2014 Fiscal Year Research-status Report
20世紀前半インド証券取引所の機能不全と私的公的統治の失敗:未刊行史料が語ること
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24530403
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
野村 親義 大阪市立大学, 大学院文学研究科, 准教授 (80360212)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 証券取引所 / インド / 植民地 / 経済制度 / ボンベイ / 株式会社 / 工業化 / 経営代理制度 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度の主たる作業は2種の作業からなる。1.収集した史料を基に、20世紀前半のインドにおける証券取引所の機能のありようや、その機能に影響をあたえた経済政策や要素賦存のありようを解明する論考を執筆・報告する。2.追加的な史料をインドもしくはイギリスにおいて調査・収集する。各々の仔細は以下の通りである。
1. まず、「英領インドの企業」田辺他編『多様性社会の挑戦』東大出版会を刊行した。この論考は、一方で、世界有数の近代的企業を有した英領インドの企業発展にとって、19世紀中葉に構築された有限責任制株式会社制度や、株式売買の場である証券取引所が重要な役割を果たしたことを明らかにした。他方、証券取引所が時として機能不全に陥っていたことも指摘し、その機能を補完する制度として、経営代理制度と呼ばれる日本の財閥と類似の制度が発達したことも明らかにした。このほか平成26年度は、株式会社制度に基づいて、19世紀半ば以降インドに世界有数の大規模企業が発達したことを、企業レベルの資本・労働者数の米英日印の比較をもとに明らかにする論考を執筆した。加えて、第1次大戦期のインフレと、取引を規制する証券取引所自身のルールの不備、およびそれを補完する公的規制の構築失敗により、1910・20年代インドの証券取引所は機能不全に陥り、この機能不全が、当時インド最大の製造会社タタ鉄鋼所の長期資金調達を阻害したことを明らかにする論考を執筆した。これらの論考は、近々世に問う予定である。また、研究報告「植民地経験とインドの工業化」も行った。この報告は、経済史家が注目してきた経済政策や要素賦存に加えて、証券取引所の機能不全にみられる経済制度の不十分な発達も、植民地期インド工業化停滞の重要な要因であること数量・記述データを用いて論じた。
2. 9月にインドで、12月から1月にかけてインドとイギリスで追加的な史料の調査・収集を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該研究課題は、次の4つを具体的な研究目的としている。1.1920年代初頭のインド証券取引所機能不全の実態解明、2.この機能不全の原因として、第1次大戦期の戦争特需と金融緩和政策によるインフレ・投機バブルで、証券取引参加者間の情報の非対称性が増大し、かつ情報の非対称性是正に有効なルール構築に証券取引所自身および政府が失敗した、という仮説の検証、3.1920年代初頭以前の証券取引所の機能の実態解明、4.独立前後まで続く証券取引所の機能不全の実態解明。 平成26年度は、まず、研究目的1から研究目的4にまたがる概説的な論考を日本語で刊行した。加えて平成26年度は、研究目的2と研究目的3に関する詳細な論考二編の執筆をほぼ完了することができた。この二編の論考は平成27年度に発表されるものと思われる。 論考執筆に加え、平成26年度は、合計5週間程度、インド・イギリスにおいて史料調査・収集を行った。この史料調査・収集作業により、これまで収集してきた史料が明らかにする20世紀前半のインド証券取引所の機能のありように影響を与えた当時の経済政策や要素賦存、ならびに20世紀前半のインド証券取引所の機能の基礎を構築した19世紀後半のインド証券取引所の機能のありようを明らかにするに有用な史料を調査・収集することができた。 さらに平成26年度は、証券取引所の機能のありようを解明するに資するゲーム論などの経済理論に関する考察を深めるとともに、植民地期インドの証券取引所や株式会社制度に関する社会経済史・法社会史的論考を読み進めることができた。これらの作業は、当該研究課題が掲げる研究目的の解明に、大変有益な視覚を提供してくれている。
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Strategy for Future Research Activity |
申請時の「研究計画・方法」において、26年度終了後までに、次の作業をおえるとしていた。「本研究の個別テーマである、1.1920年代初頭のインド証券取引所機能不全の実態解明、2.この機能不全の原因として、第1次大戦期の戦争特需と金融緩和政策によるインフレ・投機バブルで、証券取引参加者間の情報の非対称性が増大し、かつ情報の非対称性是正に有効なルール構築に証券取引所自身および政府が失敗した、という仮説の検証、3.1920年代初頭以前の証券取引所の機能の実態解明、4.独立前後まで続く証券取引所の機能不全の実態解明の、4つのテーマについてディスカッション・ペーパーを仕上げ、このディスカッション・ペーパーを元に国内外の研究会や学会で発表を行う。」 平成24年度から平成26年度までの間、これらのテーマに関する査読付き国際学術論文を1本刊行し、加えて、ディスカッション・ペーパー、概説的論考を合計2本刊行した。さらに、平成27年度に発表予定のディスカッション・ペーパー2本はすでに執筆が完了しており、研究は予定通り順調に進展している。 平成27年度は、執筆したディスカッション・ペーパーの発表を行うとともに、本研究課題で書きためた3本のディスカッション・ペーパーに対しなされたコメントをもとにディスカッション・ペーパーの議論を修正し、国際学術論文に投稿していく予定である。 また、これら作業に必要であれば、適宜インド・イギリスに赴き、補完的な史料の調査・収集を行う予定である。
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Causes of Carryover |
平成26年度に次年度使用額が生じた最大の理由は、平成26年度に執筆した2本の論考を、ディスカッション・ペーパーとして発表するに際し準備していた英文校正作業が行えなかったことである。そのため、平成26年度は人件費・謝金の支出がなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成26年度、すでにディスカッション・ペーパー2本の執筆は終了しており、平成27年度早々に、これらを英文校正に回す予定である。加えて、これら以外にも執筆途中のディスカッション・ペーパーがあり、平成27年度はこれらの英文校正にも大きな予算を要することとなるものと思われる。
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Research Products
(2 results)