2012 Fiscal Year Research-status Report
金融機関の収益構造は変化したのか?―米系大手金融機関の競争力の源泉を探る―
Project/Area Number |
24530513
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Matsuyama University |
Principal Investigator |
掛下 達郎 松山大学, 経済学部, 教授 (00264010)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
童 適平 独協大学, 経済学部, 教授 (20412421)
西尾 圭一郎 松山大学, 経済学部, 准教授 (20453368)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 金融機関 / 収益構造 / 競争力 / トレーディング |
Research Abstract |
米系大手金融機関の経営戦略を,アジア各国におけるヒアリング調査により各国金融機関と比較しつつその実態を把握することが本年度の課題であった。一般に,本国の金融機関はその地域に密着し優位な地位にあり,その本国金融機関と競争するために米系金融機関が利用したものの1つが彼らのグローバル・トレーディング力と考えられる。 上記の点について,米系では,Citicorp Investment Bank Singapore のZamanディレクターとMorgan Stanley Asiaの朱氏から,米系金融機関の現地化の状況とそれを支える戦略等を伺うことができた。彼らがトレーディングの重要性をトレーディング・ハブやその決済通貨であるドルとして注目していることがわかった。 日系では,三菱東京UFJ銀行上海支店等の麦田事務企画部長等に,現地での取引状況と見通しについて伺うことができた。三菱東京UFJはアジアに決済網を築こうとしており,そのトレーディング力と資産運用業務との関連が重要なことが窺えた。 中国外為取引中心の張研究部総経理,香港金融管理局のGannon首席法律顧問,オーストラリア・ニュージーランド銀行(ANZ)のTouatiシンガポール支店長,中国工商銀行シンガポールの王副総経理等にもお会いできた。中国の金融機関は一般に貸出ベースが大きく,決済網やトレーディング力への注目度は低い。その一方で,香港の金融機関やANZでは,その重要性を認識しているものの,具体的な取り組みについてはとくに言及がないことが収穫であった。 これらの違いは,大手金融機関の国際競争力の源泉の1つと考えられる。彼らのグローバル・トレーディング力の背景にあるのは,銀行が持つ決済網と考えており,たとえば,この決済網を独占する米系3大商業銀行グループが近年,幾つもの投資銀行業務においても大手投資銀行を圧倒しているのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本科研取得前の2012年3月に,計画を前倒しして,ニューヨークで米国大手金融機関の業務展開と収益構造に関するヒアリングができた。訪問先はMorgan Stanley面圭史チーフリスクオフィサー,Bank of New York Mellon佐治誠日本法人社長,日本銀行NY支店岸道信Deputy General Manager,東京証券取引所冨田一成NY駐在員事務所所長,三菱東京UFJ銀行NY支店岩岡聰樹Managing Director等であった。これを皮切りに公表資料に加えて米国大手投資銀行の行動パターンを実証する準備をし,米国3大商業銀行の業務展開や収益構造と比較しパネル・データ分析ができることとなった。 さらに,科研取得後の同年8~9月に,計画を1年早めて香港,上海,シンガポール等で外国銀行のアジア各国における業務展開と収益構造についてヒアリングができた。訪問先は香港金融管理局Stefan M. Gannon首席法律顧問,中国外為取引中心研究部張生挙研究部総経理,上海証券取引所傅浩副総監,Citicorp Investment Bank (Singapore) Salim Zamanディレクター,Morgan Stanley Asia朱琳氏,UBS Investment Research彭燕燕ディレクター,オーストラリア・ニュージーランド銀行Philippe Touatiシンガポール支店長,中国工商銀行シンガポール王春海副総経理等であった。この3都市の支店等のヒアリング調査により,米系大手金融機関が本国だけでなく,なぜアジア諸国においても競争力を持つかは,やはりグローバル・トレーディング力が米系大手金融機関の国際競争力の源泉の1つと考えられるからだという感触を持つことができた。今後もこの方向で実証研究とそこから示唆される理論研究を積み重ねていくことが有効と思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
9月にニューヨークとシカゴで米国大手金融機関の業務展開と収益構造に関するヒアリングをおこなう。大手金融機関の国際競争力の源泉の1つは彼らのグローバル・トレーディング力であり,その背景にあるのは銀行が持つ決済システム・決済業務と考えており,決済業務を独占する大手商業銀行グループが近年,幾つもの投資銀行業務において大手投資銀行を圧倒するようになっている。その実態をNYとシカゴで把握する。訪問先は本科研取得前の2011年9月,12年3月と同じくNY大手金融機関Morgan Stanley,Stanley,Bank of America Merrill Lynch,Bank of New York Mellon等と日本銀行NY支店,三菱東京UFJ銀行NY支店等である。それに加えて,新しくシカゴ先物取引所,シカゴ連邦準備銀行等でもヒアリング調査をおこなう。 NYでは定点観測を続け,金融機関のデータ分析により,米国大手金融機関が本国のNY市場でなぜ競争力を維持し続けているかを考察する。ヒアリング時にはリーマン・ショックから5年経過するので,実務担当者から過去の事例として一定の情報を引き出せると考えられる。その際に,日米大手金融機関がNY市場でどのような競争・補完関係にあるかを把握できれば,米国大手金融機関の競争力の源泉を抽出することができると思われる。 この研究では,①NY所在の米国大手金融機関の再調査,②新たにシカゴで大手金融機関のグローバル・トレーディング力の背景にある決済の研究を担当するシカゴ連銀や,近年の決済において重要な役割を果たすシカゴ先物取引所の調査,③日系大手金融機関,米金融規制当局,米国所在の国際機関等へのヒアリングをおこなう。③の日系金融機関,米金融規制当局,国際機関等の調査には,米国金融機関だけのヒアリングでは当初計画どおりに進まない場合への対応も含まれている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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