2014 Fiscal Year Research-status Report
現代社会における「生きづらさ」に関する芸術社会学研究
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24530607
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Research Institution | Kyoto University of Art and Design |
Principal Investigator |
藤澤 三佳 京都造形芸術大学, 芸術学部, 教授 (00259425)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 障害者 / 障害者芸術 / 生きづらさ / 精神科病院 / 精神障害 / 自己表現 / 芸術社会学 / 臨床社会学 |
Outline of Annual Research Achievements |
東京都八王子市近郊高尾にある民間の精神科病院の外来デイケアの参加者を対象に生活史と造形作品に関する調査をおこなった。その内容は生活史調査における精神科病院患者の語りと彼らの造形作品に関してのものである。調査結果は、第65回関西社会学会(於:富山大学:五福キャンパス共通教育棟)において「生きづらさを表現する語りと~語りと絵にみる~」として多くの作品図版とそれに関する表現者の語りを示しながら報告した。この病院を調査対象として選出した理由は、病院における医療的観点からの芸術療法としてではなく、日本においても他の精神科病院において例がみられない100号サイズの油絵等を含め自由に描く方法をとっているからである。 また上記精神科病院の患者の他に、精神科病院には通院はしていないが、日常生活の中で被虐待体験や摂食障害等さまざまな精神症状を抱える人々も含めて、生きづらさを抱える人々に関して、特に生育家族における第一次社会化を中心に調査をおこなった。 その調査結果をもとに彼らが生きづらさを抱えて、他者とコミュニケーションをおこないにくい生活を送っており、その状態を言語以外の表現手段を使用することによって乗り越えていることを下記の書籍に示した。彼らは、造形表現及び、他の表現形態を用いて自己表現をおこない、その結果、社会的な存在として自らの生がよみがえり、生きづらさの解消が生じていることを『生きづらさの自己表現~アートによってよみがえる「生」』(晃洋書房、2014年)のなかで示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
関西社会学会報告においては、生きづらさを抱える人々が、表現することに加えて、他者からの共感や反応を得ることで、どのように彼らの生きづらさからの解放につながっていくかという点を芸術社会学的観点から明らかにすることができ、同様に学会報告をもとに、研究成果を書籍の出版(『生きづらさの自己表現アート~によってよみがえる生」』)として表すことができていることから、おおむね順調に進展しているといえる。 本研究は、プライバシーに関わる内容であるが、調査対象者との良好な関係を構築していたため、調査対象者が、快く学会報告や出版に応じてくれたことが計画の順調な進展の理由の一つである。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策としては、さらなる調査の発展をめざし、また本研究は、社会学、心理学、芸術学、精神医学等が交わる学際的分野なので、本年度は9月におこなわれる「日本描画学会シンポジウム」等で報告し、社会学以外の分野と交流することを計画している。 また、日本社会臨床学会誌に、現在社会的にも問題になっている青少年の非行に関して、非行臨床の分野の論文発表を予定している。非行臨床の分野においても、第一次社会化の問題、さまざまな自傷行為、自殺未遂等が、生きづらさとして前年度までの研究と共通してみられ、海外では刑務所等における絵画、演劇等の自己表現プログラムと支援が活発におこなわれている。日本国内、海外の比較研究を視野に入れて研究をすすめる。 今年度は4年間の最終年度であるので、臨床社会学と芸術社会学の有効な理論枠組み、調査枠組みを示し、あらたな臨床芸術社会学の分野の構築を、調査、理論両面からおこなう。
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Research Products
(2 results)