2013 Fiscal Year Research-status Report
植民地動員から観た日本の近代化過程と統治合理性―戦時総動員体制を中心に―
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24530610
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Research Institution | Nagasaki Wesleyan University |
Principal Investigator |
亘 明志 長崎ウエスレヤン大学, 現代社会学部, 教授 (60158681)
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Keywords | 動員 / 統治性 / アジア太平洋戦争 / 植民地 / 総力戦 / ナショナリズム / 近代化 / 戦後補償 |
Research Abstract |
本研究は、日本の近代化過程を、動員(労働動員及び軍事動員)という観点から捉えなおし、戦争や植民地といった負の側面と経済発展や人権といった望ましいとされる側面とを、「統治合理性(M.フーコー)」の一貫した論理のもとに把握するという全体構想の中に位置づけられる。 そのため、第二次世界大戦(アジア太平洋戦争)期の、植民地朝鮮からの労働動員に焦点を当て、日本において犠牲になった朝鮮人の遺骨をめぐる諸問題を中心に、歴史社会学的方法及び聞き取り調査等によって総合的に把握することを目指す。最終的には、日本の近代化過程における統治合理性の「動員モデル」を構築する。具体的な研究過程としては、一方で戦争遂行としての強制動員の実態解明とともに、それがいかなる動員計画のもとに実施されたかを検討し、計画と実体の齟齬を解明する必要がある。 平成25年度の研究実績については以下の通りである。 ①植民地動員の実態解明については、歴史学を中心に日本、韓国で新たな研究が蓄積されつつある。ただ、社会学的研究はほとんど存在しないため、社会学的関心からそれらの新しい研究成果を読み解く必要がある。そうした新たな研究の社会学的解読の作業と並行して、実態解明のための聞き取り調査および史跡の現地調査を行った(筑豊、大牟田、広島、東京、神奈川など)。 ②動員計画については、1)「(植民地動員を含む)国家総動員計画」はどのように策定されたか、2)「総動員体制」下での動員組織(機構)の形成とその整備・運営はどのようになされたか、3)動員法の体系化とその施行を通して動員はどのようになされたか、といった点を明らかにするために、行政資料を中心に、国立国会図書館や公文書館などの一次資料を探索したり、各地に残された資料を収集したりすることができた。 ③これらの研究作業と並行して「動員モデル」構築の方法論的検討を行った(言説分析など)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
以下の理由により、植民地動員の実態解明については、予定通り進行しなかったものの、動員計画については順調に進行し、本研究課題に関連する新たな課題の発見もあったので、おおむね順調に進展していると評価できる。 ①植民地動員の実態解明については、歴史学を中心とした日本および韓国の新たな研究成 果を社会学的関心から読み解く作業を行った。しかし、被動員労働者の生存者はきわめ て少なくなっており、しかも高齢であるため、詳細な聞き取り調査は困難になってい る。そのため、予定していた韓国での聞き取り調査は行えなかった。 ②動員計画については、行政資料を中心に、国立国会図書館や公文書館などの一次資料を 探索したり、各地に残された資料を収集したりすることができた。 ②新たな課題の発見。2012年5月24日に韓国の大法院において、いわゆる「請求権」が消 滅していないという判決が下された。この問題は、戦時総動員体制下での植民地動員の 評価や位置づけが戦後補償や植民地責任の問題と密接に関連していることを示唆してい る。具体的には、日韓会談や極東軍事裁判などの資料を批判的に経由した視線で植民地 動員の評価や位置づけを行う必要があるという課題である。ひとつの方向性が示され たという点で研究が進展したと評価できる。 ③「動員モデル」構築に関しては、近代化過程における「統治性(M.フーコー)」を合理 性の観点から評価するにあたって「資源動員論」を用いることによって、有効な理論モ デルを構築できるとの見通しのもとに作業を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策として、①植民地動員の実態解明、②動員計画、③近代化モデルとしての「動員モデル」の構築の3点について述べる。 ①植民地動員の実態解明について、被動員労働者に直接聞き取りを行うことは困難な状況 になっている。そこで、1)韓国の行政組織や民間の戦後補償運動団体、日本におけて遺 骨返還運動を行っている民間運動団体や被動員労働者の名簿を収集している団体などと 連携をとりつつ実態解明につながる資料を収集する、2)企業資料や行政末端資料、特 高資料などに基づいて行われている歴史学などでの先行研究を参照しつつ、必要があれ ば原資料にあたる、などの方法により実態解明を行う。その過程で、被動員労働者本人 や遺族などから聞き取りを行える機会があれば、できるだけその機会を生かす。 ②動員計画については、行政資料、法律資料を中心に整理分析を行う。また、第一次大戦 直後から「総力戦」の研究が始まっていたことから、戦時総動員体制以降だけでなく、 動員の必要性の認識がどのようにして生じたのかを時代を遡って検討したい。 ③近代化モデルとしての「動員モデル」の構築については、動員(労働力の移動)が近代 化の過程でどのような意味を持っていたのかを解明するとともに、動員、とりわけ植民 地動員が合理的かつ効果的であったかを、「資源動員論」などにより検証する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究計画の遂行上、平成25年度末(3月)に急遽、戦争社会学研究会(広島)への参加と東京、広島の聞き取り調査、資料収集調査を行うことになったが、残額が4万円程度しかなく、前倒し支払請求の期限を過ぎていたため、この時点での調査研究費用に関しては、平成26年度の研究計画に含めることとしたため。 主として、資料収集費、研究会参加費にあて、平成26年度の研究計画の一部に組み入れる。
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