2012 Fiscal Year Research-status Report
社会構造の変動が社会意識に与える影響の数理・計量的分析
Project/Area Number |
24530599
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
數土 直紀 学習院大学, 法学部, 教授 (60262680)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 未婚化・晩婚化 / 階層帰属意識 / 生活満足感 / 一般的信頼 / 高学歴化 |
Research Abstract |
社会構造の変動が社会意識に与える影響を分析するにあたって、2012年度は特に未婚化・晩婚化という人口構造の変動に注目してデータ分析をおこなった。具体的には、未婚化・晩婚化がまだ顕著ではなかった1980年代の社会調査データと、未婚化・晩婚化が顕著になった2000年代の社会調査データを比較分析し、婚姻上の地位が階層意識に対して影響を及ぼしているかいなか、そしてそれは時代によって違いがあるのかないのかを確認した。分析の結果、学歴構造や職業構造などと違って直接的には階層的地位に影響を与えていないように考えられた未婚化・晩婚化が、ひとびとの階層意識の変化に大きな影響を与えていたことが判明した。つまり、1980年代には婚姻上の地位は階層意識に対して何も効果をもっていなかったにもかかわらず、2000年代になると婚姻上の地位が階層意識に対して強い効果をもつようになっており、未婚者の増大がひとびとの階層意識を下げるように影響している。そしてこの事実は、「社会経済的地位に関する分散が増大すると、その地位はひとびとの主観的な階層的地位を判断する規準としてひとびとに意識されるようになる」という理論的仮説を支持するものである。 また2012年度は、信頼の潜在構造を分析し、一般的信頼と学歴の関係についても分析をおこなった。その結果、一般的信頼が権威主義的な性格をもつタイプの信頼と平等感覚・公正感覚にもとづくタイプの信頼の二つの因子に影響をうけていることが明らかにされた。そして、高い学歴は権威主義的な性格をもつタイプの信頼に対してはネガティブに作用するのに対して、平等感覚・公正感覚にもとづくタイプの信頼に対してはポジティブに作用していた。これらの事実は、高学歴化がその社会の一般的信頼に与える影響は単純なものではなく、それぞれの因子を通じて複雑に影響していることを示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2012年度は、社会変動と階層帰属意識に関する理論的な予測をたて、その予測が社会調査データによって支持されるかどうかについて検証をおこなった。検証が試みられた仮説は、「ある社会経済的地位の分散が増大すると、その地位はひとびとによって主観的な階層地位を判断する規準として意識されるようになる」というものであった。この理論的予測を検証するためにもちいられた社会調査データは、1985年社会階層と社会移動に関する全国調査(1985年SSM調査)データと2010年格差と社会意識についての全国調査(SSP-I 2010)データとである。そして検証のためにもちいられた変数は、婚姻上の地位、階層帰属意識、生活満足感である。検証によって、1985年と2010年とで婚姻上の地位が階層帰属意識に与える影響が変化しており、「未婚化・晩婚化によって婚姻上の地位に関する分散が増大した結果、婚姻上の地位は主観的な階層地位の一部を構成するようになった」という予測を裏付ける事実を得ることに成功した。それとは別に2012年度は、社会変動と一般的信頼かに関する理論的な予測をたて、その予測が社会調査データによって支持されるかどうかについても検証をおこなった。検証が試みられた仮説は、「日本社会の一般的信頼感は、権威主義的な性格をもつ信頼の因子と平等感覚・公正感覚に特徴づけられる信頼の因子とに構成される部分とを同時にもつため、高学歴化しても大きく変化しない」というものであった。この予測を検討するためにもちいられた社会調査データは、2005年SSM調査データである。検証によって、日本社会の一般的信頼感が確かに権威主義的な性格をもつ因子と平等感覚・公正感覚に特徴づけられる因子とによって同時に構成されており、また高学歴が前者に対してはネガティブに作用するのに対して後者に対してはポジティブに作用することが明らかにされた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策として、大きく二点を考えている。 まず第一点は、分析対象を階層帰属意識から、その他の社会意識に拡げていくことである。先行研究によって多くの意識項目のうちとりわけ階層帰属意識がひとびとの社会経済的地位によって影響を受けていることが明らかにされているが、しかし階層帰属意識だけが社会経済的地位によって影響を受けているわけではない。そこで今後の研究においては、階層帰属意識以外にも主観的幸福感や一般的信頼感について積極的に分析をおこない、これらの社会意識が社会構造の変動によってどのような影響を被ってきているのか、このことを明らかにしようと思う。そして、社会構造の変動と階層帰属意識以外の社会意識との関係を明らかにすることによって、一億総中流社会から格差社会への変化の内実をより立体的に説明することが可能になると予測される。 次に、分析範囲を戦後日本社会に限定するのではなく、日本以外の国や地域を含め、国際比較をおこなうことを試みたい。分析範囲を日本社会に限定してしまうと、得られた知見が日本社会だけに妥当するのか、それとも他の国や地域に妥当する普遍性をもっているのか、このことが判然としない。しかし分析範囲に日本以外の国や地域を含めることで、日本社会の分析から得られた知見がどの範囲まで妥当するのか、評価することが可能になる。したがって今後の研究においては、具体的には世界価値観調査(Social Values Survey)データをもちいることで、日本以外の国や地域を含めた分析をおこない、社会構造の変動が社会意識に及ぼす影響の国際比較をおこなう。世界的な観点から社会構造の変動と社会意識との関係を明らかにすることは、過去数十年の間に日本社会が体験してきた社会意識の変化を世界的な文脈のなかで理解することを可能にするであろう。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度の研究費の使用は、旅費が中心になる。まず本年度は、日本社会学会大会(2013年秋、慶応大学三田キャンパスにて開催予定)・数理社会学会大会(2013年秋、関西学院大学西宮キャンパスにて開催予定。2014年春、開催予定-開催地は未定-)での学会報告を考えている。これらの学会大会において研究報告をおこなうことで、研究成果の公開がなされるとともに、研究を進めていくうえで必要なフィードバックが得られる。また本年度は、アメリカ社会学会大会(2013年夏、ニューヨークにて開催予定)への参加を考えている。大会に参加することで関連研究の世界的な現況を把握し、そこで得られた情報・知見を国際比較研究に取り込むことを考えている。そして2014年夏に横浜市で開催予定の世界社会学会大会での報告の準備に役立てる。 その他は、主に消耗品費に研究費を使用する。消耗品費の主たる用途としては、関連書籍の購入があり、次にコンピュータソフトの購入がある。分析対象を拡げることにともない、各対象についてこれまでになされている先行研究の知見を丁寧に確認する必要がある。そのために、関連する参考資料の収集に努める。それとは別に、使用しているコンピュータソフトのバージョンアップや、機器の入れ替えに対応して、コンピュータソフトを適宜購入していく必要がある。これらの購入のためにも消耗品費からの支出を考えている。そのほか、研究の進行にともなって生じる経費のために、研究費を適切に支出していく。
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