2012 Fiscal Year Research-status Report
環境ビジネスの戦略性に関する研究―所有権理論と企業間関係論より―
Project/Area Number |
24530515
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Hijiyama University Junior College |
Principal Investigator |
粟屋 仁美 比治山大学短期大学部, その他部局等, 准教授 (30342306)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 経営学 / 戦略 / 環境ビジネス / 所有権理論 / CSR / 市場創造 / 経済学的コスト |
Research Abstract |
負の外部性は,環境問題等の社会的課題として我々の生活に影響を与える。昨今,この社会的課題を解決するためのビジネス化が注目を集めている。社会的課題を解決するということは,社会的に外部性の所有権が明確になること,そして所有権を持った企業が外部性を内部化するための市場や事業を形成すること,が必要となる。 そこで本研究では,この外部性の内部化を,所有権理論,企業間連携の観点より検討し,戦略的な市場化・事業化の方法を導出することを目的とする。具体的には,社会的課題の解決という社会性を追いながら,他社との競争優位を生じる事業戦略のフレームワークを提起する。方法は,環境ビジネスを対象とし,フィールド調査により解に接近する。 平成24年度は,衣類のリサイクルシステム(エコログ・リサイクリング・ジャパン)の考察を行った。廃棄物やその処理は,資源循環市場の交換対象として社会制度化されつつある。しかしながら,衣類は特に法制度はない。法整備されていない市場に置ける企業の苦労や工夫を明確にし,企業の戦略や他者との連携手法に言及した。 また,ASR(Automobile Shredder Residue)の調査に着手した。衣類とは異なり,経済発展の最も顕著な産物である自動車については,自動車リサイクル法(2005年施行)が制定されている。これは自動車に使用される部品等をリサイクルし,最終的に残る廃棄物(ASR)の埋め立てを自動車の全重量の25%以下に抑えようとするものである。現在ではマツダ株式会社(本社:広島)の車両のリサイクル実行率は97%であり,ASRの再資源化も82.1%に至っている(経済産業省,2010)。ASRの再資源化は,自動車メーカーが数社ずつ連携し実施されている。自動車リサイクルは大規模ではあるが,まずは自動車リサイクル促進センターにヒアリングに行き,現状把握を行ったところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」に述べたように,平成24年度は,衣類のリサイクルシステムの考察を行った。その結果,衣類リサイクル市場を創造するには以下の課題をクリアしなければならないことが明らかになった。 まずは,リサイクル回収量の確保である。解決策としては,法制度化への働きかけもあろうが,量の確保が見込める,ユニフォームを使う企業との取引を優先的に行うことである。次に他者との連携である。繊維企業,デザイン・縫製,販売等,企業との連携が必要である。そのためには,リーダー企業による調整が必要である。また衣類は,染色材を使用していることなどもあり技術的に元の姿に戻すことが困難である。例えば,病院で使用した白衣を,感染性医療廃棄物回収ボックスへとリサイクルするように,社会全体の廃棄物の減少に貢献できるリサイクルを発見することが課題である。4つ目の課題は,社会の価値観がファッション性を重視することである。ファッション性に関与しない箇所での取り組みを模索とともに,対個人ではなく,対企業(ユニフォーム,作業着など)を対象とすることが解決策である。 エコログの衣類リサイクルの特色をまとめるならば,①経済産業省の新規産業創造技術開発費補助を活用し,ポリエステルと天然繊維の混紡衣料のリサイクル技術開発を行っていること,②ユニフォームなど量の確保を意図したターゲット選択を行っていること,③自らがコントローラーとなり,連携しネットワークを立ち上げていることである。 以上のように,衣類リサイクルに関しては,本研究の目的である戦略的な市場化・事業化の方法を導出することに近づきつつある。しかしながら,理論構築までには至っていない。連携機関へのヒアリングを必要によっては行うか,現在着手している自動車リサイクルで理論構築するか,熟考が必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後もフィールド調査研究を継続する。 ASRの調査は,規模も大きいため,継続する。ASRに絞るのではなく,自動車リサイクルという大枠で捉えたい。まずは,広島県環境県民局産業廃棄物対策課に広島県における現状をヒアリングする。その後,自動車解体業を生業としている企業複数社にヒアリングする。自動車のリサイクルは法制度化されたものの,参入が困難であり,既得権を持っている企業が優位であるという情報もある。制度化により新たな市場が創造された後に,撤退を余儀なくされる実態を把握したい。そうしたマイナス面も把握したうえで,理論化に取り組みたい。 自動車リサイクルの研究と並行して,当初は本年度は,廃棄物処理企業(今のところ,株式会社カンサイを予定している)の調査を予定していたが,自動車関連の規模が大きいので,タイヤなど自動車周辺の処理業にまずは絞りたい。もちろん,広義では,外部性をビジネス化している業態として廃棄物処理業も検討に含まれよう。資源の有効利用を促進しようとする循環型社会形成推進基本法が2001年に施行されている。施行後10年近く経った現在では,一層の内部化や新たな市場化が行われている。 上記のようなフィールド調査に加え,先行研究も進める。所有権理については,Demsetz,H,(1967)が,企業にとって内部化の利益が内部化のコストよりも大きくなる経済的価値観の変化の時,外部性は内部化に発展すると述べている。その変化は,古い所有権が殆ど適合することのできない,新しい技術の発展や新しい市場の開始をもたらす。外部性の内部化が自らの超過利潤を実現すると判断した時である。その場合,企業は他社との競争優位を獲得することになる。企業間連携についての研究は山倉(1993)等を中心に進められているが,私は「所有権の移転」という新たな概念を導出している(粟屋,2011)。事例を重ね,その理論を深める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
国内旅費に使用する。 出張先は,企業ヒアリングと学会参加である。ヒアリング先は広島近隣の企業,日本国内の自動車リサイクル関連機関(関東,東北)などである。学会は情報収集のための参加と,自身の研究報告である。今時点では,経営哲学学会北海道部会での研究報告を予定している。 上記旅費に伴って,学会参加費,会議費にも使用する。
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