2013 Fiscal Year Research-status Report
地域史の編纂と歴史意識の形成―自治体史・字誌に関する基礎的研究―
Project/Area Number |
24530649
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Research Institution | Tokyo International University |
Principal Investigator |
高田 知和 東京国際大学, 人間社会学部, 教授 (70236230)
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Keywords | 歴史意識 / 自治体史 / 字誌 |
Research Abstract |
本研究は、地域づくりの基礎ともなる一般市民の歴史意識を自治体史や字誌の検討を通じて明らかにし、歴史を媒介とした地域づくりの可能性をさぐることを目的としている。したがってそこでは、自治体史、字誌、そして歴史意識がキーワードとなる。またその際には、実際に作られている自治体史や字誌がどのようなものであるのか、それが現場ではどのように作られていて、その反響はどうであるかといったことと同時に、歴史意識そのものについての研究も必要となると考えられる。 前年度は、まず自治体史や字誌についての先行研究を検討し、合わせて調査対象地として設定した長野県飯田市、兵庫県尼崎市、それに沖縄県読谷村に出向いて、前二者については自治体史の、後者については字誌の編纂状況を調べた。そして今年度は同じ地域での調査を継続しつつも、単に自治体史や字誌の編纂だけでなくそのまわりで地域史に関わっている人たちをも調査した。すなわち、具体的には郷土史のグループ(いわゆる郷土史の会)や一般の市民たちが集う歴史関連の研究会やイベント、また特に字誌の場合には編集者や印刷業者である。これは、字誌の場合には通常一般の地域住民が執筆と編纂に携わるため、そもそも一冊の本を作るノウハウを知らないことも少なくなく、アドバイザー的な役割を担って専門家が関与してくるのである。本研究ではそのような周縁部分に位置する人たちをも視野に入れた調査を行なった。またこの他に、上記3地区以外の箇所の状況も調べた。とりわけ字誌については、これまでの先行研究のほとんどが沖縄県についてのものであるので、本研究では比較の意味で沖縄県以外の状況にも目を向けるように努めた。 3年目となる次年度は、そうした比較にもさらに目配せをしつつ、歴史意識について原理的な部分を改めて検討したうえで、幅広く地域社会の歴史意識を明らかにしていきたいと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の2年目である今年度においては、当初予定していた時期に学務等で忙しくなり調査に行けなかったことが2,3度あった。そのため調査の進行上に支障を来したことが、「やや遅れている」理由である。またまとまった論考のかたちで成果を残し切れていないのは、そうしたことの表われといって良い。それでも成果の一部を学会で報告することができたのは緩やかながらも前進したといえると思う。 本研究では自治体史と字誌を具体的に調べるために調査を行なってきたが、1年目が終わった時点で、実際に自治体史を作る専門家としての歴史学研究者以外にも地域史に携わる人は昔から大勢いたこと―いわゆる郷土史のグループがこれにあたる―、またそれ以外にもセミプロ的な人たちもいること、そしてそうした人たちとは別途に一般の人たち―歴史に対して特に意識的には関心を持っていない―がいるわけであり、それらの重層的なところをどう考えていくかを、課題として感じた。また字誌については、まずその具体的な編纂の現場に入る必要があること、それと沖縄県では読谷村以外にも全県的に盛んに作られていることをどう捉えていくかを課題とした。 2年目においては、こうした課題を意識して調査を行なったことを指摘できる。すなわち、郷土史のグループへの聞き取り調査を行ない、また普段は歴史研究に関係していない普通の人たちが編纂するものとして字誌を捉え直してその編纂現場や編集の専門家への聞き取り調査を行なった。また沖縄県以外の字誌(この場合は必ずしも字誌とは言われない)も検討を加えつつあるところである。
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Strategy for Future Research Activity |
3年目となる次年度においてまず考えていくのは、歴史意識についてである。その場合、特に上記でも見て来たように地域社会には歴史に対する関心の程度がさまざまな人たちが重層的に暮らしているわけであるから、このことを踏まえた歴史意識研究を進めていきたい。そのため以前にもましてこれまでと同様に自治体史編纂の先進地と考えている調査地(長野県飯田市、兵庫県尼崎市)に入っていき、郷土史のグループやセミプロ的なところに位置している人たちへの聞き取り調査を行ない、かつまた地域の歴史に関する研究会やイベントに積極的に参加して観察をしていきたい。 ところでこのような重層性を考えるとき、一般の人たちが作って来た字誌にこれまで以上に注目せざるを得ない。この2年間、字誌を実際に見てきた経験でいうと、字誌で重要なのは、そうした字誌を作っているのが地域に暮らしている一般の人たちだという点であり、何よりも彼ら自身の地域社会に対する当事者性にあると考えられる。実はこうした地域史誌の当事者性についてはこれまでも一部の郷土史家などによって言われてきたものであった。それは地域社会の一員である当事者たちが作る地域史誌のありように関するものであったが、本研究ではこの点を掘り起こして再検討の俎上に載せていきたいと考えている。 そしてこのような2つの視角から自治体史と字誌を検討することで、地域で生きる人たちにとっての歴史意識を明らかにしていきたい。そしてこれによって、本研究は、今日各地で歴史的な文化や建造物などその地域での歴史遺産というべきものを媒介して行なわれている地域づくりやまちおこしの基底になっていくことができると考えており、その意味で地域貢献にも大いに資するところが大きいと信じるものである。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
前期と後期のうち、大学の個人研究費とも合わせて調査に行く予定でいたのであったが、想定していたよりも学務や授業が忙しくて行くことができず、そのため使用額の予定と実際との間でずれが生じた。 次年度は、大学の授業や学務との兼ね合いをにらみながら慎重に計画通りに研究を遂行していきたい。
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Research Products
(2 results)