2013 Fiscal Year Research-status Report
東日本大震災におけるボランティアの実践知と後方支援の論理
Project/Area Number |
24530613
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
清水 亮 東京大学, 新領域創成科学研究科, 准教授 (40313788)
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Keywords | 社会学 / 災害 / ボランティア / 支援 / 後方支援 / 実践知 / ボランティア経済 |
Research Abstract |
平成25年度は、ROADプロジェクト足湯ボランティアと岩手県の復興グッズ被災地グッズ主催団体連携会議を主な対象として研究を実施した。 まず足湯ボランティアについては、平成23~24年度は日本財団からの助成金を得て、震災がつなぐ全国ネットワークが中心となりながら東京から足湯隊を各被災地に派遣してきた。この足湯隊では、足湯の際に被災者が話した内容を「つぶやき」と称し、ボランティアがつぶやきを専用のカードに書きとめてきたが、この数が16000枚に及んでいる。東大被災地支援ネットではこの分析作業を担当してきたが、そこでは単に統計的な処理にもとづく全体把握のみならず、カードを1枚ずつ読みながらそこに書かれた意味を汲み取る質的分析を実施してきた。そして、(1)問題があるかもしれないつぶやきを現場に返す仕組みづくり、(2)「支援者の支援」のためのガイドブック作成、(3)臨床心理士や宗教家等の専門家との連携の模索の三点の取り組みに着手してきた。(1)と(2)は平成24年度から継続的に行ってきているが、平成25年度に新たに始めたのは(3)の活動である。仙台で臨床心理士や臨床宗教師関連、看護師等の関係者と定期的な研究会を開始し、相互理解の浸透と今後の連携の可能性の模索を行っている。これらは、被災地で課題化されてきている「こころの問題」への実践的対応についての検討であり、専門家との協働の模索は後方支援のあり方の一つである。 復興グッズや被災地グッズ関連では、団体間の連携による販売イベントの実施について、参与観察を続けている。被災から2年以上の時間が経過してボランティア経済圏が縮小していく中で、これらの活動がどの規模でどのような形で持続が可能であるのかについて、各団体のヒアリング等を重ねながら検討を行ってきている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、東日本大震災でのボランティアの動向把握(実践的課題及び課題克服過程)、「後方支援論」の構築を目指している。被災地の状況は刻々と動いているが、岩手県における復興グッズや被災地グッズ関連の動きとして、平成25年度にようやく関連諸団体共同での販売イベントが実現に至った。この過程を継続的に参与観察しているため、その時々に何が課題となり、それをどのように克服していくかという道筋の記録がとれている。そして、当初の一定の役割を果たしたとして活動を縮小させていく団体、規模は小さいながらも被災者の生きがいづくり(やがては高齢者の生きがいづくり)を目指す団体、一定規模の産業としての事業化を目指す団体の大きく三つに徐々に分化しつつあることも確認できている。このように、被災者の自立のための支援のあり方について、記録と分析を継続的に実施することができている。 ROADプロジェクトによる足湯ボランティアについては、平成25年度には日本財団からの補助金がなくなったためにこの形での足湯隊派遣はストップしたが、残されたつぶやきデータの分析や再整理を進めながら、大規模災害時における足湯ボランティアの有効性の確認に至っている。また、足湯ボランティアと専門家との協働の可能性を模索するための研究会を仙台で発足させるなど、進展が見られている。肝心の足湯隊についても、被災地に近い東北大学や東北学院大学、岩手大学のボランティアへの働きかけを行い、小規模ながらもROADプロジェクト後の活動の持続にもつながっている。遠方からの支援を地元型の支援に切り替えていくこと自体も後方支援論にとっては重要な課題であり、総じて当初目的に沿った調査研究が概ね実施できているものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究推進に向けては、平成25年度の進捗状況が概ね当初の研究計画に沿ったものであったため、交付申請書を作成した時点の計画に沿って研究を継続する予定である。足湯・つぶやき分析の成果のとりまとめや公表については、平成25年度中にできなかった学会報告については平成26年度に行う予定である。また、阪神淡路大震災以来の足湯ボランティアの諸関係者とともに、被災地における足湯ボランティア活動の紹介やつぶやき分析の成果、これらの意味と意義などについてまとめた書籍の出版計画を進行させている。同時に、研究実績の概要で挙げたガイドブックの作成も早急に実現すべく準備中である。専門家との現場での協働については、実施の可否は現場の状況を見据える必要があるため、慎重に検討を進めていく。 ボランティア経済のテーマについては岩手で継続的に参与観察を行っていく予定である。この中でも、被災者の生きがいづくりのための活動については、高齢社会における生きがいづくりのテーマと重なりを持つ重要な領域であるため、復興グッズ製作に限らず、家庭菜園等の農作業が有する意味の考察などにも機会を見て議論を広げていきたいと考えている。
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Research Products
(3 results)