2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24530589
|
Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
阪 智香 関西学院大学, 商学部, 教授 (10309403)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大鹿 智基 早稲田大学, 商学学術院, 准教授 (90329160)
|
Keywords | カーボン会計 / 企業価値 / サステナビリティ |
Research Abstract |
2013年度の研究実績は主に次の2つである。 1.CO2排出量データおよび排出削減対策に関する企業の情報開示データが企業価値に及ぼす影響について実証的な分析を行い、CO2排出量が多いほど、企業の排出削減対策に関する情報開示が企業価値に与える正の効果が大きくなる証拠を示した。また、企業の各環境対策活動が企業価値に及ぼす影響の経路分析についての研究も行った。 2.サステナビリティにつながる経営行動を明らかにするために、サステナビリティを実現してきた長寿企業の経営状況の会計的側面と付加価値分配のあり方についての分析を行った。具体的には、日本の創業100年以上の長寿企業を対象とし、その財務的特徴と財務報告の質を分析した。この結果、長寿企業では、利益率は低いが安定しており、また、赤字となる企業の割合が低く、さらに、長寿企業における利益率の安定性は、利益マネジメントの結果ではなく、経営実態を反映したものであることがわかった。これらより、長寿企業では、短期的な利益を追求するのではなく、長期的なサステナビリティを指向した経営がなされているといえる。さらに、長寿企業におけるステイクホルダーへの付加価値分配の状況を分析したところ、各ステイクホルダーに対する分配が高いことから、分配を通して継続的な社会的貢献を果たし、ステイクホルダー共生型で、安定的にWin-Win関係を構築するようなステイクホルダー・マネジメントが実施されてきたといえる。これらから、サステナビリティの観点から、企業の利益の安定性や付加価値関連情報とその分配に着目することの重要性を指摘することができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.環境負荷データと企業価値の関連を扱った先行研究は内生性の問題をはらむものが多かったが、本研究では、強制開示データを用いることでその問題をクリアーするとともに、製造業すべてを分析対象とすることで、分析結果の一般化をもたらした。また、排出量の多寡によって企業の情報開示が企業価値に及ぼす影響が変化することを示した最初の研究成果となった。さらに、企業の環境実績と財務実績の関連について、サステナビリティ・バランスト・スコアカードを用いて、企業の各環境対策が企業価値の向上にどのような影響を及ぼしているかについて経路分析を行った。このような分析も本研究が最初であり、重要な成果であると考えている。 2.資本市場の短期指向の行き過ぎが懸念され、企業の長期的指向の価値創造を支える会計・財務報告が世界的に必要とされている中で、日本は長寿企業数で圧倒的な世界一位を誇ることから、長寿企業の会計行動を分析し、長期的指向の価値創造を支えてきた会計・財務報告のあり方を明らかにした。この研究では、特に、かつて1970年頃から欧州を中心に注目され、最近ではGlobal Reporting InitiativeのSustainability Reporting Guidelinesの指標にも含められ、改めて注目されている付加価値情報について取り上げ、ステイクホルダーへの付加価値分配の状況を分析した。その結果、長寿企業では各ステイクホルダーに対する分配が高いことから、分配を通して継続的な社会的貢献を果たし、ステイクホルダー共生型で、安定的にWin-Win関係を構築するようなステイクホルダー・マネジメントが実施されてきたことが示された。この結果は、企業のサステナビリティをみる上で付加価値情報の重要性を指摘するものであり、普及しつつある統合報告の開示項目としても有用であることが示唆されるものである。
|
Strategy for Future Research Activity |
1.付加価値情報の有用性についての研究:2013年度に実施した長寿企業の財務・付加価値分析の研究を拡張し、世界各国の企業の財務業績、付加価値情報、企業価値との関連について分析する。それによって、長期的指向の企業価値創造を支える会計・財務報告のあり方に関する提言を行う。 2.企業の環境負荷情報の開示をさらに広くとらえ、企業特性とIR(統合報告)についての研究を行う。現行の財務報告の有用性低下が指摘されている中で、その原因として、インタンジブルズがバリュードライバーとして重要になっていることがあげられる。ただし、インタンジブルズの重要性は企業特性によって異なるはずであり(たとえば、旧来型の重厚長大産業なら現行財務報告でも十分かもしれない)、インタンジブルズの説明変数も企業特性によって異なることが予想される(国によってCO2排出量の企業価値低減度合いは異なるだろうし、人的資源関連情報の重要性も労働集約度によって変わるであろう)。そこで、すべての企業がすべての非財務情報を公表することは冗長性を増加させるだけであるという観点から、それぞれの企業(業種)特性に応じて公表すべき非財務情報を探索することは、IRの成功のためにも重要である。したがって2014年度は、アーカイバルデータを用いて非財務情報の価値関連性を検証することを予定している。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
2014年3月からスタートする予定であった新興国の共同研究者とのアンケート調査・インタビュー調査が、共同研究の事情により、2014年度にずれ込んだ。そのため、これらの調査にかかる予定であった費用(アンケートの作成と送付、および、インタビュー調査にかかる旅費等)について、2014年度への繰越金とすることとした。 1.調査データの収集・入力・分析:新興国の共同研究者とのアンケート調査・インタビュー調査にかかわるアンケートの送付、結果の集計・分析、インタビュー調査の旅費・結果集計等に使用する。また、各国のCSR報告書等における気候変動関連情報開示の調査を実施し、データ収集・入力を行うための人件費も発生する。 2.研究報告・打合せのための外国・国内旅費:2014年11月に開催されるThe International Association for Accounting Education & ResearchのWorld Congress、および、2014年9月に開催される日本会計研究学会全国大会で研究報告を行う予定である。これらの研究報告は、本研究の成果の一部であり、学会出張費として使用する。また、研究打ち合わせ(東京または大阪)のために国内旅費が発生する。
|
Research Products
(6 results)