2013 Fiscal Year Research-status Report
20世紀前半インド証券取引所の機能不全と私的公的統治の失敗:未刊行史料が語ること
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24530403
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
野村 親義 大阪市立大学, 文学研究科, 准教授 (80360212)
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Keywords | インド / 証券取引所 / 植民地 / 経営代理制度 / タタ / 1930年代 |
Research Abstract |
本研究の目的は、1875年設立されたインドの証券取引所が1920年代初頭機能不全に陥り、1990年代までその機能を回復しなかった原因を解明することである。その際、政府や証券取引所自身が証券取引所における取引参加者間の情報の非対称性を是正するルール構築に失敗したことに注目しつつ、公文書館保有の未利用一次史料と最新の経済制度論を用い、分析を行う。 平成25年度は、主として次の三つの作業を行った。一つ目は、インドにおいて史料の収集を行ったことである。12月から1月にかけてインドに赴き、DelhiとChannaiにおいて、証券取引所関連一次史料の収集作業を行った。二つ目は、大阪において、二度外部専門家を招いた研究会を開催したことである。7月と12月、植民地期インドにおける証券取引所を含む各種政治・経済制度や、これら政治・経済制度の動向に大きな影響を与えた同時期のインド政治情勢に関し、国内の専門家と意見交換ができたことは大変有益であった。三つめは、平成24年度から開始した当該研究プロジェクトの研究成果の一部を国際誌に投稿し、受理・掲載されたことである。平成25年度4月にThe Origin of the Controlling Power of Managing Agentsというタイトルの論文をThe Indian Economic and Social History Reviewに投稿し、12月に受理、平成26年3月に刊行・掲載された。掲載されたThe Indian Economic and Social History Reviewは、初刊から半世紀以上たつインド史研究の代表的な雑誌で、当該研究プロジェクトの研究成果の一部が、このような雑誌に掲載されたことは、当該研究プロジェクトの成果公表のありようとして大変有意義であると思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該研究プロジェクトは当初、次の4点の解明をその課題としていた。1.1920年代初頭のインド証券取引所機能不全の実態解明、2.この機能不全の原因として、第1次大戦期の戦争特需と金融緩和政策によるインフレ・投機バブルで、証券取引参加者間の情報の非対称性が増大し、かつ情報の非対称性是正に有効なルール構築に証券取引所自身および政府が失敗した、という仮説の検証、3.1920年代初頭以前の証券取引所の機能の実態解明、4.独立前後まで続く証券取引所の機能不全の実態解明。これらの点に関し、国際的な学術雑誌に掲載される論文を執筆すること、および論文執筆過程で得た知見を元に植民地期インドの証券取引所を含む金融制度に関する概説書を日本語で執筆することが、研究期間内の課題である。 平成25年度は、証券取引所で株式を売買する株式会社の経営大綱に大きな影響を与える主要株主のありようを明らかにした論文を、国際的な学術雑誌に投稿し、受理・掲載された。この論文は、上記4課題の全てに関係する論点を扱っており、この論文の受理・掲載は、当該研究プロジェクトの進展に大きく貢献した。 また、平成25年度は、インドにおいて更なる史料調査を行い、課題4の解明に有用な史料の発見を行った。当該史料を活用した論文作成は今後の課題であるが、課題4の解明に向けた大きな一歩を踏み出せたものと思われる。 最後に、平成25年度は、これら4課題を解明するのに有用な、最新のゲーム論、経済制度論に関する2次文献を読み込むことにも多く時間を割いた。これら最新の理論的考察を行ったことは、過去二年間インドにおいて収集した史料の理論的整理に、大きな助けになるものと期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
申請時の「研究計画・方法」において、平成26年度の課題を次のように定めた。「26年度終了後までには、本研究の個別テーマである、1.1920年代初頭のインド証券取引所機能不全の実態解明、2.この機能不全の原因として、第1次大戦期の戦争特需と金融緩和政策によるインフレ・投機バブルで、証券取引参加者間の情報の非対称性が増大し、かつ情報の非対称性是正に有効なルール構築に証券取引所自身および政府が失敗した、という仮説の検証、3.1920年代初頭以前の証券取引所の機能の実態解明、4.独立前後まで続く証券取引所の機能不全の実態解明の、4つのテーマについてディスカッション・ペーパーを仕上げ、このディスカッション・ペーパーを元に国内外の研究会や学会で発表を行う。」 平成24年度・25年度の作業において、1,2、3に関しては、すでに大枠において作業を終了している。また、上述のように、1から4に連なる、証券取引所で売買する株式の発行主体である株式会社の動向を決定する大株主の有様についても、すでに論文を刊行している。そのうえで、26年度は、次の二つの作業が主たる作業となる。一つ目は、課題4に関する考察を進め、論文を執筆することである。二つ目は、イギリスもしくはインドに赴き、課題4の論文執筆に必要な史料を収集することである。最後に、5月段階で特別な予定は立ててはいないが、必要があれば昨年度同様研究会を企画し、国内外の当該研究に関係する研究者の方々から、意見を伺う場を設ける。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は、旅費の執行が予定通りにいかなかった。最大の原因は、夏季・春季休暇期間に、学務その他の事情で海外での史料調査ができなかったことによる。すでに入手済みの史料を用い研究は順調に進んでいるが、新たな史料発掘の更なる機会を得ることができなかったことが、予算執行計画が予定通りにいかなかった最大の理由である。人件費に関しては、論文の英文校閲の費用として計上した額があったが、平成25年度に刊行した論文に関しては友人がこの校閲を行ってくれ、当該研究予算を用いる必要がなくなった。 平成26年度は、夏季・春期休暇を有効に利用し、昨年度十分に進められなった史料調査を積極的に行う予定である。また、これまで書き溜めた論文原稿がいくつかあり、平成26年度はこれら論文をワーキングペーパーとして回覧予定である。ワーキングペーパーとして回覧するに際し、英文校閲を受ける必要がある。この英文校閲に、一定程度の予算を用いる予定である。
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Research Products
(1 results)