2013 Fiscal Year Research-status Report
社会構造の変動が社会意識に与える影響の数理・計量的分析
Project/Area Number |
24530599
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
數土 直紀 学習院大学, 法学部, 教授 (60262680)
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Keywords | 未婚化・晩婚化 / 高学歴化 / 民主化 / 一般的信頼 |
Research Abstract |
本年度の実績として、いくつか学会報告をおこなったほか、2013年11月に勁草書房から『信頼にいたらない世界:権威主義から公正へ』(単著)を刊行することができた。 『信頼にいたらない世界』では、まず1985年社会階層と社会移動に関する全国調査(1985年SSM調査)データと2010年格差と社会意識についての全国調査(SSP-I2010)データをもちいて、人びとの階層意識の変化を明らかにした。次に、2005年SSM調査データを分析することによって一般的信頼が権威主義的な性格をもつタイプIの信頼と平等感覚・公正感覚を基礎とするタイプIIの信頼の二つのタイプの信頼によって構成されていることを明らかにし、さらにSSP-W2013データをもちいて公的な制度に対する信頼がタイプIIの信頼に由来する一般的信頼を強化していることを明らかにした。明らかにされた結果は、私たちの社会意識が未婚化・晩婚化や高学歴化という社会変化とともに生じ、そうした社会変化によって強化されたり、逆に弱化されたりすることを示している。 また、『信頼にいたらない世界』では、2005年前後に実施された世界価値観調査(2005年WVS)データをもちいて、信頼をめぐる意識構造の国際比較もおこなっている。2005年WVSデータの分析結果は、SSM調査データやSSPデータによって明らかにされた日本社会における信頼の意識構造が、ただ単に日本社会にあてはまるだけでなく、世界的にみても多くの社会にあてはまっていることを明らかにしている。またそれと同時に、教育と一般的信頼の関係が、R.パットナムや山岸俊男らが主張してきたポジティブな関係をもつだけでなく、社会条件によってはネガティブな関係をもつ場合があることを明らかにしている。一般的信頼はその社会の高学歴化や民主化といった社会変動に影響を受けているけれども、その影響は決して単純なものではない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本プロジェクトによって、社会関係資本の核を構成する一般的信頼をふたつのタイプにわけて考えることの有効性が明らかにされてきた。一つは、権威主義的な価値観に由来する信頼のタイプであり、このタイプの信頼は高齢者によって多く抱かれる傾向がある。もう一つは、公正感覚・平等感覚に由来する信頼のタイプであり、このタイプの信頼は高学歴者によって抱かれる傾向がある。特に重要なのは、後者の平等感覚・公正感覚に由来するタイプの信頼である。なぜなら、このタイプの信頼は、公的な制度への信頼と強く結びついており、公的な制度の役割を強化することに貢献するからである。そして、この二つのタイプの信頼のうち、どの信頼がその社会において優勢になるかは、その社会が経験している社会変動に依存して決まってくる。具体的には、高学歴化と民主化は、権威主義にもとづく信頼から平等感覚・公正感覚にもとづく信頼へのシフトを促すことになる。 また、国内の社会調査データの分析に限定せず、国外の社会調査データの分析もおこなうことで、本プロジェクトを通じて明らかにされてきた知見がただ日本だけにあてはまるのではなく、世界的に見ても妥当な知見であることも確認された。具体的には、2005年前後に実施された世界価値観調査データをもちいて一般的信頼に関する分析をおこなった結果は、異なる制度に対する信頼の背後に二つのタイプの信頼を仮定することの妥当性を示唆するとものとなった。 そして、視野を国際比較に広げたことによって、一般的信頼と民主化の関係が非線形なものであることが追加的に明らかにされた。民主化の進行によって、一般的信頼の水準は単調に上昇するのではなく、いったんその水準を下げたあと上昇する。そしてその背後には、民主化と高学歴化との相互作用が存在する。
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Strategy for Future Research Activity |
2014年度については、すでにSSM調査データとSSP調査データをもちいて、1980年代から2010年にかけて生じた社会変化が人びとの階層イメージにどのような影響を与えたのかについて分析が進んでいる。 階層意識はその人自身の階層的地位に関する意識や、あるいは階層的地位から派生するさまざまな社会意識を意味するのに対して、階層イメージは人びとが社会に対して抱いているイメージを意味する。周知のように、人びとの階層イメージは1980年代の一億総中流社会から2000年代の格差社会へと大きく変化した。このような“中流社会から格差社会へ”という階層イメージの変化がどのようにして起こったのか、そしてそのような変化は現実の社会構造の変化とどのように対応しているのか、このことを明らかにすることは、私たちの社会を正しく理解するうえで不可欠だといえる。本プロジェクトでは、このような人びとの階層イメージの変化が社会全体で一様に生じたのではなく、いわば不均質に生じたことを明らかにし、そしてそのような意識変化の差異が生まれた理由を理論的に説明することを目的にしている。 また、本プロジェクトの研究成果をまとめた図書(『階層意識の新次元』(仮))を刊行できるよう、現在作業をすすめている最中である。研究代表者(数土)を編著者とする図書では、社会意識を計量的に分析する総勢15人の研究者が原稿を執筆し、SSP調査データとSSM調査データをもちいて、1980年代から2010年代にかけて生じた人びとの社会意識の変化を明らかにする予定である。実際に、一億総中流が問題にされていた1980年代から、格差を問題にするようになった2010年代にかけて、人びとの社会意識は大きく変化している。そのような変化がなぜ生じ、そしてそのことによってどのような現象が引き起こされているのか、このことに関する総合的な検討をおこなう予定である。
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