い、台湾政府の高度人材受け入れ政策との比較を行い、台湾の政策の妥当性を検証する。次に、マレーシアにおけるハイテク産業の集積地であるペナンにおいて、当地在住の華人である張莉莉氏と面会し、マレーシアおよびペナンにおける台湾の科学技術人材についての聞き取り調査を行う。 後期には、これらの現地調査で得られた知見をまとめる。そして、さらに文献調査を行うことにより、この調査結果を補完する。 年度末には、これまでの研究成果に基づき、平成26年度の研究指針を定める。
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Research Products
(4 results)