2014 Fiscal Year Research-status Report
戦前日本の府県別実質賃金の推計:1890~1930年代の農業部門の動向を中心に
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24530391
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
荻山 正浩 千葉大学, 人文社会科学研究科, 教授 (90323469)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 農業 / 市場 / 労働供給 / 賃金 / 農家 / 農業生産力 / 労働市場 / 家計所得 |
Outline of Annual Research Achievements |
戦前の日本では、農業生産の動向は農家の労働供給に影響を与え、実質賃金の水準を左右する最大の要因であった。そこで農業生産の動向に関して下記の3つの課題を遂行した。 1 長崎県島原半島の事例研究 日本では、市場経済の発展によって、農家は市場から安価な肥料を調達し、市場へ農産物を売却することで収益の増加を実現したと考えられてきた。しかし、そこで見逃されてきたのは、市場経済の発展に対する農家の反応には著しい地域差が存在した点である。そこで、自給自足の比重が高い農業が営まれていた長崎県島原半島を対象とし、統計資料に加えて地主の経営資料や村是調査などを用いて、1910~20年代にかけて域外との市場の統合が進むなかで、農家がそれにどう対応したかを分析した。その結果、この地域の農家は収入面では市場への依存を強め、養蚕によって市場から多くの収入を稼ぐ一方で、支出面では市場への依存を控え、稲藁などを用いて自給肥料を増産し、それを多投して市場からの肥料の購入を抑制することで、農業経営の剰余の増加を達成したことが判明した。そこで、この成果に関してワーキングペーパーにまとめた。 2 戦前日本の府県別農業生産力の推計 戦前の日本では、当初農業技術の水準が低かった後進地域ほど、農業生産力が速いペースで上昇した。これは、後進地域の農家が先進地域から進んだ技術を導入することで、農業生産力の急速な上昇を達成できたためである。そこで、1890~1920年代を対象とし、公刊統計と各種調査を用いて、府県別に土地生産性に代表される農業生産力を推計するとともに、先進地域から後進地域への技術伝播によって各府県の水稲と養蚕の生産力がどう変化したかを分析した。 3 県庁文書の調査 奈良県立図書情報館と秋田県公文書館において、肥料の使用状況や農業技術の改良に関する記録をまとめた戦前の県庁文書を調査する作業を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度、長崎県島原半島の事例研究に関して追加調査を行い、その分析結果をワーキングペーパーにまとめる作業を行うことを予定していたが、所属機関の改組にともない学内委員として教務と入試の業務の担当を命ぜられたため、当初の計画と異なり、研究活動に充分な時間を割くことができず、計画の進展が大幅に遅滞することとなった。これに対して今年度は、昨年度の遅れを挽回し、島原半島の事例研究に関して研究成果をワーキングペーパーにまとめ、府県別の農業生産力の動向を分析する作業を開始し、新たに県庁文書の調査を実施することもできた。こうした事情を考慮し、研究計画がおおむね順調に進展していると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
「研究実績の概要」で記した昨年度の研究を継承して、下記の3つの課題を遂行する。 1 長崎県島原半島の事例研究 1880~1920年代にかけて、長崎県島原半島では、域外との市場の統合が進むなかで、農家は、養蚕によって市場から多くの収入を稼ぐ一方で、自給肥料を増産し、市場からの肥料の購入を控えて支出を抑制することで、農業経営の剰余の増加を達成した。この点をまとめたワーキングペーパーに関して、さらに追加調査の結果などをふまえて改訂し、学術誌に投稿して公刊を目指す。 2 府県別の農業生産力と農家の家計所得の推計 農業生産力の地域的な違いが農家の家計所得にいかなる影響を与えたかを解明するため、府県別に農家の農業経営の剰余を推計する作業を行う。まず各府県に関して、1880~1920年代にかけて肥料購入費と小作料に代表される農家の農業経営の耕地1反あたり経費を推計する。さら府県ごとに、昨年度行った府県別の農業生産力の推計結果から、農家の農業経営の耕地1反あたり収入を求め、収入から支出を差し引いた農家の農業経営の剰余がどう変化したかを分析する。この研究は、農業生産力と農家の農業経営に関して府県別に基礎データを整理する意味を持つので、ワーキングペーパーにまとめ、改訂のうえ所属機関の紀要に発表することを予定している。 3 県庁文書の調査 堆肥などの自給肥料に対する依存度の高かった東北と九州の各県を対象として、堆肥の原料となる山林の下草の採取量と農業生産の動向との関係を分析するため、林野ならびに農業経営に関して作成された戦前の県庁文書を調査する。
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