2013 Fiscal Year Research-status Report
実績配当主義の基礎研究:信託におけるリスクの配分と負担
Project/Area Number |
24530381
|
Research Institution | Kyushu International University |
Principal Investigator |
西山 茂 九州国際大学, 経済学部, 教授 (20289565)
|
Keywords | 金融論 / 信託 / 実績配当主義 / 金融仲介機能 / リスク負担機能 / 信託法 / 金融制度 / 金融仲介機関 |
Research Abstract |
この研究課題は信託制度に内在する実績配当主義の原則について金融機関論と金融制度論の立場から考察することを意図している。本年度は昨年度に引き続き、実績配当主義のもとでの信託の金融仲介機能とその独自性の解明、信託制度の機能としての実績配当主義の考察に取り組み、具体的に以下の成果が得られた。 第一に、実績配当主義のもとでの信託財産の受託と運用を委託者と信託機関の非協力ゲームと捉え、実績配当主義をその際のリスクの配分と負担として定式化したモデルを適用して、信託財産の運用利益率としての利子率の変動が信託財産の受託に対して及ぼす影響を一般的に捉えることができた。現在、信託報酬の水準とその格差がもたらす効果をこれに重ねることにより、信託におけるリスクの配分と負担としての実績配当主義が信託の金融仲介機能をどのように規定するかについて引き続き分析している。 第二に、実績配当主義を信託制度の機能として捉えるとともに、さらにこの機能に基づいて信託制度が金融システムにおいて果たす役割を解明する理論的な基礎として、金融構造と金融制度の編成との相互作用に関する分析に着手し、ジェネリックな分析を提出することができた。金融仲介機関とその制度的編成のやや抽象的な分析にとどまっているため、信託行為とその意義を初めとする信託および信託制度に関連する具体的な論点を取り入れた分析に継続して取り組んでいる。 第三に、実績配当主義に関する制度的な考察である。本年度は信託において実績配当主義に直接に規定される受益権に着目してこの考察を進めることができた。受益権の物権的性格に即して信託における所有権の構造を捉えるとともに、ここに経済的所有権の理論と概念を適用して受益権を制度的な概念として再構築し、この理解に立って制度としての実績配当主義の本質と意義を明らかにしている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
この研究課題は次の四点を主眼としている。実績配当主義のもとでの信託の金融仲介機能とその独自性の解明、信託制度の機能としての実績配当主義の定式化とその分析、実績配当主義を内在する信託制度が金融システムにおいて果たす役割の理論的な解明、以上の成果を基礎とした市場型間接金融における金融仲介機関のリスク管理の解明に向けての実績配当主義の理論的な一般化の検討、の四点である。本年度は以上の四点のうち、第一の実績配当主義のもとでの信託の金融仲介機能とその独自性の解明、第二の信託制度の機能としての実績配当主義の分析に重点的に取り組み、いずれにおいても内容面で着実な進展が得られた。 第一の解明については、能動信託と受動信託の金融的意義など、信託の独自な金融仲介機能を規定する論点を確実に捉えつつ、実績配当主義によるリスクの配分と負担のもとでの信託財産の受託についてモデル分析を行うことができた。特に能動信託と受動信託の金融的意義を併せて捉えることは、金融構造に対する信託の独自な関与を基礎として、信託の金融仲介機能と信託制度の機能としての実績配当主義とを一体化した分析を可能にする意義を持つ。 第二の信託制度の機能としての実績配当主義の分析においては、とりわけその制度的な考察において当初構想していた以上の達成度が実現できた。ここでは信託における受益権に着目することにより、経済的所有権を初めとする制度の諸概念を適用した実績配当主義の把握を提示することができている。さらに受益権はリスクの配分と負担において実績配当主義に直接に規定されることから、制度的な概念としての受益権の考察を前提することによって、実績配当主義のもとでの信託の金融仲介に対して制度的な側面からの接近を図ることが可能となった。 以上の進展を総合すると、現在までの達成度は当初の計画以上であると判断される。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究は昨年度に引き続き順調に進めることができているので、当初の構想に従いつつ、かつこれまでの成果を基礎として、次年度以降の研究に取り組むことができると考えている。当面の研究の推進については、実績配当主義のモデル分析と実績配当主義のもとでの信託の金融仲介機能に関する理論的・制度的な考察とを基礎として、信託制度の機能としての実績配当主義の分析をさらに深めることに重点を移していきたい。具体的には以下の三点が課題となる。 第一に信託行為とその意義の分析である。金融構造と金融制度の編成との相互作用に関する分析に本年度すでに着手できているので、この成果に信託行為とその意義を重ね合わせ、実績配当主義のモデル分析とそのもとでの信託の金融仲介機能についての考察を信託制度の機能としての実績配当主義の把握に展開していきたい。とりわけ実績配当主義のもとでの信託行為がリスク調整を経済的な実体とすることに注意を払い、実績配当主義によるリスクの配分と負担の観点から信託行為とその意義を明らかにすることが主眼となるであろう。 第二に信託制度の機能としての実績配当主義のさらなる考察である。第一の課題にも関連づけて、実績配当主義が規定する信託におけるリスクの配分と負担、実績配当主義による信託の金融仲介に対する新たな独自性の付与を信託制度の機能として定式化し、とりわけ信託の固有な金融仲介機能に対する効果に即して、こうした機能としての実績配当主義の分析・解明を進めたい。 さらに第三に実績配当主義と信託制度の最適化についての考察である。信託制度の機能としての実績配当主義の把握を一層深める論点として、信託におけるリスクの配分と負担の観点から、信託の固有な金融仲介機能に対応した最適な信託制度の構築についての理論的な考察に着手することを構想している。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度の直接経費に残額が生じたのは会計上の純技術的な理由のためであって、具体的には当該年度末直近の平成26年3月下旬に国際学会への出張(海外)が入り、その精算が年度内に完了せず、他の費目に最終的に支出可能な金額が平成25年度内に確定できなかったという事情による。 平成25年度の直接経費に残額が生じたのは、年度末直近の時期(平成26年3月下旬)に入った海外出張について精算が年度内に完了せず、他の費目に最終的に支出可能な金額が平成25年度内に確定できなかったという会計上の純技術的な理由のためである。したがって平成25年度の直接経費の一部が平成26年度に繰り越されてはいるが、これは実質的に平成25年度の購入計画に含まれる部分であり、実際にも平成26年4月中旬までに全額の支出が完了している。なお以上の経過は支払証票によってすべて裏付けられることを付記する。
|