2013 Fiscal Year Research-status Report
社会問題の戦後史におけるオーラルヒストリーの意義と可能性
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24530605
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
桜井 厚 立教大学, 社会学部, 特定課題研究員 (80153948)
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Keywords | オーラルヒストリー / 満蒙開拓平和記念館 / イタイイタイ病資料館 / 第五福竜丸展示館 / 浦安市郷土博物館 / 三六災害 / 「ゴザ暴動」 / 語り部 |
Research Abstract |
研究2年目の本年度は、戦後史の重要な出来事をピックアップし、それらについてオーラルデータなどの質的資料を収集しアーカイブ化している事例について、それぞれの資料収集とプロジェクト担当者へのインタビューをおこない、オーラルデータを中心とする質的データの歴史的意義を調査した。本年度の調査は、研究協力者の岸衞(龍谷大学非常勤講師)の協力の下で、以下についておこなわれた。 1.満蒙開拓平和記念館は、満州移民を多数輩出した長野県飯田市に設立された民間施設で、語り部による語り継ぐ活動がおこなわれている。2.富山県立イタイイタイ病資料館および清流会館では、当該問題についてアーカイブ化がおこなわれており、被害者の近親者による語り部活動がおこなわれている。3.第5福竜丸展示館では、船の展示とともに学芸員の市田氏が精力的に語り継ぐ活動を受け継いでいる。4.浦安市郷土博物館では、東京ディズニーランドができる前、漁師町のころに起きた「黒い水事件」と呼ばれる公害反対運動について聞き取りのオーラル資料を市民の協力で収集した実績をもつ。5.「ゴザ暴動」の経験を語る会が、2010年から沖縄市で行政と市民が協力して開かれている。現在も語る会が継続中である。 ほかに初年度から始めた長野県の「三六災害」のアーカイブについては、継続して資料、インタビュー調査をおこない、中間報告をまとめた。また東北被災地の語り継ぎや水俣病に関する活動についても継続して資料収集をおこなった。 東京新聞(2013年8月18日版)に掲載された「語り部」特集で、全国の語り部活動が紹介されたが、この記事については、編集者と協力して語り部活動の全国図を描き、語り部活動の意義を紹介した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
戦後史の出来事を主に環境に関わる公害、災害を中心としながらも、新しく「ゴザ暴動」などで精力的に経験を語る活動がおこなわれていることから、語り部活動をもうすこし視野を広げて調査研究する必要が出てきた。そのため、いかに対象となる出来事をしぼるか、調査を深めるかが重要になっている。その枠組みを検討中で、まだ十分に絞り切れていないのが実情である。 関係者からさまざまな資料を収集しているものの、多くのインタビュー・データが十分に文字化されておらず、残された作業がたまってきている。文字おこしを急ぎ、内容整理に努めたい。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に継続して、各地の戦後史における語り部活動を中心とするアーカイブ化と語り継ぐ活動について、その実態を把握し中心的担い手にインタビューをおこなう。全国における活動の見取図を描きつつ、焦点をあてた対象の活動を位置づけることで質的調査や市民の体験的語りが注目されている現代史的状況とオーラル・データの意義を明らかにする。 具体的には、これまでの調査をさらに深めつつ、追加の調査もおこない、主要なオーラル・データに関する戦後史関連の活動の全体像を描いたうえで、個別の出来事を整理する。 最終年度でもあるので、関連研究や文献を整理しながら、全体のまとめをおこなう。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究では、研究代表者の全国のオーラル・データのアーカイブの現状を調査するための旅費および調査でのインタビュー・トランスクリプト作成が費用の根幹をなしている。旅費の次年度使用額が大きくなっているのは、個人的事情にも関連して初年度は研究代表者の定年退職年度にあたったこと、また2年度は研究員として新たな対応を求められたため、長期ないし頻繁に調査旅行に出る機会を失したことによる。とくにオーラルヒストリー関連ではわが国より進んでいる海外での調査ができなかったことが大きい。 人件費、謝金については、これまでインタビューを一定数おこない、そのトランスクリプト作成を特定の熟練担当者に依頼したが、インタビュー依頼が年度末に集中し、多忙のためにほとんどが次年度回しになったためである。 まず、前年度のインタビュー・トランスクリプトの作成を急ぎたい。すでに一定数のインタビュー・データは収集されているので、本研究の最終年度であることも鑑み、トランスクリプト作成を早めに進める予定である。そのための謝金は次年度分のインタビューとあわせ相当額が必要である。 前年度から継続して、水俣病資料の現地調査をはじめさらに新たないくつかのオーラル・データのアーカイブ化の現状と語り部活動の実態を調査する予定である。また、これまでの調査の追加調査を実施することでデータを充実させる必要もある。さらに、まとめにあたって海外のオーラルヒストリー活動を比較の対象としてとりあげる調査もおこないたい(オーラルヒストリーの先進国であるイギリスを予定)。以上の予定から、多額の旅費使用を予定している。
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Research Products
(4 results)