2013 Fiscal Year Research-status Report
健康・環境リスクをめぐる不安言説分析:その連鎖と強靭さに関する実証研究
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24530598
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Research Institution | Tokyo International University |
Principal Investigator |
柄本 三代子 東京国際大学, 人間社会学部, 准教授 (90406364)
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Keywords | リスク / 身体 / 健康 / メディア / 環境 |
Research Abstract |
健康・環境リスクに関する各種の集まりにおいて参与観察を行った。そこで比較的リスクへの関心の高い人たちから不安についての語りを引き出した。具体的にはたとえば、東日本大震災後に東北や関東から避難している人びとおよびその支援者へのインタビューをおこなった。さらに各地にある放射能測定所を訪問し測定の様子を見学し直接話を聞いた。 研究計画には健康・環境リスクに関する各ステークホルダーへの調査が含まれており、その一環として生産者へのインタビューも行った。具体的には有機農業を営む人びとにリスクと食についての話をうかがった。インタビューによって集められたデータはテープ起こしをおこない、資料として整備した。国内の健康・環境リスクに関する情報がどのように海外へ発信されているのかをみるため英字新聞にあたった。 研究実績のアウトプットとして以下がある。弘文堂から出版した『<つながる/つながらない>の社会学――個人化する時代のコミュニティのかたち』に「科学的不確実性と<つながる/つながらない>」という論文を執筆した。ここでは、健康・環境リスクの中でもとくに放射能汚染に対する不安言説をめぐる分断の存在を明らかにし、そのことの社会的意味について論じた。これから出版予定の『ニュース空間の社会学――不安と危機をめぐる現代メディア論』において「繰り返される『冷静な対応』――新型インフルエンザ・パンデミックへのカウントダウン」というタイトルで論文を執筆し、不安言説と「危機」との関連性について考察した。 また2014年7月開催のISA‘Emotions, Trust, Hope and Other Approaches to Coping with Vulnerability Amidst Uncertainty’でのプレゼンテーションのためアブストラクトを作成した。タイトルは‘The Japanese way of coping with vulnerability: Divisions among lay-people after the Great East Japan Earthquake’である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
調査も順調にすすんでおり、学会報告や論文執筆をとおして、研究成果の一部を徐々に公表できているので「おおむね順調に進展している」とした。ただし、グループインタビューをより本格化する必要がある。 今後さらに、質的データの蓄積を進めていくと同時に、量的データに関する資料を渉猟することも課題として挙げられる。
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Strategy for Future Research Activity |
前年までと同様、先行研究や最新の知見を論文や資料で収集しつつ、質的調査を中心とした、フィールドワーク、インタビュー、メディア分析を引き続き行っていく。メディア分析に関しては、アクセス可能な映像アーカイブにできるだけあたり、具体的に分析していくことを本格化する。 今後予定されている研究の推進方策として、具体的には以下が予定されている。 カナダのモントリオールで開催される’Social Policy and the Health Inequality: An International Perspective’に参加し、健康・環境リスクをめぐる不安がどのくらい切実な課題として国際的に認識され、どのような対処が必要なものとして議論されているのかについて、各国データをもとに最新の知見を入手し、各国研究者との議論を予定している。これにより、健康リスク言説の多重性と問題の複雑性についての考察に寄与することになるであろう。さらに6月にはシニア社会学会「災害と地域社会研究会」においての報告を依頼されており、調査データにもとづく研究成果の一部を報告する予定である。その報告のために準備すすめることだけでなく、様ざまな人びとと議論することによって今後の研究を大きく推進するものとなるはずである。また7月に開催されるISAでの報告を予定している。 出版物としては、本年7月までには、健康・環境リスクをめぐる不安言説の一例としての「新型インフルエンザ」に関する論文が、世界思想社から共著として出版される。また青弓社から単著を出版する予定で現在原稿を執筆中である。さらには9月末日締め切りで『社会学評論』の原稿を執筆中である。 今年度も調査を行いデータを集めるので、最終的かつ全体的な研究成果のアウトプットは2015年度中にも継続して行い予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
調査会社へ依頼してインフォーマントのリクルートなどを行おうとしたが、見積もりをしてもらった結果、予想以上に高額であったのでこれを行うことをやめた。この分において次年度使用額が生じた。 次年度使用額については、さらにフィールドワークとインタビュー調査を徹底するために使用する予定である。
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