2012 Fiscal Year Research-status Report
企業間関係におけるディスクロージャー行動に関する理論的・実証的研究
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24530558
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
椎葉 淳 大阪大学, 経済学研究科(研究院), 准教授 (60330164)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | ディスクロージャー / 企業間関係 / 資本市場 / 製品市場 |
Research Abstract |
本研究の目的は、企業間関係におけるディスクロージャー行動について理論的・実証的に考察することにより、ディスクロージャー研究の進展に貢献することである。特に、この研究では、製品市場と資本市場への影響に分けて考察を進めている。本研究は3年間の期間を予定しており、1年目である2012年度は、理論研究を中心に研究を進展させた。 まず製品市場への影響については、第一に製品市場のディスクロージャーの基本文献と位置付けられるDarrough (1993)の論文をレビューし、経済的直観を解説した論文を執筆した。この論文は2013年度前半には公表予定である。第二に、第一の論文の考察を基に、企業間関係におけるサプライヤーのディスクロージャー行動を分析した論文でありWPとなっていた"Optimal Disclosure Policy for Supplier Firms"(中條良美氏との共著)の改訂を行った。また、最終製品市場が価格競争のケースの分析、およびメーカーによるサプライヤーの株式所有がディスクロージャーに与える影響などを考察し拡張を行っている。第三に、製品市場において競争を行う企業が報酬契約を開示したときの影響を考察した、「報酬契約の開示による経済的影響-エージェンシー理論を用いた分析-」(呉重和との共著)と題する論文を2012年度管理会計学会全国大会において報告し、論文の内容を精緻化した。 次に、資本市場への影響については、企業が複数のセグメントを有するとき、そのセグメント情報を開示したときの影響を理論的に考察した。たとえば、国内利益と海外利益を比較したときに、市場規模とリスクの観点から、海外利益が市場において低く評価されることなどを理論的に示した。なおこの結果は、各セグメントが別企業であると解釈した場合、企業間関係におけるディスクロージャーの分析と理解することができる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず理論パートについては、製品市場へのディスクロージャー、および資本市場へのディスクロージャーの基本モデルを拡張し、企業間関係のある状況でのディスクロージャー行動についてのモデル分析を展開する予定であった。製品市場へのディスクロージャーについては、基本文献のレビューに多くの時間を費やしたが、基礎的な理解が深まり有用であった。具体的には、その考察を基にして、「研究実績の概要」に書いた2つの研究プロジェクトを進展させた。一方、資本市場へのディスクロージャーについても理論的考察を進めておりWPとしてまとめている。さらに、製品市場、資本市場の両者に共通する理論分析として、社会規範や倫理といった側面を考慮した個人の意思決定モデルにもとづいた経済分析のサーベイも行った。以上のことから、理論パートについては概して順調に進展していると考えている。 次に実証パートについては、有価証券報告書において開示されている主要顧客企業(開示府令第3号様式によって開示が要請されている連結総売上高10%以上を占める販売先企業)のデータ入力を行い、5年分のデータが得られた時点で、主要顧客企業を有するかどうかによってディスクロージャーの水準が異なるかについて、基本的な実証分析を開始する予定であった。しかしながら、データ入力に予定よりも時間がかかり、現在4年分までの入力作業まで進んだところである。このことから、実証パートについては予定よりも少し遅れていると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
理論パートの研究のうち、製品市場への影響を考察する研究は、第一に「製品市場における企業の情報開示行動-Darrough (1993) モデルのレビューと考察-」(三輪一統・呉重和との共著)を2013年度前半に公表予定である。この論文での考察を基に、サプライヤーのディスクロージャー行動を分析した"Optimal Disclosure Policy for Supplier Firms"(中條良美氏との共著)、および製品市場において競争を行う企業が報酬契約を開示したときの影響を考察した"The Effect of Compensation Contract Disclosure on Executive Behavior"(呉重和との共著)を改訂し2013年度中に海外ジャーナルに投稿する。前者の論文はまた、著名な会計理論研究者が多く集まるEighth Accounting Research Workshop (University of Basle)において2013年6月に報告予定(採択済み)としている。 また、理論パートの研究のうち、資本市場への影響を考察する研究は、"Voluntary Disclosure and Value Relevance of Segment Information" (村上裕太郎氏との共著)と題するWPにまとめており、2013年5月にヨーロッパ会計学会年次大会において報告予定である。その後、論文を改訂し、これも2013年度中に海外ジャーナルに投稿予定である。 さらに理論パートについては、社会規範や倫理といった側面を考慮したディスクロージャー研究を進展させたいと考えている。 一方、実証パートは主要顧客企業についてのデータ入力を2013年度前半までに行い、基本的な実証分析を開始する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
理論パートの論文はWPとなっている論文が複数あり、2013年度前半において海外での学会報告を2件予定している(2件とも採択済み)。このうちEighth Accounting Research Workshop (University of Basle)に参加予定としている。また、国内の研究会においても報告を行いコメントに基づいて論文を改訂する予定である。このため、旅費として、海外出張1回、国内出張5回程度を予定している。その後、海外ジャーナルへの投稿の前に英文校正を行い、ジャーナルへの投稿と行うため、英文校正費と投稿料が各論文について必要となる。 実証パートは、2012年度にすべて行うことができなかったデータ入力を引き続き行うために、RAを採用しデータ入力を手伝ってもらう予定である。また、統計ソフトとしてstata、およびmatlabを購入する予定である。 なお、理論・実証パート共通に必要な研究費として、関連書籍の購入を予定している。 以上から、物品費(ソフト×2、書籍)として40万円、旅費(国内・海外出張)として30万円、人件費・謝金(データ入力)として30万円、その他(投稿料、英文校正)として20万円を支出する計画としている。
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Research Products
(3 results)