2012 Fiscal Year Research-status Report
開発援助金融とドイツ:1956-1972年 -世界銀行融資との関連において-
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24530410
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Aichi Shukutoku University |
Principal Investigator |
石坂 綾子 愛知淑徳大学, ビジネス学部, 教授 (40329834)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 世界銀行 / ドイツ |
Research Abstract |
平成24年度については,世界銀行がドイツによる多様な流動性供給によって,西ヨーロッパ諸国や日本,インドなどの諸国のインフラ・エネルギー事業への融資を実施したことを明らかにした。詳細については,以下の通りである。 1950年代後半,ドイツは経常収支黒字により金・ドル準備を蓄積し,資本輸出を要請された。ドイツは固有の旧植民地との関係が断ち切られていたため,世界銀行を通じて多国間の途上国援助を実施することが,国際貢献をアピールする上でも好都合であった。また,ドイツの輸出産業は世界銀行の大規模プロジェクトに関与することによって,途上国への資本財・投資財輸出において,世界市場での競争力が高まることを期待した。 以上の判断から,世界銀行への資金的貢献は多様な形態で実施された。世界銀行へのローン[期間:1~3年,利率:2.5~4.5%]は56年以降にドイツ連邦銀行を経由し,ドルおよびマルクで実施され,61年には総額6億2,500万ドルに達した。また,ドイツの世界銀行出資金は3億3,000万ドルであり,このうち18%分は5,940万ドル(= 2億4,948万マルク)であった。この出資金マルク18%分が50年代後半に解除され,セイロン(Laxapana, 948 万マルク),パキスタン(Karachi, 301万マルク),インド(Trombay, 1,000万マルク)の発電事業などに利用された。 59年4月には,初めてのマルク建て債券[2億マルク,5%,15年満期]が発行された。この債券は,ドイツ銀行を主幹に,73金融機関が参画してシンジケート団を組成した。ドイツによる世界銀行へのローンは,この債券として国内の8つの資本市場でフロートされた。この結果,ドイツは,50年代後半には世界銀行に対してアメリカに次ぐ第2の資金供給国となったのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究において,第1の課題は,世界銀行がドイツから調達した資金は開発途上国に融資されたが,このような資金が世界銀行を通じてどこの国のどのようなプロジェクトに融資されるのか,またその融資はどのような方針やプロセスを経て実施されるのかを明らかにすることであった。 上記の課題についての解明が進み,研究目的はおおむね順調に進展している。世界銀行の加盟国は出資金のうち2%を金・ドルで,18%分を加盟国の自国通貨で,残り80%分は債務支払いなど必要が生じた場合に払い込むことになっていた。平成24年度は,ドイツによる出資金18%分が54年4月のユーゴスラヴィアへのローンに利用され,セイロン,パキスタン,インドの発電事業への融資に活用されたこと,とりわけ50年代後半にはインドの鉄道近代化プロジェクトに大きな貢献があったこと,出資金マルク18%分の解除において,世界銀行第3代総裁ブラック(Eugene R. Black)による強い要請があり,ドイツが当初の解除計画を変更して前倒しに解除を進めたことを明らかにできた。
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Strategy for Future Research Activity |
「現在までの達成度」において述べた第1の課題とともに,本研究の第2の課題は,世界銀行へのドイツの資金的貢献とドイツ国内経済との相互の関係を明らかにすることである。世界銀行とドイツとの結びつきが深まった1950年代後半は,ドイツ国内金融界の画期にあたる。より具体的には,小規模な地方銀行に解体されていた三大銀行(ドイツ銀行,ドレスナー銀行,コメルツ銀行)の完全統合や資本市場の復活と同一の時期であった。ドイツによる世界銀行への資金的貢献とドイツ資本市場との関係,世界銀行による開発途上国への融資と資本財・投資財を主力とするドイツ輸出産業との関係,ローンを購入したドイツ金融機関の利害を明らかにしていきたい。 さらに,本研究はドイツを検討対象としているが,同時代の他の西ヨーロッパ諸国や日本との比較が可能である。このような他の先進諸国のケースとの比較分析を通じて,ドイツにはどのような特徴があるのかをより明確にしたいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度の研究活動を踏まえ,平成25年度については以下の研究計画を進めて行く。 第1に,ドイツ連邦共和国における資料調査を行う。この作業は平成25年度においてもっとも重要である。ドイツ連邦文書館・ドイツ連邦銀行歴史資料室などの公文書館のみならず,世銀債の発行・引き受けにあたった民間金融機関が所蔵する資料や文献を研究に活用し,中央銀行のみならず民間金融機関の役割をも分析することで,開発援助金融の実態を明らかにしたい。第2に,現地での資料調査とともに,ドイツ人研究者から研究成果についてのレビューを受ける。 第3に,平成24年度に収集した資料の読解と分析を進めて行くと同時に,ドイツ金融の関連文献を継続的に購入する。平成24年度に洋書文献の刊行の遅延が生じ,当初予定していた書籍の購入ができなかったことから,平成25年度においても関連文献の購入を継続していく。
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