2013 Fiscal Year Research-status Report
イギリス障害者運動における社会モデルの源流を求めて
Project/Area Number |
24530719
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Research Institution | Hokusei Gakuen University |
Principal Investigator |
田中 耕一郎 北星学園大学, 社会福祉学部, 教授 (00295940)
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Keywords | 社会モデル / UPIAS / ディスアビリティ / 障害者運動 / 運動組織 / 障害学 |
Research Abstract |
今年度は、組織結成直後から『UPIASの方針』公表に至る18ヶ月間に及ぶUPIAS内部の議論を辿りながら、UPIASの運動組織としての外形的構造化、及び、後年、社会モデルのアイディアに結実することになる初期フレーミングを分析した。また、道内の研究会での報告に向けて、研究全体の構成を再検討し、研究成果をII部11章の構成にまとめる見通しを得ることができた。 組織の外形的構造化の分析においては、組織の発生的分析から始まり、メンバーシップの構成過程、メンバーたちによるコミュニケーションの手法と特徴、活動予算の確保の仕方、組織規模の変動過程と運動の持続的展開のための組織機構の形成、そして、組織運営の手法や内部規律の形成過程、リーダーシップとフォロアーシップとの関係、さらにコアメンバーや組織内分派及び地方支部の設立過程を検証した。 また、初期フレーミングの分析においては、『UPIASの方針』に結実することになる「抑圧」の意味や「障害理論」の必要性をめぐる議論、UPIASが隔離の象徴として捉えた「長期入所型施設」をめぐる議論、その他イシューとして同定されたものの特徴とそのイシュー化の意味、組織名称をめぐる議論などを分析対象とし、社会運動論におけるフレーム・アナリシスの知見とその分析枠組みを援用しながら、UPIASのディスアビリティをめぐるフレームの形成過程と、そのフレームが個々のメンバーや組織外部の潜在的メンバーらのフレームとどのように共鳴し、架橋されていったのか、という点を明らかにした。 また、平成24年度に執筆を終えていた1本の論文と合わせて平成25年度に書き終えた論文を、北星学園大学社会福祉学部北星論集に発表した。加えて、道内福祉系大学の研究者による研究会にて、「『隔離に反対する身体障害者連盟:UPIAS』の研究」と題して研究報告を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、平成25年度の達成課題として、UPIASが社会モデルのアイディアを公表した『障害の基本原理』における言説分析と、UPIASのリーダー、ポール・ハントの死から1970年代後半にかかる「UPIASの危機と再生」の経緯を辿ることを挙げていたが、研究の進展に伴い、研究全体を再構成し、今年度は組織の外形的構造化およびUPIAS結成初期のフレーミングの分析に取り組んだ。平成25年度の達成課題については、平成26年度の前半に取り組む予定である。 研究課題の優先順位を変更したものの、現在のところ、研究の全体構成として予定している全11章のうち7章までの執筆を終えており、概ね順調な進展であると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度前半は、UPIASの『障害の基本原理』(FPD)における議論を、言説分析の枠組みを援用しつつ検証したい。具体的には、障害者連合(Disability Alliance: DA)との合同会議に至る経緯、公表されたFPD誌上における言説群、さらにDAとの会議後、UPIASの内部回覧文書上における組織コメントをめぐって交わされたUPIAS内部の議論などを素材として、FPDにおける言説がどのような意図により、どのような意味を形成し、誰にそれを伝達しようとしたのか、また、FPDにおいて、どのような下位単位での命題がマクロ命題(テーマ)に結束しているのか、さらにはFPDに表現されたテクストや内部回覧文書を通した「トーク」を生み出した言説空間とはいかなるものだったのか、などの点について検証してゆく。イギリス障害学において、FPDはUPIASの初期思想の結晶であると同時に、その後のイギリス障害者運動はもとより国際的な障害者運動・障害学の展開の核となる社会モデルの原型的思考が盛り込まれたテキストとしてよく知られている。しかし、このような意義と重要性が広く認められてきたにも関わらず、このFPDにおける言説を詳細に検証した研究は未だ不在である。故に、おそらくこの作業は、イギリス社会モデルの原基を発掘してゆく作業となるだろう。 平成26年度後半では、1970年代後半における組織存続の危機と再生に向かう集中的議論を検証してゆく。具体的には、UPIASにおける思想と活動との乖離や、ポール・ハントをはじめとする数人の理論的リーダーと他のメンバーたちとの距離化などに起因した亀裂や葛藤、そして、ポール・ハント亡き後のメンバーたちの喪失感など、「UPIASの危機」とそこからの再生の経緯について明らかにしたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初の研究計画では、平成25年度2月下旬頃に、元UPIASのメンバーで英国障害者協議会議長の故Vic Finkelstein氏のご息女、及び元UPIASメンバーの女性障害者への聴き取り調査を予定していたが、両名の事情で実施できなかったため、予算計上していた渡英費用を使用しなかった。 平成26年度も引き続き、聴き取り調査の打診を継続するが、実施できなかった場合には、文献と一次資料の収集、学会・研究会への参加費・旅費に充当したい。
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