2013 Fiscal Year Research-status Report
アメリカ移住女性たちの文化的アイデンティティと日系コミュニティ形成に関する考察
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24530662
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Research Institution | Musashi University |
Principal Investigator |
中西 祐子 武蔵大学, 社会学部, 准教授 (90282904)
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Keywords | 移住 / 日系人 / ジェンダー / エスニシティ / アメリカ / 新一世 / 国際 / アメリカン・コミュニティ・サーベイ |
Research Abstract |
本年度は、期間中、以下の2つの調査・研究を行った。 ①2013年8月末~9月初旬にサンフランシスコ・ベイエリアにフィールドワークに向かい、戦後アメリカに移住した日本人女性、計11名に半構造化インタビューを行った。各インタビューは一人あたり2時間~4時間半にわたった。インタビューではアメリカ移住のきっかけと定住の動機、アメリカ移住後のライフヒストリー、職業歴、家族形成歴、自身のエスニック・アイデンティティ、現地在住の日本人や日系コミュニティへの参加の度合い、などについて聞き取りを行った。なお、インタビューを通じて、現地の日本人・日系人たちが形成しているグループや日本文化にまつわるイベントなどについても情報を得ることができた。 ②アメリカ国内全体における日本人移民女性の動向を把握するために、アメリカ版国勢調査の追試調査ともいえるAmerican Community Survey公開データの最新版を入手し、日本国内において社会統計ソフトSPSSを用いた二次的分析を行った。 以上の作業の結果、以下の通りの知見が得られた。 まず、インタビューでは、ほとんどの対象者が日本社会におけるジェンダー秩序の窮屈さについて述べており、それがアメリカへの移住を促した一つの大きな動機であると語っていた。一方アメリカで新しい仕事を見つける時、彼女たちは自分の「エスニック資本」を利用していることも分かった。ここで言う「エスニック資本」とは日本語能力、日本文化を伝達できることなど「日本人であること」であり、仕事の獲得にプラスになっていたり、日本人同士のネットワークを通じて新しい仕事を得ていたりしていた。なお、American Community Surveyの二次分析結果は、『ソシオロジスト』第16号(2014年3月発行)に「戦後アメリカに移住した日本人女性の動態」としてまとめ、報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2012年度の遅れは、2013年8~9月にかけて約3週間現地にインタビュー調査に行ったことによりおおむね回復した。しかし一部のインフォーマントと都合が合わず、フィールド滞在中にインタビューを実施できないケースがあった。この点については2014年度の夏休みに現地に渡航し、インタビュー調査を追加実施する予定である。 また、American Community Survey公開データを分析しているうちに、個票データどうしの中から夫婦を取り出して分析できる可能性が見つかったが、データを一つ一つ照合する必要がありその加工に多少時間がかかるため、2013年度中のデータ加工は見送った。これについても2014年度中にデータ加工を進め、再分析を追加して行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
2014年度は引き続き以下の作業を進める計画でいる。 ①サンフランシスコ・ベイエリアに移住した日本人女性へのインタビュー:2014年度の夏休みに渡米し、調査対象者に対して渡米前後のライフヒストリー、本人の認識する「日本人」アイデンティティ、日系コミュニティへの参加状況とそのネットワークにたどり着いた経緯、を中心とするインタビュー調査を行う。 ②日本人コミュニティの調査:移住した日本人女性が現地において形成する日本人コミュニティについて資料の収集、行事への参加、本人および周囲の人がどのようなコミュニティを形成しているか、現地で発行されてきた日系新聞、各日系コミュニティで発行する資料、インターネット記事などの分析と、現地に移住した日本人女性への聞き取り調査を行う。 ③American Community Surveyのさらなる分析:2013年度に同データを分析するうちに、個票データどうしの中から夫婦を取り出して分析できる可能性が見つかった。データを一つ一つ照合する緻密な作業が必要があるが、2014年度中にデータ加工を進め、再分析を追加して行う予定である。 ④これまで収集したデータを分析し、学会発表および論文執筆を通して研究成果を発表する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初は2013年夏にインタビュー調査とともにアメリカ社会学会へ参加し、現地の移民研究の情報収集をすることを予定していたが、インタビュー実施地域(サンフランシスコ)と学会会場(ニューヨーク)とに距離があり移動に時間もとられるため、調査を優先しアメリカ社会学会参加を見送った。そのため旅費使用額が当初予定より少なくなってしまったことが次年度使用額が生じた一つの理由である。 また、2013年度の調査では一部のインフォーマントとの予定が合わないケースが生じたため、インタビュー実施とデータの収集を2014年度夏まで継続することにした。これに伴い、2013年度はインタビューデータのテープ越しを専門業者に依頼せず先送りにしたため、次年度使用額が生じた。 2014年夏に、これまでに予定があわずインタビューが実施できなかったインフォーマントを中心に最終的なインタビュー調査を実施する予定である。また2014年度のアメリカ社会学会はサンフランシスコ開催のため、あわせてこれに参加し、現地の移民研究の情報収集も行う予定である。次年度使用額は夏のインタビュー調査の実施とアメリカ社会学会参加のための旅費と、これまで収集したデータのテープ越し代として使用する予定である。
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