2013 Fiscal Year Research-status Report
虐待が生成する家族の相互作用と関係性の特性についての臨床社会学的研究
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24530679
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
中村 正 立命館大学, 産業社会学部, 教授 (90217860)
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Keywords | 子ども虐待 / 家族システム / 臨床社会学 / ライフストーリーワーク / 加害者臨床 / 更生理論 / ドメスティック・バイオレンス / 家族再統合支援 |
Research Abstract |
これまでの虐待研究や虐待対策において支配的であり、心理化・医療化・法律化の傾向のなかで前景化しているリスク論についての理論的な検討をくわえた。このリスクアプローチは更生理論においても批判的な論議の対象となっている過程をまとめてきた(本年度業績参照)。 平成25年度は大阪市・大阪府の児童相談所が関わる虐待家族に対してこうしたリスクアプローチではないアクションリサーチを試みてきた(子ども虐待については年間24回のグループワークを実施した。夫婦面接、父親面接、家族面接として24回の個別面談を実施した。これらはそれぞれ事例研究として家族動態の変化を観察している。そのなかの5名の父親については当事者の同意のもと、匿名でメディア・アピアランスを実施し、こうしたグループワークや脱暴力支援の役割についてのナラティブを得た)。 このような実践的研究の結果、虐待問題は家族運営上の困難さとそれらへの(不適切な)問題解決行動という連続体(スペクトラム)のなかにあることが確認できた。たとえば、望まない妊娠と出産、親自身の障害や心理的問題、再婚家族の親子関係形成の課題、慢性的な過労状態にある父親とそのストレスの家族への環流、子ども自身の行動問題、夫のDVとの重なり、未熟で粗暴かつ乱暴な子育ての是認、子育てへの無知、自己実現欲求の肥大化等が諸困難としてあり、それらへの不適切な問題解決行動として虐待が生成するシークエンスがある。 また、平成24年度のイギリス調査で得たライフストーリーワーク(LSW)の実践を虐待研究に取り入れるための基礎研究をおこなった(平成25年度は合計6回の研究会開催)。LSWは子どもの最善の利益のための虐待対応とするための援助技法として位置づけている。家族や親のための虐待対応ではなく子どものための虐待対応とするための基礎的実践として家族再統合支援に組み込む必要性が確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
狭義の虐待行為にのみフォーカスするのではなく、それが生成する家族的相互行為(シークエンス分析)を対象とし、そのなかに要援助性(ニーズ)を見立て、必要な社会的資源を配置し、虐待的システムを置換していく手法(援助技法)としての臨床社会学的実践を展望している。公的機関と連携した虐待家族へのグループワークや面談の実施、家族システム論の見地からの動態把握、当該家族担当のファミリーソーシャルワーカーとの連携、児童虐待にかかわる専門職者の研修やスーパーバイズの仕組みの開発等として子ども虐待にかかわるシステム組織化という点で研究がすすんでいる。特に、ライフストーリーワーク実践の組み込みは虐待当事者のライフストーリーワークという面も加味して「加害のナラティブ」が促進されることにもなり、加害者臨床論として深めていくことができると位置づけている。これは虐待する当事者の加害行為の自覚と虐待ではない行為への分岐点があったことの発見につながり、虐待をしない生活とパーソナリティ形成にむけた努力へと対話を拓く可能性がある。また、虐待が生成する家族の相互作用という視点からの研究は高齢者虐待家族にも応用可能であると判断し、平成25年度は高齢者虐待家族を担当する地域包括のケアマネジャーらへのスーパーバイズの実践研究をも開始した。家庭内暴力と加害者臨床に関する社会のニーズに応答する研究としての手応えを実感している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度は研究最終年度となるので総まとめをおこなう。アクションリサーチのため、実践研究として関わっている家族の問題解決や事案終結までは記述の対象とできないが、そのシークエンスの組み替えが可能となった画期について、とくに子どもの成長、発達の節目と家族再統合の経過について、本研究で取り組む家族再統合支援がどのように作用したのかの評価も加味してまとめとする。すでに開発して臨床実践している暴力加害行為者への更生メニューとそれを当該家族が自らのものとして取り入れていく経過の詳細を「脱暴力ポートフォリオ」(あるいは「脱暴力プロファイル」)とする。これが実践的研究のまとめの中核をなす。この記録化の仕方それ自体がアクションリサーチの成果ともなるように工夫する。その「脱暴力ポートフォリオ」としての研究のまとめそれ自体には、これまでとは確実に違う行動を取り入れ、変化を具体的なものへと導くための制度理念としての「修復的正義」「治療的司法」の概念が含まれるし、加害者臨床における更生理論の刷新(Good Lives Model論等)が記述されるだろうし、虐待を「行動問題」として把握しそれを自らが対象化するアプローチ(ストレングスアプローチ)の効果が記述されていることになる。換言すると、加害の告白を先行して求めない、心理教育の施しではない、従順な反省だけを引き出すのではない、自発的な変容を促すための、強制を意識させない合理的選択としての制度設計と援助技法の構築になるような提案も含まれるようにする計画である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
家族再統合支援のためのグループワークのコンテンツ分析作業が遅れていることやそれをもとにした脱暴力へのテキストマイニング作業が十全にすすまなかったことが理由である。 加害のナラティブ研究に役立つテキストマイニング理論の摂取を計画的におこなうこととそれをささえるライフストーリーワーク研究の組み込みについての研究をさらにすすめることとする。 テキストマイニング分析にかかわる研究、ライフストーリーワークにかかわる調査のための旅費(イギリス、ニュージーランド、国内3カ所)、虐待家族グループワーク実施にかかわる研究などに使用する予定。
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