2012 Fiscal Year Research-status Report
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24530671
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
山本 武利 早稲田大学, 政治経済学術院, 名誉教授 (30098412)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 占領期 |
Research Abstract |
検閲研究はGHQ文書の米国立公文書での公開やプランゲ文庫の整理・公開とともに1970年代前半から進み出した。この中でGHQ文書とプランゲ検閲資料の双方を使った研究として江藤淳『閉された言語空間-占領軍の検閲と戦後日本』(文藝春秋、1989)がある。 占領後期にGHQは検閲の実態を追跡困難にするために、膨大なCCD資料を意図的に捨てたり、散らばらせたりした。そのためCCDの全体像がつかみにくい。申請者はその資料群に挑戦し、『占領期メディア分析』(法政大学出版局、1996)で江藤の研究を新資料の活用で越えようと努めた。また申請者を代表とするグループが、プランゲ文庫から資料価値の高い雑誌記事を精選した『占領期雑誌資料大系』(大衆文化編、文学編、全10巻、岩波書店)を2010年に完成させた。申請者は文学編に「占領と検閲」を連載、検閲の仕組みを概略的に把握するのに成功した。 研究分担者として、基盤研究(B)「民間情報教育局による戦後対日情報政策の実証的研究」(代表 土屋礼子)を2010年から開始し、戦時中の日米の心理戦、占領期の世論調査および国民性調査の資料調査に取りかかってきた。さらに2011年からは基盤研究(B)「占領期日本の情報空間-検閲とインテリジェンス」(代表 梅森直之)で、CCDが担う検閲との関連を視野に入れた研究を同時並行的に進行させてきた。二つの基盤研究において主要な役割を任じている。 第1年度は従来のこうした関連研究をふりかえり、それらで欠如した視点、資料の補完に注力し、2年度以降の展望を開けるようになった。とくに国立国会図書館でCCDのマイクロフィルムにあたり、検閲の方針、メカニズムの資料を幅広く収集した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
国立国会図書館憲政資料室に通い、GHQ資料の中のCCD、CIE資料のマイクロフィルムに当たり、GHQの検閲の方針、検閲のメカニズム、メディアの対応などのリポート関係資料を収集した。さらに、同館所蔵の雑誌、新聞の検閲資料(プランゲ文庫)に当たり、発禁、部分削除などの実例を集める作業を進めている。この作業と同時並行して、1990年代から収集した膨大な資料群を再整理して、それらの目次のデータベース化を独自に展開している。これらは私が代表者として作成し、公開中の「占領期新聞・雑誌情報データベース」のさらなる拡張に活用する予定である。 大阪、広島、長野、名古屋、仙台などで戦中、占領などの近代日本史の資料収集にあたり、その成果の分析を進めている。 またこれらの中間成果を各種の研究会で報告し、同じ研究意識を持つ研究者と討論し、彼らの意見を吸収し、分析を深めるように努力している。研究報告は日本だけでなく、中国など海外研究者も対象としている。 中間報告として、「CCD資料の中での「CCD日報」の価値」を雑誌『Intelligence』13号(2013年3月刊)に寄稿した。
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Strategy for Future Research Activity |
申請者の最大の関心事は検閲当局と書き手、編集者とのせめぎ合いを示すプランゲ文庫所蔵の豊富な資料群にある。検閲に抵抗して刊行を諦めたり、拒否したりする者、空白を許されない削除部分をわざと埋めずに刊行し、前後の脈絡のなさにとまどう読者を無視する者がいるにはいるが、大多数は削除部分を書き直していた。そこでもGHQの方針に迎合する積極的協力者から、ごく一部のみを修正し書き直す消極的協力者までがいた。検閲のプロセスを明らかにすることから、こうした書き手の対応を量的に把握し、その内容のデータベース化を図る。 CCDが隠れたメディア検閲機関であるのに対し、CIEはメディアを表から指導する機関である。CIEは指導や情報提供を通じ、メディアのコンテンツをGHQの望む方向へ動かそうとした。検閲という観点から見ると、CCDは直接的、CIEは間接的であった。また日本人の世論操作や意識変革というプロパガンダ的視点から見れば、CCDは消極的(ネガティブ)、CIEは積極的(ポジティブ)な役割を演じた。日本の政治、社会やメディア全体をGHQが陰から間接的に支配する作戦が浸透する中で、CIEはメディアや教育活動を派手に変革させる直接的な統治機関であった。 本研究ではプランゲ文庫、アメリカ国立公文書館、議会図書館等が所蔵する占領期新聞・雑誌データベースや戦前の日本の検閲資料から検閲のプロセスを明確化する。そのため、米国での資料調査を行うが、それらの資料は、研究代表者がこれまで取り組んでいる「占領期新聞・雑誌情報データベース」とともにウェブ上で取扱い、海外の研究者と情報を共有する。また、国際共同研究としてのデータ分析についても、分析結果を交換しながら取り組む。米国および日本国内で研究成果発表のシンポジウムを行い、研究成果を社会に発信する。最終的には英文による成果報告を取りまとめ、さらに出版を目指したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
第2年度においては、資料の補充をアメリカで重点的に行うと同時に、内外研究者との交流や、最終成果のための基礎固めに出費する。申請者の所属するCIE、CCD研究班では米国立公文書館、プランゲ文庫などで資料発掘をすでに進めてきた。またこの研究人員は一部オーバーラップしているので、海外調査活動のシェアリングによる経費・時間節減を図ってきたが、今年度ではCCD研究班と一層相互補完の関係で進めたい。 国立国会図書館での雑誌、新聞の検閲資料にあたり、それらの資料をコピーする(20万円)。アメリカメリーランド大学のプランゲ文庫へ行き発禁、部分削除などの実例を集める作業を1週間行う(航空券、宿泊費40万円)。また隣接するアメリカ国立公文書館でも関連するGHQ資料を集めるために1週間費やす(宿泊費20万円)。二つの資料館でのコピー代10万円を見込むさらにアメリカの研究者との交流のための費用が若干必要となろう。 大阪、広島、長野などで戦中、占領期などの近代日本のメディアやその受け手の資料収集にあたる(20万円)。これらの資料の整理を図り、目次のデータベース化を図る(10万円)。これらのデータ資料は、筆者が代表者となって10年余りの長期間で作成し、公開している「占領期新聞・雑誌情報データベース」のさらなる拡充を図る。 こうした研究の成果を世に問うために『GHQの検閲・諜報・宣伝工作』(岩波書店)を平成25年度中に刊行すべく準備中である。この編集作業協力者への謝金も必要になろう。 さらに新曜社からの出版を平成26年度に行うための準備を25年度中に開始したいが、そのための費用は間接費に依拠したい。
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Research Products
(5 results)