2012 Fiscal Year Research-status Report
社会保険の未納・未加入に関する厚生損失の分析:逆選択の視点からの研究
Project/Area Number |
24530366
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
宮里 尚三 日本大学, 経済学部, 准教授 (60399532)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
斉藤 都美 明治学院大学, 経済学部, 准教授 (00376964)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 逆選択 / 厚生分析 / 社会保険 / 未納・未加入 |
Research Abstract |
本研究では、近年深刻さを増す社会保険の未納・未加入に関して逆選択の観点から分析し、厚生損失がどの程度かを推計することを目的としている。本年度の研究成果としては、宮里(2013)「社会保険の未納・未加入に関する厚生分析:アドバースセレクションの視点からの研究」(『会計検査研究』第47号、2013年3月)としてまとめている。具体的な内容としては、産業別の公表データを用いて分析を行っている。まず、国民年金保険において逆選択が発生しているかについては、『人口動態調査』の産業別の死亡率のデータと『国民年金被保険者実態調査』の産業別の国民年金納付・未納率の情報を用いて、納付者と未納者の平均寿命の差を推計した。より具体的にはGompertz曲線を推計し、それらから得られる産業別の平均寿命と産業別の納付・未納率の情報を利用し推計を行った。結果は、国民年金納付者の平均寿命は81.7577歳であるのに対し未納者は80.9936歳となった。この結果は納付者は未納者に比べて長生きすることを示しており、国民年金保険において逆選択が発生していることが示唆される。また、この平均寿命の差を利用して、厚生損失を計算してみると一定の留意が必要であるが年間で約1924億円の厚生損失が発生していることになる。逆選択という市場の失敗を是正するために強制加入は一つの有効な方法になりうる。しかし、国民年金制度は名目的には強制加入でありながら、実際には未納者へのペナルティーはあまり重いものではなく、実質的には任意加入的な側面を持っている。したがって、実質的にも強制加入となるように、国民年金保険料の徴収法を改める必要があるかもしれない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度(平成24年度)の研究計画は主にデータベースの整備という計画であった。研究計画では『人口動態調査』や『国民年金被保険者実態調査』のデータの収集・整備を行う事になっていたが、実際にそれらのデータの整備できた。さらに研究実績の概要でも述べたように平成24年度中でデータの整備だけではなく、実際の推計もすでに行い、学術誌に研究成果が掲載されている。また、産業別データだけではなく、個票データを用いた分析も行う予定であるが、経済産業研究所が提供するJSTARデータの申請を平成24年度中に行い、使用許可も平成24年度中に得られている。JSATRデータの個票データを用いた分析の結果は、まだ出ていないが平成25年度、平成26年度には分析結果をまとめる予定である。 なお研究目的において、「わが国の社会保険の未納・未加入に関して逆選択の観点から実証的に分析するとともに、それにともなう厚生損失を推計する。また、推計結果を踏まえ、望ましい政策のあり方を検討する。」と述べた。それらは、研究実績の概要で示したように、わが国の国民年金保険において逆選択が発生していることが示唆され、また厚生損失については一定の留意は必要であるが年間で約1924億円という結果が得られている。したがって、現在までの達成度としては、おおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は主に個票データを用いた分析を進める。データは経済産業研究所などが提供している50歳以上の中高年を対象としたパネル調査「くらしと健康の調査(JSTAR)」である。このデータは元来、未曾有の少子高齢化に直面している日本が今後どのような社会保障政策を企画立案したら良いか検討するためのデータ提供を目的としているため、医療、介護、年金、生活習慣、健康状態関連の質問項目が充実している。たとえば公的年金については、受給している年金の種類、受取額、受取年数、加入期間についての質問項目がある。当該データは調査年が2005年,2006年と新しいことから、各回答者の余命年数はわからないが、健康状態から余命年数を推計して分析を進める予定である。また公的年金だけでなく民間保険会社の年金受給に関するデータも存在するため、公的年金と私的年金の役割分担や逆選択の程度の違いについても研究を進められる。さらにJSTARデータに含まれる多様な属性を利用することで、逆選択がある場合にどのリスククラスでそれが深刻か、その理由は何かといった、より詳細な情報を得ることができる。 国民健康保険についても同様に、JSTARのデータを利用して進める。JSTARには医療についても多岐に渡って質問項目が存在する。健康保険の種類、保険料の支払額、現在あるいは過去の疾病の状況、支払った医療費について情報が得られるほか、年金同様、民間医療保険の購入についての情報も存在するため、公的健康保険、私的医療保険の役割分担についても検討する予定である。さらにJSTARには喫煙習慣、健康診断の受診頻度といった日常生活の変数も多数収録されている。その項目を利用してい、逆選択だけでなくモラルハザードの分析も行う予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度の経費としては、計算速度の速いパソコン1台を購入する予定である。その他にもパソコン関連周辺機器やPC関連消耗品、さらに社会保障関連の文献、資料収集のために費用を使う。また、分析に必要となる資料やデータの入力等のために1名程度の研究補助者に謝金を払うことも考えている。さらに、旅費は国内、海外での資料収集、研究報告にあてる。海外での研究報告や資料収集は、2013年の国際医療経済学会が開かれるオーストラリアなどを予定している。また、2014年においても、公共経済学、医療経済学の研究者を中心とした国際会議で研究成果を報告する予定である。
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Research Products
(1 results)