2013 Fiscal Year Research-status Report
「失われた20年」における生産性低迷と税・財政政策の有効性
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24530376
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
前川 聡子 関西大学, 経済学部, 教授 (40330120)
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Keywords | 設備投資行動 / 構造変化 |
Research Abstract |
本研究の目的である「1990年代以降の企業の生産非効率と政策との関係」を明らかにするため、本年度は、日本企業の設備投資行動が1990年代から2010年の間にどう変化してきたのかについて実証分析を行った。 設備投資行動に注目したのは、それが企業活動の効率性の変化も反映していると考えたためである。企業の設備投資に関する経済理論では、qと呼ばれる投資の限界収益が設備投資の決定要因であるとされている。つまり、qは設備投資による生産の効率性を表しているとも解釈できることから、設備投資がqによって決まっているのであれば、それは企業が設備投資による企業価値への貢献度(すなわち効率性)を重視していることを示している。しかしながら、多くの実証分析においては、qの設備投資に対する説明力は弱く、キャッシュフローの説明力が強いとの結果が示されてきた。そうした中、1990年代後半以降になると、企業の保有するキャッシュフローは増加傾向にあるにも関わらず設備投資が伸び悩むという状況が観察されている。 そこで、本研究では、1990年代以降は、キャッシュフローの設備投資に対する説明力が低下するとともに、qの説明力が出てきているのではないか、と考え、時系列データを用いて投資関数の推定を行った。 その結果、1998年以降になると、キャッシュフローよりもqが設備投資を左右する影響の方が大きくなっていることが明らかとなった。このことは、1990年代後半以降、日本企業が、キャッシュフローという調達コストの低い資金が手元にあっても、それが企業価値の増大につながらない限り設備投資に踏み切らない、という傾向が出てきていることを示唆していると言える。すなわち、「失われた20年」を経験する中で、日本企業は、企業価値に貢献できるかどうかという効率性を考慮しながら設備投資の判断をするように変化してきていると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
日本企業の設備投資の決定要因が、キャッシュフロー重視からq(企業価値)重視へと変化していることを明らかにすることによって、1990年代以降、日本企業の生産非効率が改善されつつあることまでは分析することができた。この点で、目的に沿った研究はおおむね順調に行われていると言える。 しかしながら、その非効率改善の背景には何があるのか、1990年代以降の政策・税制はその改善に何らかの効果をもたらしたのかどうかまでは分析ができていない。次年度はこれらの観点からさらに研究を進めていく。
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Strategy for Future Research Activity |
企業の設備投資が企業価値への貢献度(効率性)を重視して行われるように変化してきたことまでは明らかになったため、今後は、その変化が何によってもたらされたのか、について分析する。とりわけ、政府が「失われた20年」の間に講じた政策は、日本企業の効率性重視という変化に対して効力があったのか、無かったのかを実証的に明らかにする。 平成26年度の研究計画の概要は以下の通りである。 2014年4~8月にかけて分析を行って暫定的な結果を出し、それを9~12月にかけて学会・研究会等で報告する。2015年1~2月は、報告時の議論・指摘を踏まえて研究の改訂を行い、2015年3月までに確定した研究成果を出す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
複数の学会で発表することを想定して旅費を計上していたが、報告申し込み期限までに結果が確定せず、当該年度は発表が1研究会のみになったため。 複数の学会・研究会での発表(できれば海外での研究発表)を実現させるとともに、データ更新をして分析をさらに深める。
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Research Products
(1 results)