2014 Fiscal Year Research-status Report
戦後日本の地域における「福祉社会」形成過程の基礎的実証研究
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24530393
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
大門 正克 横浜国立大学, 国際社会科学研究院, 教授 (70152056)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 経済史 / 福祉 / 福祉国家 / 医療 / 生活改善 |
Outline of Annual Research Achievements |
調査研究は、戦後「福祉社会」の形成過程について、医療保健と生活改善の両面から進めるものであり、岩手県を中心にして岡山県を加えて実施した。 平成26年度の岩手県の調査研究は、医療保健と生活改善(生活)の両面から行なった。医療保健の県レベルについては、今までに収集した資料の分析をいっそう進めた。生活改善(生活)については、県レベルで収集した資料を深く検討し、市町村レベルでは、岩手県北上市(旧和賀町)で収集した町役場や婦人会、生活改良グループ、生活記録などの資料の分析をさらに進めた。特に今年度は、和賀町の高度成長期の分析を行い、生活改良グループが取り組んだ家計簿記帳について検証を深めた。岩手県の調査と関連して、宮城県仙台市と福島県福島市で調査を行なった。本年度は、資料の分析とさらなる収集につとめ、コピーによる資料収集と複写物の整理、資料目録の作成のために調査補助を依頼し、補助者に謝金を支払った。以上の結果、1950年代の岩手県では、岩手県国民健康保険団体連合会を中心にして国民健康保険(国保)を活用した直営診療所の設置、国保給付水準の引き上げ、乳幼児死亡率の低減が図られていることがいっそう解明され、市町村レベルの和賀町では、医療保健と生活改良、生活記録を組み合わせた取り組みが町役場と女性団体の連携で進められている過程が詳細に判明し、さらに1960年代の和賀町では家計簿記帳を軸にした生活改良グループの活動が活発な様相が明らかになった。岡山県については、岡山県にあった農業労働調査所の関係資料の調査を労働科学研究所(神奈川県)で行い、今後の岡山県での調査研究の準備を整えた。 調査研究の成果を検討するために、福祉社会に関心をもつ研究者の間で研究会を開いて報告をした。また、福島市で研究テーマに関連するフォ―ラムの準備会を開催し、研究成果の社会還元につとめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在まで、研究はおおむね順調に進展している。特に岩手県については、当初の計画以上に進展している。岡山県の研究の達成度が調査の準備段階だったので、全体としてみれば、おおむね順調に進展という評価になる。 岩手県については、調査が順調に進展し、調査結果の分析に基づいた戦後「福祉社会」形成過程の研究が順調に進んでいる。調査分析は、県レベルの医療保健について岩手県庁、岩手県立図書館、岩手県国民健康保険団体連合会で本格的に進め、市町村レベルでは、岩手県北上市(旧和賀町)での調査と検討を深く行った。生活改善(生活)については、県レベルで実施した岩手県立図書館や岩手県国民健康保険団体連合会、東北農業研究センターの資料を検討し、市町村レベルでは、和賀町で町役場や婦人会、生活改良グループ、生活記録などの調査分析をいっそう進めた。 収集資料の分析を始めた結果、1950年代の岩手県では、岩手県国民健康保険団体連合会を中心にして国民健康保険(国保)を活用した直営診療所の設置、国保給付水準の引き上げ、乳幼児死亡率の低減が図られていること、市町村レベルの和賀町では、医療保健と生活改良、生活記録を組み合わせた取り組みが町役場と女性団体の連携で進められていることがわかった。1950年代の岩手県では、県レベルと市町村レベルの両方で、農家女性の過重労働と高い乳幼児死亡率の問題に対応する取り組みが実施されており、戦後「福祉社会」形成の重要な内容が把握されつつあるといっていい。市町村レベルの取組みは、高度成長期の1960年代にも継続している。これに対して岡山県については、今後の岡山県での調査研究の準備を整えた。 これらのなかで、本年度は、和賀町についての1960年代の研究を進めた。また、福島市で研究テーマに関連するフォ―ラムの準備会を開催し、研究成果の社会還元につとめた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、平成26年度の成果をふまえ、引き続き、戦後日本の「福祉社会」形成過程について、東北日本の岩手県を主たる対象地とし、比較の目的で西日本の岡山県を加えて基礎的実証的研究のさらなる進展をはかる。近現代日本の地域の「福祉社会」形成過程は、医療保健と生活改善(生活)の連携を特徴とするので、引き続き、医療保健と生活改善(生活)の両面から調査研究を進める。 岩手県では、すでに進めている県レベルと市町村レベルの調査研究を本格的に発展させる。県レベルの医療保健については、岩手県庁、岩手県立図書館、岩手県国民健康保険団体連合会で本格的調査を継続し、市町村レベルでは、岩手県北上市(旧和賀町)での調査研究を継続していっそう進める。生活改善(生活)については、県レベルで岩手県立図書館や岩手県国民健康保険団体連合会などで調査研究を進め、市町村レベルでは、和賀町で、町役場や婦人会、生活改良グループ、生活記録などの調査を継続して進める。以上の中でも、今年度は、市町村レベルにおける戦後「福祉社会」の形成過程の基礎的実証を本格的に進め、1950年代から1960年代にかけて見通しを得るようにつとめる。平成26年度からは、調査研究において聞き取りを併用して進める。岡山県については、平成25年度の調査の準備をふまえ、岡山県庁や岡山県立記録資料館などで調査研究を進め、岩手県との比較を可能にする。 資料の全貌把握と資料目録作成を進め、コピーやマイクロフィルムによる資料の収集を図る。複写物の整理、資料目録の作成のために調査補助を依頼し、補助者に謝金を支払う。 以上の調査内容の分析を進め、福祉社会に関心をもつ研究者の間で研究会を開いて報告をし、意見交換を進めるとともに、平成25年度以降において、関連する学会で自由論題報告やパネルディスカッションに取り組み、研究成果を発表して、広く共有を図る。
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Causes of Carryover |
調査地に関する専門書(古書)を購入することができなかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
関連する専門書が発刊されたので(北河賢三『戦後史のなかの生活記録運動』岩波書店、2014年10月)、この本で使われている資料のうちで、入手可能なものを購入する。
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