2013 Fiscal Year Research-status Report
アジアにおける円の基軸通貨化戦略‐貿易建値通貨からのアプローチ
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24530362
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
清水 順子 学習院大学, 経済学部, 教授 (70377068)
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Keywords | 為替制度 / 資本規制 / 為替リスク管理 / 貿易建値通貨 / 基軸通貨 / 通貨の機能 |
Research Abstract |
3年間の研究期間の中間にあたる25年度は、本研究課題の中心テーマである「アジアにおいて円と元、どちらが新たなアジアの基軸通貨たりえるか」という問題について異なる側面から実証分析する論文を執筆、及び学会報告し、主に以下3つの成果を上げることができた。 第1に、東アジア諸国に流入する資本フローがそれぞれの為替制度や資本規制の違いを反映して住宅価格にどのような影響を与えるかという実証分析を行い、現在ジャーナルに投稿中である。この分析における重要な説明変数であるアジアの為替・資本規制については、先行研究を基に3つの異なる視点から各国毎に為替制度と資本規制の時系列変化を表す指標を作成したが、本研究の分析にも応用できると考える。 第2に、RIETIで実施した日本企業の貿易建値通貨選択と為替リスク管理のアンケート調査結果を説明変数として、日本企業の為替リスク管理手法であるフィナンシャルヘッジとオペレーショナルヘッジの有効性を実証分析し、それぞれの為替リスク管理手法が日本企業の為替エクスポージャーを減少させる効果があることを確認した。 第3に、欧州危機がアジアの資本フローに与える影響を様々な面から分析する日本経済研究所の研究会では、アジア通貨に与えた影響の分析を担当し、資本フロー、為替変動から貿易建値通貨選択に関する動向を精査することにより、欧州危機以降リスク回避度が高まった国際金融市場の動向を反映して通貨の機能という観点からは円、元どちらが現時点ではアジアの基軸となりうる可能性が高いかを示唆する論文を公表した。 上記の研究成果は、本研究の目的である「アジアの為替市場の現状について取引コストやヘッジ機能を中心としたミクロな視点から明らかにし、ドル、円、元それぞれの利便性を比較する」上で重要な成果と位置づけることができる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では、アジアにおける貿易建値通貨として円をはじめとするアジア通貨が使われる可能性について考えるとともに、元の国際化の進展度合いを見極めながら円の利用を促進する道を探ることを目的としている。25年度に行った分析では、以下の3点を確認することができた。 第1に、アジア各国の為替制度や資本規制の違いを指数化できた。第2に、日本企業の為替リスク管理の有効性を分析し、フィナンシャルヘッジやオペレーショナルヘッジが為替のエクスポージャーを減少させる上で有効であるとともに、貿易建値通貨として円建てを選択することが当該企業の為替エクスポージャーを減少させる効果があることを確認した。第3に、欧州危機以降リスク回避度が高まった国際金融市場の動向を反映して、通貨の機能という観点からは現時点では元よりも円の利便性が高いことを確認した。 また、25年度は清水が参加するRIETIの研究プロジェクトにおいて2009年に実施した「日本輸出企業の貿易建値通貨選択と為替リスク管理に関する研究」のアンケート調査第2弾を実施し、更にこのアンケート調査実施に先立ち、代表的な輸出企業10社にヒアリング調査を行い、アベノミクス後の円安局面で貿易建値通貨選択や為替リスク管理に変化が見られるかどうかについて情報を得ることができた。これらの成果を基に、最終年度は現在のアジア為替市場おいて円の利用促進を可能とする政策提言をどのように導くのかを考察する上で重要な成果であると評価できる。 25年度は、協力研究者である中国社会科学院の孫教授と東京でのワークショップを11月に企画し、アジアの為替制度や日中貿易の動向に関する実証分析の論文報告と活発な討論が行われた。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度を迎える26年度は、これまでの研究成果を踏まえた上で日本企業が円を貿易建値(決済)通貨として選択する需要を高めるためにはどのような具体策が必要であるのかを明らかにするとともに、円がアジアの基軸通貨の一つとして果たす役割について考察したい。 具体的には、2013年にRIETIで実施した企業ヒアリング調査、および日本企業の貿易建値通貨選択と為替リスク管理に関するアンケート調査結果と2009年に実施した同様の調査との結果を比較し、元の国際化やアジアにおける生産ネットワークがさらに拡大した現在において貿易建値通貨選択にどのような違いが生じているのかを確認し、本研究の課題であるアジアにおける円の利用拡大促進に対する政策提言を導きたい。また、2014年に入り、RIETIおよび財務省の案件として訪問したCMLV諸国(カンボジア・ミャンマー・ラオス・ベトナム)における金融・為替・資本市場の調査結果を参考として、アジア新興国においてドル化が進んでいる現状を分析するとともに、チャイナ・プラスワン、タイ・プラスワンとして日本企業の進出が今後臨まれる地域も含め、将来のアジアの為替制度や資本規制の在り方についても考察したい。 協力研究者である中国社会科学院の孫教授と毎年行っているワークショップについては、人民元の国際の進展をテーマとして26年度は北京で開催する予定である。研究費の使用計画については、論文報告を海外の学会で行うための出張旅費、および論文のジャーナル投稿のための英文校正などを主な使途とする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
最終年度に学会報告出張を数回予定するために、25年度の学会出張旅費はなるべく他の資金で賄うことにしたため。 最終年度に当たるため、論文の英文校正、および論文報告のための学会出張旅費に使用する予定である。
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Research Products
(14 results)