2015 Fiscal Year Research-status Report
実績配当主義の基礎研究:信託におけるリスクの配分と負担
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24530381
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Research Institution | Kyushu International University |
Principal Investigator |
西山 茂 九州国際大学, 経済学部, 教授 (20289565)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 金融論 / 信託 / 実績配当主義 / 金融仲介機能 / リスク負担機能 / 信託法 / 金融制度 / 金融仲介機関 |
Outline of Annual Research Achievements |
この研究課題は信託制度に本質的に内在する実績配当主義の原則について金融機関論および金融制度論の立場から理論的に考察することを意図している。 前年度までの成果を踏まえて、本年度は信託の社会的リスクシェアリング機能、金融システムにおける信託制度の機能、実績配当主義のリスク管理としての理論的な一般化の三つの論点について考察を行うことができた。なかでも本年度の成果として、昨年度からの継続として取り組んできた金融システムにおける信託制度の機能の解明に際して所有権の概念を適用した分析を進めることができている。ここでは信託において形成される所有権に着目することにより、受益権および実績配当主義について信託に独自な所有権の構造との関連を捉えるとともに、信託における所有権を経済的所有権として定式化して、金融システムへの信託制度の包摂とこれにより生じる金融構造に対する作用について制度の理論的な諸概念を適用した検討に着手することができた。 この考察を通じて把握することができた経済的所有権の概念と信託に対するその適用可能性は他の二つの論点の究明にも新たな理論的・方法的基礎を与えている。第一の信託の社会的リスクシェアリング機能の考察においては、信託行為の経済的な実体がリスク調整であることを示すとともに、異なるリスク選好を有する経済主体の間での信託の社会的リスクシェアリング機能をこのリスク調整に基づいて定式化した。その際、信託行為が所有権の形成に同時に関与することを捉え、両者を一体化して分析する観点を見出すことができている。第三の実績配当主義のリスク管理としての理論的な一般化においては、信託の実績配当主義に関する考察をより一般的な金融仲介の理論的考察に展開し、とりわけ市場型間接金融とそこにおけるリスク管理の問題が資金余剰主体と金融仲介機関の間での経済的所有権の分割を基礎として把握できることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
この研究課題が一貫して主眼を置くのは以下の四点である。①実績配当主義のもとでの信託の金融仲介機能(特にリスク負担機能)とその独自性の解明、②信託制度の機能としての実績配当主義の定式化とその分析、③直上の②の分析と機能の把握に基づく金融システムにおいて信託制度が果たす役割の理論的な解明、④以上の成果を基礎とした市場型間接金融における金融仲介機関のリスク管理の解明に向けての実績配当主義の理論的な一般化の検討、である。 本年度は以上の四点のうち、主に②と③の研究に重点的に取り組み、さらに④の検討にも順調に着手することができた。それぞれにおいて当初の研究計画に基づく着実な進展が得られただけでなく、これまでの研究成果を総合する新たな論点を見出すことができている。具体的に示せば、研究実績の概要でも言及したように、③の金融システムにおける信託制度の機能の解明に際しての制度の理論的な諸概念の適用に他ならない。なかでも本年度には信託において形成される独自な所有権の構造を捉え、さらにこれを経済的所有権として定式化することにより、本研究課題が主眼とする他の論点に対しても所有権の概念を適用できる可能性が見出された。この適用可能性によって、実績配当主義に関する制度的な理解と信託の金融的・実体的な考察とを制度理論の概念によって一体化し、金融制度論として統一的に再構成する展望が得られている。とりわけこれまでは主として意思決定の帰属とその調整によって信託制度の機能と関連づけられていた信託機関によるリスク負担機能、信託を通じた社会的なリスクシェアリング、リスクの配分と負担の観点からみた信託制度の最適化、金融システムに包摂されることにより信託制度が有する金融構造への作用といった論点の解明に対して、経済的所有権とそれによって形成される信託固有のインセンティブを一貫した理論的基礎とする端緒が得られている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの期間を通じて研究は順調に推進できており、現在のところ遂行するうえで特別な問題等はみられない。本年度は研究課題を理論的・方法的に充実できる新たな論点を見出すこともできた。次年度以降についても、当初の構想と研究計画に従い、かつこれまでの成果に基づいて着実に推進できると考えられる。次年度は本年度の考察の展開として以下の三点を課題とする。研究期間の最終年度でもあるので、本研究課題の総括と今後のさらなる展開を併せて追求したい。 第一に金融システムにおける信託制度の機能である。具体的な論点に即した研究を進めるとともに、信託の社会的リスクシェアリング機能を中心とした本研究課題の理論的な成果を総合していく。異なるリスク配分・負担機能を有する金融制度(と金融仲介機関)の併存と金融システムにおけるその効果の解明に引き続き重点を置きつつ、実績配当主義のもとでの信託の金融仲介機能、信託行為の意義、信託におけるナッシュ均衡の形成、信託制度の最適化といったこれまでの成果を積極的に取り入れ、金融システムにおける信託制度の機能の解明を豊富化する。 第二にリスク管理としての実績配当主義の理論的な一般化である。本年度からの継続として、金融仲介機関のリスク管理とその意義、金融仲介機関によるリスク管理と資金余剰主体による最終的なリスク負担との関連などの論点を考察する。これまでの研究で解明された信託における意思決定の帰属、経済的所有権とその独自性の把握を市場型間接金融の一般的なリスク管理の問題に積極的に適用していきたい。 第三に研究成果の総括と今後の研究課題の展望である。本研究課題の成果を総括し、今後における信託研究の課題・論点を整理する。併せて一般理論の機械的な適用に陥らないように留意しつつ、本研究課題による成果を金融機関論・金融制度論に適切に位置づけ、その理論的意義を明確にする。
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Causes of Carryover |
平成27年度の交付額(直接経費)に次年度使用額が生じたのは会計上の純技術的な理由による。具体的には、当該年度末直近の平成28年3月下旬に国際学会への海外出張が入り、その精算が年度内に完了せず、またこれと併せて他の費目に最終的に支出可能な金額が平成27年度内に確定できなかったという事情のためである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度の交付額に次年度使用額が生じたのは、当年度末直近の時期(平成28年3月下旬)に入った国際学会への海外出張について旅費等の経費精算が年度内に完了せず、かつ他の費目に最終的に支出可能な金額が平成27年度内に確定できなかったという会計上の純技術的な理由のためであった。したがって平成27年度に配分された直接経費の一部が平成28年度に名目上繰り越されているが、これは実質的に平成27年度の使用計画に含まれる部分(年度内の支出の一時的延長)であり、実際にも次年度使用額の大半を平成28年3月から4月の間にすでに支出・精算している。以上の経過は支払証票によってすべて裏付けられることを付記する。
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Remarks |
「科学研究費助成事業」『九州国際大学:平成27年度大学要覧』p. 15.
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