2012 Fiscal Year Research-status Report
価値づくりの技術経営:意味的価値と組織能力の理論・実証研究
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24530453
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
延岡 健太郎 一橋大学, 大学院商学研究科, 教授 (90263409)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 価値づくり / 意味的価値 / 顧客価値 / 組織能力 |
Research Abstract |
研究計画に従って、本年は、価値づくりのための、組織能力と顧客価値の定性的な研究と、理論の開発を実施した。理論開発のために実施した実証研究としては、①クラレやキーエンス、ディスコなど価値づくりに長けた企業の事例研究、および、②日本開発銀行の企業財務データを活用した価値づくりのための条件の探索を実施した。具体的な発見事実としては、以下の5点があげられる。 ①価値づくりのためには、他の企業がとてもできないくらいに長期間にわたり蓄積した、独自の組織能力が必要である。②特に重要なのは、顧客企業の事業の中身をある意味では顧客以上によく知り、顧客企業の利益が高まるような提案ができる能力である。③マクロデータの分析によると、エレクトロニクス企業の中でも特に売り上げが一兆円を超える大企業は、技術の複雑性と事業の複雑性の両方が過度に高まり、先に述べたような独自の組織能力の構築に必要とされるマネジメントができていない。④顧客価値についても、独自の組織能力を活用して、表面的に把握できる機能的価値だけではなく、顧客企業の中に入り込んで共創する意味的価値が重要になっている。⑤組織能力の長期間にわたる構築と、意味的価値の創出の両面を蓄えることが価値づくりの条件である。 上記の研究実績を、「一橋ビジネスレビュー(東洋経済新報社)」「品質(日本品質管理学会)」のジャーナルにパブリッシュし、さらには、編著である「日本企業研究のフロンティア(有斐閣)」において発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度の研究実施計画では、「組織能力と顧客価値(意味的価値)に関して、理論的な探求を実施する為に、平成24年度は主に文献研究と定性的調査を実施する。」という目標を立てたが、おおむね順調に進展していると評価する。組織能力については、特に、事例研究が有効であり、その中でも平成24年度は、すばらしい研究対象企業としてクラレを発掘し、詳細な事例研究を行った。事例研究としては、「一橋ビジネスレビュー」にパブリッシュしたが、その内容だけでなく、多くのデータが収集できた。加えて、理論的にも組織能力を蓄積するプロセスに関して整理することができた。本研究では、さらには、顧客価値(意味的価値)の内容について、理論的にも実証的にも深堀ができた。小さな企業であっても、ソリューション提供の組織能力は構築できることを理論的、実証的に明らかにした。また、日本開発銀行のデータを使って、エレクトロニクス産業における大企業を事例として、組織能力と顧客価値創出を実現することを困難にする要因について、理論構築と実証を目的とした研究を行い、パブリッシュすることができた。特に、技術と事業の複雑性による戦略的経営の阻害に関する概念は、特に日本企業の価値づくりの経営に関して、極めて重要な意味をもつ。商品レベルでは、モジュール化・標準化が阻害要因だが、企業レベルでは、経営の複雑化こそが、価値づくりに悪影響をもたらす要因である。エレクトロニクス産業は、両面において、価値づくりにとってネガティブな要因が付随している。
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Strategy for Future Research Activity |
組織能力と顧客価値(意味的価値)が価値づくりにつながる理論とプロセスについて、定性的調査と定量的調査をさらに進め、高度な学術論文に仕上げる。平成24年度までに、前述のように、理論構築と実証研究がおおむね予定通り順調にすすんでいるので、それを土台にして、さらに進める。特に、理論の方向性が構築できているので、それを洗練させ、理論研究としても一流として認められる論文に取り組む。 実証研究としては、事例研究をさらに進める。企業の選択が極めて重要であるが、今後はまずシスメックス社の事例に取り組みたいと計画し、神戸大学の共同研究者と一緒に、既に社長への調整も終えたところである。また、日本開発銀行の企業財務データによる価値づくり企業の分析についても、技術と事業の複雑性の視点をさらに深堀し、理論構築にも役立てる。 さらには、研究計画で記述したとおり、平成26年度に質問票調査を実施するための準備にとりかかる。ものづくりと価値づくりの測定方法の開発についても、理論的および手法的に開発に取り組む。質問票調査がベストなのか、複数の事例研究がベターなのかの判断についても、平成25年度の課題とする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
事例研究をするための旅費と、それをまとめるために、平成25年度導入される最新のApple Macbook Airの購入を計画している。また、企業における聞き取り調査のための出張、およびそのテープ起こしの人件費の使用についても計画している。 平成24年度に未使用額が生じたのは、上記のApple Macbook Airの新型機が予測に反して発売が平成25年度に遅れたことと、企業での聞取り調査の一部が、企業側の都合で、平成25年度にずれ込んだためである。 このような経緯で、平成24年度の未使用額と平成25年度に請求する研究費をこれらに充当することとなった。
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