2013 Fiscal Year Research-status Report
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24530653
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Research Institution | International Christian University |
Principal Investigator |
池田 理知子 国際基督教大学, 教養学部, 教授 (50276440)
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Keywords | メディア / コミュニケーション / 公害資料館 / 語り部 |
Research Abstract |
まず、四日市公害を伝える活動を行っているなたね通信の榊枝の2012年度連続講座を中心としたデータの分析・考察を学会年次大会と学内ジャーナルで発表した。過去のものとされがちな「公害」を今に引き寄せて語ることの困難さが具体的にどこにあるのかをそのなかでは論じている。次に、水俣病資料館の語り部の講話については継続して研究を行った。その成果が日本コミュニケーション学会論文の部の奨励賞受賞へとつながり、かつ新たな投稿論文も次号のジャーナルに掲載される。同学会九州支部大会で発表した論文も近々刊行される学術書の1章になることが決まっている。また、昨年9月末に新たに任命された「語り部」の講話は、後述の『終わらない闘い』の彼女の部分をベースに対話形式で組み立てられているものであり、学術的成果のみならず、その成果が実際の講話の場に活用されるという社会的な貢献へとつながっている。 水俣病を語り継ぐという文脈のなかで果たした「よそ者」の役割がどういったものだったのかを明らかにするという前年度に新たに浮上した課題に対しても、インタビュー調査を中心に取り組んだ。その成果を一般書という形で発表できたことは、研究者/著者自身が公害を伝えるという実践を行ったという意味をもつ。そして、本を刊行したことで実現した2回の講演が、語り継ぐという研究の文脈において新たな広がりを生み出すかもしれない。「水銀に関する水俣条約外交会議」に合わせて日英の冊子『終わらない闘い/Unfinished Business』を編纂したことも重要な成果であった。市民団体から作成を依頼されたこの冊子は、国内外からの会議参加者に450部無料配布され、その様子はメディアでも取り上げられた。水俣病についてよく知らない会議参加者に対してどう伝えるのか、つまりこれまで関心の薄かった人に水俣病のことを伝えるための実践のひとつとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初予定していた公害資料館でのフィールド・ワークは水俣を中心に行った。 「語り部」の講話の参与観察や、「語り部」および 「語り部補助」への聞き取り調査から見えてきたものが研究成果へとつながるなど水俣での研究に関しては順調に進められたと思う。しかも、「水銀に関する水俣条約外交会議」という大きなイベントがあったため、前述の冊子を作るといった計画以上の成果も上がった。 四日市に関しては、資料館の開館は延びたものの、そのプレイベント的な講座のフィールド・ワークが行えたことは今後の研究を進めるうえで参考になった。 また、四日市市が資料館の展示の青写真を公開するなどの動きがあったため、展示計画の分析なども行えた。その分析結果をもとに、四日市再生「公害市民塾」のメンバーと意見交換するという機会もあり、資料館展示分析に関する研究は順調に進んでいる。 当初の計画では、イタイイタイ病資料館の「語り部」の講話の参与観察と面接調査、展示の分析を引き続き行う予定だったが、展示に関しては企画展示などの新しい動きがほとんどなく、「語り部」の講話に関しても参与観察しづらい状況が続いていたため、フィールド・ワークは行わなかった。 後述するように、資料館に関わる市民団体の活発な動きが見られず今後も変化が見込めそうにないので、当初の計画を変更せざるを得ないとの結論に至った。 総合的には、2013年度は研究成果が非常に上がった年であった。研究実績の概要ですでに述べたように、成果発表は順調に進んでおり、当初の予定よりも早いペースとなっている。今後もフィールド・ワーク等と成果発表を並行して行っていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
当初は、四大公害病資料館すべてに軸足をおいた計画を立てていたが、語り伝えるというテーマを具体的に見ていくうちに、動きの多い水俣と四日市に必然的に重点を置くようになっていった。その要因のひとつが、語り伝えるうえでの民間団体の積極的な働きかけである。水俣であれば、水俣病センター相思社が運営する資料館「水俣病歴史考証館」における語り手の存在であったり、多様な「よそ者」の語りだったりする。四日市だと、なたね通信や四日市再生「公害市民塾」の活動である。今年度も水俣や四日市のこうした動きを追いつつ、公害を語り伝えるとはどういうことなのかを検証していきたい。 具体的な予定としては、4月から7月にかけて、「市民塾」が行う土曜講座に参加し、次世代の語り手を育てる実践の有用性を確かめたい。7月以降、2015年3月までは水俣でのフィールド・ワークを中心に展開しながら、単著の執筆を同時並行で行う予定である。異文化コミュニケーションという広い文脈で考えたときに、公害資料館がどういった意味をもち、語り継ぐ活動が何を生み出そうとしているのかを考察する。 学会における論文発表も引き続き行っていく。日本コミュニケーション学会の年次大会では、「「語り部」になることの意味――水俣病資料館の新人Mを例にして」という論文発表申込みを行い、すでに受理されている。カルチュラル・スタディーズ学会年次大会では、「伝える」をテーマにパネル・ディスカッションを行うことが決まっている。また、秋に行われる日本コミュニケーション学会九州支部大会でも論文発表を行う予定であり、できれば四日市での成果を発表したいと思っている。さらに11月頃をめどに、公害資料館のもつ意義をテーマに水俣でシンポジウムを行いたい。「市民塾」のメンバーと水俣で活動する民間団体の代表者をシンポジストに迎え、意見交換が出来ればと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
2014年3月の四日市および四日市・水俣への2回にわたる国内出張が、2013年度の残額では賄いきれなかったため、来年度予算の流用とならざるを得なかった。それと同時に、若干の残金が生じる結果となった。四日市では、民間団体である四日市再生「公害市民塾」が1月より土曜講座を開催しており、その講座への出席が当初の予定には入っていなかったため、予算オーバーとなった。水俣に関しても、互助会裁判が熊本地裁において結審を迎え、判決が出るという予期せぬ出来事が起こったため、2013年度の予算では賄いきれなかった。 今年度の書籍代一部に充当する。
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