2013 Fiscal Year Research-status Report
無縁社会/家族の個人化と墓を核とした結縁-葬送の家族外部化-
Project/Area Number |
24530659
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Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
井上 治代 東洋大学, ライフデザイン学部, 教授 (10408974)
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Keywords | 家族の個人化 / 無縁社会 / 死者祭祀の社会化 / 葬送の家族外部化 / 墓を核とした結縁 / 桜葬墓地 / エンディングサポート / 家族の代替 |
Research Abstract |
本研究は「無縁社会」と言われ、核家族化、生涯未婚化、子どものいないライフコースを歩む人々が増加し、家族が著しく個人化したといわれている1990年以降の現代社会を対象とし、死をめぐる看取りや葬送の変化から「家族の個人化」の実態と「家族機能の代替システム」の現状把握を目的としている。 戦後社会の中で、長い間戦前からの家意識を色濃く残してきた葬送分野が、1990年以降大きな変化をみせている。その一つに墓における脱継承現象がある。そこで本研究は脱継承について、継承者を必要としない墓である「桜葬」(樹木葬の一種)墓地購入者の実態調査もって分析を試みた。24年度に行った量的調査の結果から、25年度は「桜葬」申込者のインタビュー調査を実施し、彼らが集まる「語りあいの会」やその他の活動に継続的に参加し、参与観察を行った。その結果、死後の家族意識において、家族の「選択可能性」(山田昌弘が1990年以降の家族の個人化の特徴としてあげている)が浮き彫りになった。筆者の調査から、夫婦が別墓を選択するケースや、夫の先祖の墓ではなく犬と入墓する妻、姉妹で墓に入るケースなど、死後においては、まさに家族の選択可能な状況が明らかになった。 一方で筆者は、日本の死をめぐる看取りや葬送についての実態をより理解するために、日本と同様に仏教的慣習が根付いた韓国やタイを視察し比較を試みた。特に韓国では2000年以降、樹木葬が増加し、高度経済成長を成し遂げた社会に登場する「樹木葬」という観点から、日本との比較が興味深い。さらに韓国研究では宗教団体が委託運営する福祉施設などを調査し、宗教を介在したサポートのあり方を研究した。 「脱継承」と「自然志向」の両方の特徴をもった「樹木葬」について、ドイツ・韓国の研究者と交流の場を持ち26年度には国際セミナーを開催する運びとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度で「家族の個人化」に関して論文にまとめる計画であったが、インタビュー調査は続けたものの結論を導くというより、他の研究目的である「墓を核としたサポートネットワークの構築」や会員相互の交流といった「家族の代替システム」の研究の方に力を注いだため、視野は広がったものの結論を導き論文にまとめるまでには至らなかった。 このことは当初の計画より研究の進行をやや遅らせることとなったが、一方で研究テーマを複眼的にみることによる分析力の向上が見込まれるのではないかと考えている。25年度は「家族の個人化」と「葬送の変化」、さらには「家族機能の代替としてのサポートネットワークの構築という3つの相互規定的な変数を、その因果関係を見つめながらも研究を行うことができた。 「家族の代替システム」ということに関しては、日本の葬送支援(死後サポート)の研究に、韓国の宗教団体が介在する福祉施設でのケアやサポートが参考となった。韓国の宗教団体が公的な福祉領域に参入している要因として、①韓国政府が過去数十年の低福祉時代から一気に高福祉を目指すにあたって、福祉国家ではなく、既存の民間組織を活用し福祉共同体を目指そうとしていることがあげられる。②宗教団体の法人認定に関する一般的な法律は存在しないという韓国の特徴をあげることもできる。「民法」32条の「非営利法人」の認定が適用され、非営利活動の内容に応じて主務官庁が管轄することになる。実際には、福祉法人として登録されている宗教団体が多い。また一方で、宗教離れがすすむ現代社会にあって、宗教団体の福祉領域への参入が存続と教勢拡大の方策となっていることがわかった。 実際に仏教団体が運営する「ヨンコウマウル」(蓮の花の村)、ソウル市ソンパ区の高齢者福祉センターを視察し、その実態を捉えることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
26年度は、本研究目的に関する結論を導き、報告書または書籍などにまとめたいと考えている。具体的には次のようなことである。 ①「桜葬」会員の意識調査では、継承者を必要としない墓であれば子どものいない夫婦や単身者が多いであろうと思われがちであるが、76%は子がいる人々であるという興味深い実態を報告し、子どもの世話にならない、なれない人々の事情を浮き彫りにする。具体的には、24年度に行った「桜葬」会員の意識調査の結果を、印刷媒体かネット上で発表したい。 ②また「桜葬」会員へのインタビュー調査の結果から、家族の個人化、特に「家族の選択可能性」や、個人化へのプロセスについて検証しまとめる。 ③韓国の宗教団体が介在した支援団体のあり方を報告する。 ④死後の葬送の担い手を持たない人々における、看取りや葬送のサポートの実態を浮き彫りにする。 ⑤【国際セミナー】開催(10月25日)の準備を進めている。ドイツ・韓国・日本の研究者と行政関係者によって、テーマ:「樹木葬の現代的意味と今後」について発表し討論する。この成果として、写真集と解説部分をもった本の出版をめざしている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
24年度に実施した「桜葬」会員の意識調査に関する報告書の作成を計画していたが、25年度中に印刷するまでには至らなかったので、その分を26年度に繰り越した。 26年度は論文や報告書作成が主な作業であったが、実際には国際セミナーを開催するなど、研究の機会が得られたので、26年度に予算を繰り越すことを試みた。また、国際セミナーの研究報告書なども印刷物にする予定である。 1.26年度4月~8月に実施するインタビュー調査に関するテープ起こし等の外部委託費として100.000円。2.研究補助作業、研究協力費等の人件費・謝金として100.000円。3.国際セミナー開催費として100.000円。4.韓国における最終調査旅費等として150.000円。5.26年3月、研究報告書の印刷費等として100.000円。6.書籍代・通信費・消耗品費として28.994円。
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