2012 Fiscal Year Research-status Report
虐待が生成する家族の相互作用と関係性の特性についての臨床社会学的研究
Project/Area Number |
24530679
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
中村 正 立命館大学, 産業社会学部, 教授 (90217860)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | 子ども虐待 / 加害者臨床 / 暗黙理論 / スキーマ分析 / 男性性ジェンダー / 家族システム論 / 臨床社会学 |
Research Abstract |
子ども虐待は複雑な要因が絡み合った問題であるが、家族再統合の一環としてとりくむ虐待親のグループワーク参加者や児童相談所において実施している夫婦面談と個人面談の臨床データから、加害者臨床についての一定の方法論(他罰性に注目した臨床理論)を抽出した。児童相談所は、虐待に対して「介入」と「支援」の相反する役割を果たさなければならないが、その後の家族再統合計画を当事者家族とともに構築する過程、その際に子どもの最善の利益を実現させるという見地から、虐待のある家族のシステムに効果的に介入できた事例をもとにして虐待する家族の特性を導出するための臨床社会学的な分析を行った。 大阪市で虐待が原因で児童養護施設に入所したケースのうち、アクションリサーチとしての本研究の対象としたグループワークにのせることができた家族は全体の10%(20家族)であった。現在は、大阪市内から大阪府全域にこの対象が拡大している。平成24年度の成果としては家族再統合支援の渦中にある虐待当事者の加害のナラティブのための暴力・虐待の「言い訳」分析を行った。これは暗黙理論と呼ばれる加害者臨床の方法を家庭内暴力に応用したものである。そこで得られた言説分析は虐待を構成する認知のスキーマとなって作動していることを言い訳データをもとにして整序した。そしてそれはまた社会のなかの暴力性にも根ざしていることを明らかにし、社会臨床的なテーマをもつものとして考察した。 さらに、男性性ジェンダー論の視点からの暴力論としてもこの虐待生成のメカニズムをとらえるための理論的な参照枠について検討を加え、ロウエン・コンネル、ランドール・コリンズの暴力論や男性論を整理した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
虐待のある家族への「臨床社会学的な介入と支援」をもとにしてデータを集め、虐待生成の過程をクリアにするためのアクション・リサーチの場づくりとしての仕組みは定着させることができている。そこでの関与的観察(臨床的観察)をもとにして加害者臨床への示唆を得る手がかりを言い訳分析と関わり進めることができた。 その場としてのグループワークは月に2回開催している。一回2時間、大阪市内で開催している。児童相談所と連携して虐待する父親むけのグループワーク(男親塾)であるが基本は児童相談所のケースワークをもとにしているので、虐待家族システムの全体像(ホロン)の把握が可能な段階まできている。それと並行して、個人面談、夫婦面談、ファミリーカンファレンス、多職種連携会議(家族臨床のスーパーバイズや研修を兼ねている)を重層的に設定している。 グループワークの内容は筆者がかねてより調査をしている世界各国の加害男性向けプログラムを参考にしているが、基本はオープン参加方式の半構造化されたグループワークであり、社会臨床的な見地から、男性ジェンダー論をもとにした認知行動的変容を促進させる内容としている。これはあくまでも心理-社会的なアプローチであり、司法臨床としては制度が未確立なのでこうしたアクション・リサーチや関与的観察と臨床的記述を可能にする仕組みづくりが進んだということは虐待家族の動態に関してのデータを収集できる体制を整えたということを意味するので、おおむね順調に進展していると自己評価した。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は虐待家族のシステムの全体像と暴力・虐待がシステムにとってどのように組み込まれているのかについての臨床社会学的な体系化を行うための年度として位置づける。研究方法としては、①グループワークでの発話データをもとにした「テキストマイニング」による加害の自覚や男性性ジェンダー認知の深まりの程度を把握すること。②同じく暴力を正当化する文脈や意味づけの変化の程度を「コンテキストチェンジ」として把握すること(なかでも他罰性の程度の確認や暴力的でない自己表出やそのことの評価の把握をおこなうここと)。③虐待の「デプスメモリー」の内容分析をおこなうこと(エピソード記憶の提示の頻度や深さとその内容の主題が子ども中心かどうかの把握)、④「インタラクションプロセス」(他のグループ参加者へのフィードバックの様子)の分析という大分類をおこない、意識と行動変容を調査し、記録することとしている。これらを統合して臨床家族社会学研究法として組成していく計画である。①から④をいわゆる認知行動的なアプローチとして収めてしまうのではなく、「加害のナラティブ」論としてまとめるためのデータを得ることとする。最終年度にかけて構想する総合的な脱暴力臨床論・加害者臨床論のための基礎となる研究を進めることとする。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
主要にはアクション・リサーチ、臨床をとおした関与的観察の場としている虐待親向けのグループワークや臨床的対話を円滑にすすめるための臨床心理士との連携を行うための費用(人件費)として活用する。さらに、そこでの発話データを分析するための方法(暗黙理論やライフストーリーワーク法を虐待者のパーソナリティ分析に応用する専門的知識を得るための費用として活用する。くわえて、こうしたグループワークがすでに制度化されている外国への調査費用にも充当する。
|