2012 Fiscal Year Research-status Report
証券取引所における取引開始時の価格発見に関する実証分析
Project/Area Number |
24530347
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
太田 亘 大阪大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (20293681)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | マーケットマクロストラクチャー |
Research Abstract |
本研究の目的は、証券取引所が取引システムを高速化することで始値形成に変化が生じるかを検証することにある.取引システム高速化により高頻度取引業者等が活発に取引に参加することで価格形成が歪むのではないか、という懸念があり、高速化と日中取引および日中の流動性に関する分析が行われている.しかし、取引システム高速化が取引開始時の価格形成にどのような影響を与えるかについての分析はなされておらず、これを分析する点が本研究の特徴の一つとなっている.具体的には、東京証券取引所の2010年1月における取引システムを高速化の前後1年間について、取引開始前における投資家の発注行動および始値形成を分析した.東京証券取引所が配信するデータのタイムスタンプは、取引システム高速化前は1分ごとであるが高速化後は1秒ごとである.そのためより粗い刻みである1分間隔で各種集計を行った.取引開始前の気配である寄前気配の変化より、売り注文・買い注文について発注・キャンセルを推測することができるが、高速化後は特に大型株で取引開始直前に活発に発注が行われるようになるとともに、寄前気配の変動がより大きくなっていることがわかった.価格形成に対する影響について、この分野でよく用いられる手法であるunbiasedness regressionによると、取引システム高速化前後で取引開始直前の気配および始値の情報効率性が低下しているとはいえない、という推計結果が得られた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度が初年度であったが、まずデータの整備を行った.気配のデータをリアルタイムで得ることができるが、銘柄間比較をするためには同一時刻で計測した気配のデータベースを準備する必要がある.そのため、各銘柄について1分ごとに気配を抽出するとともに、分間隔で注文の発注やキャンセル等のイベントの発生件数を集計した.2009年以前は1分単位、2010年以降は1秒単位で気配およびイベントの計測ができるが、2010年について秒間隔での分析をしたところ、取引開始の9時すぐに取引が行われるのではなく、1瞬間をおいて取引が開始されるケースが多いことがわかった.ただし、これが価格形成に与える影響は不明であり、今後価格形成において重要であると考えられた場合により詳しい分析を行う予定である.一方、取引システム高速化前後の比較は、より粗い刻みである分単位でのみ行うことができるが、この分野でよく用いられるunbiasedness regressionとよばれる分析手法を用いると、取引システム高速化前後で始値形成に変化があったとはいえない、という結論が得られた.
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画通りに研究を進める予定である.まず流動性等銘柄の性質を考慮した分析を行うとともに、頑健性のチェックを行う予定である.主たる分析手法であるunbiasedness regressionは単回帰であるが、特別気配等をコントロールするため、板の状態を表すダミー変数と説明変数とのクロス項を入れる等により結果の再検証を行う.またAmihud and Mendelson (1991, Journal of Finance)やRonen (1997, Journal of Financial and Quantitative Analysis)などが用いている分散比による分析、Barclay and Warner (1993, Journal of Financial Economics)などが用いているWeighted Price Contributionによる分析、Hasbrouck (1995, Journal of Finance)などが用いているinformation shareを用いた分析等を行う予定である.さらに、取引開始前の価格操作の可能性に関連して、大口注文の発注とキャンセルの連続が、どのような銘柄・どのような状況で発生するか、それが価格形成にゆがみをもたらしていないか、を検証する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
推計のためコンピュータを購入するとともに、分析用ソフトウエアを購入する予定である.また研究報告および資料収集のために旅費が必要である.
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