2013 Fiscal Year Research-status Report
企業が発信する既存顧客の経験が潜在顧客におよぼす心理効果に関する研究
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24530517
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
澁谷 覚 東北大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (00333493)
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Keywords | 類似性 / 意識下 / 情報処理 |
Research Abstract |
本研究では、製品やサービスの使用に関する既存顧客の経験を、同じ製品やサービスの購入を検討する潜在顧客が参照する状況において、既存顧客の経験が当該製品・サービスを提供する企業によって発信されている場合と、既存顧客自身によって発信されている場合とで、潜在顧客に及ぼす影響がどのように異なるかを調べることを目的としている。基本的な仮説は、「既存顧客によって発信された経験情報の方が、企業によって発信された同じ情報より、潜在顧客に及ぼす影響が大きい」である。その上で本研究では、どのような条件を満たせば、企業発信による経験情報が既存顧客発信の情報と同等かそれ以上の影響を及ぼすかを探索することを目的としており、そのような条件の1つとして、潜在顧客と既存顧客との何らかの「類似性」と、その他の要因の交互作用効果が関係するのではないか、という研究仮説をもっている。 本年度は潜在顧客が既存顧客に対して認知する「意識下の類似性」についての実験を行った。実験では、被験者が潜在顧客として製品・差サービスに関連するネット上の情報を閲覧する中で、既存顧客による経験に関する情報がその中に含まれていた。この情報を閲覧する際に、既存顧客自身がどのようなプロフィールを有する消費者であるか、に関する情報が画面に表示されたが、そこにはプロフィール情報が500ミリ秒以下の短い時間だけ表示される条件と、被験者が「次へ」というボタンをクリックするまで表示されている条件とが設定された。 実験の結果、画面に表示されるプロフィール情報の項目数が3、5、7、10、15と変化しても(これらの表示順は被験者によってランダムに表示された)、認知する類似性は表示時間に影響されないこと、およびこれらの項目が被験者にとって重要な属性であるか否かが、被験者が他者に対して認知する類似度に影響すること、が示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、基本的な仮説は、「既存顧客によって発信された経験情報の方が、企業によって発信された同じ情報より、潜在顧客に及ぼす影響が大きい」であるが、その上で本研究では、どのような条件を満たせば、企業発信による経験情報が既存顧客発信の情報と同等かそれ以上の影響を及ぼすかを探索することを目的としており、そのような条件の1つとして、潜在顧客と既存顧客との何らかの「類似性」と、その他の要因の交互作用効果が関係するのではないか、という研究仮説をもっている。 本年度は、このような研究仮説の下で基礎研究としての地点に立ち戻り、「そもそもインターネット上で消費者が製品やサービスのクチコミを参照する際に、そのようなクチコミ(経験)を発信している他者と自己との類似性を判断または認知しているのか」という基本的な問いを設定した。 この問いに対して本年度の実験実施前に設定した暫定的な回答は、「(消費者は自分で意識しているかどうかには関わりなく)他者と自己の類似性を自動的・無意識的に判断している」というものであった。これは近年の無意識心理学の発展とその成果を取り込んだものである。 その上で、このような被験者の無意識的・自動的な自他の類似性判断を確認するために、画面にきわめて短い時間表示されるプロフィール情報を被験者がどのように判断しているかを調べた。結果として被験者はこれらの情報を、無意識的・自動的に十分に処理していることがわかった。 この成果は、そもそも消費者は自他の類似性を判断しているのか、という本研究全体の基盤を構成する問いに対する1つの回答を提示しており、本研究全体を実施する意義が十分に妥当なものであることを示す研究成果であると判断しえるものである。このため、本年度の実験結果から、本研究が1つ前に進んだと判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究のここまでの成果からは、消費者は本人が意識しているか否かには関わりなく、インターネット上で他者の先行経験を参照する際に、その情報を発信している他者と自己との何らかの類似性を判断し、認知していることや、そのような類似性が他の何らかの要因との交互作用効果において、当該消費者の(製品やサービスに関する)将来の期待や購入意図などに影響を及ぼす可能性が提示された。 これらの成果を踏まえて、残る課題は、企業がこのような消費者の心理メカニズムを利用して、どのように自社の製品やサービスのプロモーションに、既存顧客の経験に関する情報を活用することができるのか、という点から、最適な方法を探索することである。 本年度以降の研究では、このような点に関して、文献調査による理論開発、あるいは探索的な調査や探索的実験などの方法により、探って行きたいと考える。 このような調査目的による先行研究は行われていないため、実際には企業が現実に院他ネット上などで提示している既存顧客の経験情報を、本研究の問題意識にもとづく新たな観点から調査・再解釈する方法を採用しながら、現実の企業の情報発信についての事例研究を行うことと、ここから見いだされた仮説にもとづく探索的な調査または実験を行うこと、などの方法が考えられる。
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