2013 Fiscal Year Research-status Report
中華人民共和国成立直後の中国江南における土地改革の実証的研究
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24530385
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Research Institution | Hokkaido University of Education |
Principal Investigator |
夏井 春喜 北海道教育大学, 教育学部, 教授 (80155978)
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Keywords | 土地改革 / 中国江南 / 田面権 |
Research Abstract |
本研究計画は、地方新聞・文書資料等の一次資料に基づいて、中国江南地方の土地改革の実態を実証的に考察するものである。方法として、(1)資料の調査・収集に重点を置き、(2)近代の地主-佃戸関係の変化という長い時間の中で土地改革を位置づける、(3)他地域との比較を行う、という3点を取っている。 平成25年度は本研究計画の第二年度に当たり、前年度と同様に資料調査を中心に行った。海外の資料調査では、11月と3月に上海図書館、蘇州市档案館、江蘇省档案館、南京大学、蘇州大学等を訪問し、所蔵資料の調査を行った。江南の土地改革の基本資料である『蘇南土地改革文献』、『蘇南日報』等の調査・収集を行った。昨年度までの分を含めると江南の土地改革に関する基本資料・新聞資料の大部分については調査を完了した。档案資料については、閲覧可能なものについて調査を行い筆写、或いは複写による収集を行った。国内については、アジア経済研究所等を訪問し、他地域の土地改革、中華人民共和国初期の文献・資料の収集を行った。 近代の地主-佃戸関係の中で位置づけるという点においては、平成26年2月に土地改革前の江南の地主制についてのこれまでの研究成果として『中華民国期江南地主制研究』を出版することができ、土地改革の前提条件を確定することができた。土地改革前、耕地の6割を占める租桟地主は、戦争の混乱等により収租力を大幅に低下させる一方、在地においては佃戸の自耕農化が進行していたこと、都市の租桟地主が政権の支持が喪失したことにより、土地改革への阻止力とはならず、地主批判は催甲・郷長等の在地の顔役・小地主に向けられ、田面権を持った佃戸の一部には土地改革へ懐疑的動きがみられることなどの知見をえることができた。これらの知見は今後より精査し成果として学会発表、論文等の形で公表する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究計画は、地方档案館所蔵資料、新聞資料等を用いて中華人民共和国成立直後の中国江南地方の土地改革の実態を実証的に考察するものである。以下の点から、本研究計画はおおむね順調に遂行されている。 第一に、一次資料の調査・収集において、中国江南の土地改革の基本文献である『蘇南土地改革文献』・『蘇南政報』・『華東政報』・『江蘇省農村調査』・『蘇南日報』等についいてはすでに調査・収集が終わっており、今後『蘇南大衆』・『解放日報(上海)』・『新蘇州報』等が残っているが、平成26年度には完了できる予定である。档案館資料については、呉江区档案館、常熟市档案館、蘇州市档案館、江蘇省档案館を訪問し、閲覧可能な資料についてかなりの分量を筆写、あるいは複写による収集を行っている。第二に、近代江南の地主-佃戸関係の中で、土地改革を位置づけるという点においては、土地改革前、特に戦時期の実態と変化について、『中華民国期江南地主制研究』において考察を行い、土地改革時期の一次資料の分析において、その前提条件を確定することができた。第三に、江南の土地改革の特徴を捉えるため、他地域、特に蘇北と比較分析するという点に関して、蘇北については『蘇北土地改革文献』及び当該時期の新聞のマイクロフィルムによってその実態の考察を行っている。また、中南地区・華南地区についても、国内外の大学・図書館を訪問し、調査・収集を行っている。また日本及び中国での土地改革あるいは中華人民共和国成立時期の状況についての研究論文・著書についてもできるだけ網羅的に収集を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度は本研究計画の最終年であり、次の3点についての計画を遂行する予定である。 第一は、資料の調査収集である。海外調査では6月及び10月~11月の2回中国で資料調査を予定している。6月は呉江区档案館、蘇州市図書館、10月~11月は上海図書館を訪問し、調査・収集を行う。呉江档案館では在地文書資料、蘇州市図書館。上海図書館は、新聞・雑誌及び地方市鎮の地方志資料の調査・収集を行い。このことによって、江南地域の土地改革資料の中で収集可能なものについては、かなりの程度調査収集ができると思われる。また1月頃台湾中央研究院の調査も予定している。国内では、東京において東洋文庫・東京大学・アジア経済研究所等において、引き続き土地改革及び農村関係資料の資料の調査収集を行う。またこの調査・収集過程で、中国及び日本の学者等と資料・研究方法等についての情報交換、討論等を行う予定である。 第二は、収集した資料の分析である。時間や閲覧制限等の問題等があり、江南全体を対照することは不可能であるため、呉江・蘇州等一部の地域を対象にして分析を行いたい。そこではこれまでの知見を踏まえて、次の点に重点をおいて分析を進めたい。(1)近代江南の地主制の変化の中で土地改革を位置づけることである。租桟地主制は中華人民共和国成立時既に崩壊に瀕しており、阻止力にはならなかったことを実証的に分析したい。(2)土地改革で批判された地主のどのような存在であり、その批判がどのような政治的意味を持つのかを考察することである。(3)田面権が土地改革過程で、どのように処理をされ、それを所有した佃戸が土地改革に対して如何なる態度をとったのかという点である。 第三は、考察の成果の公表である。学会・研究会での発表を7月と11月に予定しており、また論文等での公表も、平成26年度以降に行う予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成26年度に次年度使用額が生じたのは、第一に、国内の大学・研究機関での土地改革の資料調査において、東京2回及び名古屋・関西を予定していたが、東京の1回は旅費及び1日の宿泊費が先方(東洋文庫)負担でがあり、名古屋・関西も大学の研究費によって出張を行ったこと。国外の中国での11月の出張の宿泊費・食費等の一部が先方(上海師範大学)負担であり、その分余剰が発生した。第二に、図書の購入を予定より少なめに押さえたこと。第三に、助手の帯同費が謝金ではなく、旅費項目から支払われた等が、主な要因である。 平成26年度は前年度からの繰り越し約44万円と併せて約174万円となり、次のような使用計画を立てている。 まず物件費として、『解放日報(上海)』の1949年~1952年分のDVDと、関係図書購入のため30万円程度を予定している。さらに、プリンタートナー、記録媒体費用等の購入費として6万円程度を予定している。外国旅費は、中国に2回(6月、10~11月)、台湾中央研究院に1回、中国での調査では筆写等のために助手の帯同を予定しており、併せて111万円程度を予定している。国内では、東京(東京大学、東洋文庫、アジア経済研究所等)に2回、九州地区の大学に1度の3回の調査、27万円を予定している。謝金については、助手の分は旅費に含まれることから使用しない。またその他も複写費は他の経費から支出する予定である。本研究計画では資料の調査・収集が主となり、旅費が約8割を占めている。
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Research Products
(4 results)