2012 Fiscal Year Research-status Report
大大阪期の企業家による社会事業への貢献に学ぶ企業の社会的責任の研究
Project/Area Number |
24530753
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kyoto Koka Women's University |
Principal Investigator |
小笠原 慶彰 京都光華女子大学, キャリア形成学部, 教授 (00204058)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | フィランソロピー / 五代五兵衛 / 大阪盲唖院 |
Research Abstract |
五代五兵衛は明治期、つまり社会福祉がまだ慈善事業とか感化救済事業といわれていた時代に視聴覚障害児教育の必要性を認識し、実際に学校を創設、維持した。それは企業家のフィランソロピーともいえるし、社会起業ともいえる。 明治期以降の大阪におけるフィランソロピストとしては、大阪毎日新聞慈善団を創設した本山彦一や日本生命済生会創設者の弘世助太郎は、良く知られた例外的存在である。しかし彼らに限らず大阪で社会事業家を支援した在阪の実業家や企業家は、数多いる。企業家では、中山太陽堂(現・クラブコスメティックス)の中山太一、寿屋(現・サントリー)の鳥井信冶郎、早川金属工業(現・シャープ)の早川徳次、中山製鋼所の中山悦治、久保田鉄工所(現・クボタ)の久保田權四郎、新田帯革製造所(現・ニッタ)の新田長次郎等はすぐ思いつく人物である。それより以前の実業家から列挙すると、まず、油商の岡村平兵衛がいる。彼は精油技術を使って大風子油を精製し、自宅でハンセン病患者を世話した。また靑木庄蔵、岡島千代造、森平兵衞、中村伊三郎、岡島伊八、金澤利助等である。 そしてとりわけ異色な人物として、自らも全盲という視覚障害の実業家であり、その立場を超えて大阪の視聴覚障害児教育に貢献した五代五兵衞がいるということになる。このような人物の研究がさらに進められて、余り知られていない明治期大阪における企業家の社会事業への貢献が明らかになれば、企業の社会的責任論とも関連して、大阪の社会事業を支援した重層的な人物像がより明確になるだろう。そしてそれは自発的社会福祉の歴史的な淵源を探る事でもあるに違いない。 24年度は、こうした五代五兵衛の事績について研究論文をまとめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、大大阪期の企業家が行ったフィランソロピーについて、代表的な企業家をとらえてその事績を明らかにすることが目的である。代表的な実業家とし、たとえば中山太一、鳥井信冶郎、早川徳次、中山悦治、久保田權四郎、新田長次郎、岡村平兵衛、靑木庄蔵、岡島千代造、森平兵衞、中村伊三郎、岡島伊八、金澤利助等がひの代表的企業家の一部である。 24年度は、その中で五代五兵衛について取り上げ、彼が大阪盲唖院の創設と維持、公立移管に果たした役割を検討した。 五代五兵衛は明治期、つまり社会福祉がまだ慈善事業とか感化救済事業といわれていた時代に視聴覚障害児教育の必要性を認識し、実際に学校を創設、維持した。それは企業家のフィランソロピーともいえるし、社会起業ともいえる。そして岡村重夫の言葉を借りれば、自発的社会福祉に相当する行為でもあるだろう。そして学校が公立化されることによって、起業の段階での役目を終え、再び岡村の用語を用いれば、法律としての社会福祉に当る存在に転換したと評価してよいだろう。 24年度はこうしたユニークな企業家のフィランソロピーについて明らかにできた。 25年度と26年度は引き続き先にあげたような企業家から何人かを取り上げてその事績を調査し、論文にまとめる予定であり、現在それに必要な資料を入手しつつある。それによって25年度にも1篇か2篇の論文を執筆する予定であり、研究はおおむね順調に進んでいると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
研究期間第2年度には、特に大大阪期に社会事業に顕著な貢献をした在阪企業家・実業家の属した企業等の社史等の関連資料その他の史資料を入手する。これらについては、企業論・企業史および日本近・現代史の専門的視点から研究協力者の示唆を得つつ、研究代表者(小笠原)が社史の入手を中心とした資料収集を実施する。 これらの資料をもとに研究代表者および研究協力者により、可能な限り対面的な意見交換を実施して、多様な視点から分析を行う。 以上のように図書や史資料の入手に伴って、研究代表者、連携研究者による意見交換を電子メール等によって行う。しかし、対面的な意見交換も不可欠であるので、研究代表者が研究協力者の勤務校等に出張(京都→首都圏)する。 さらに国立公文書館、国会図書館等に所蔵されている資料、特にマイクロフィルム資料は、現物を閲覧しながら内容を確認する必要があるので、研究代表者が出張(京都→東京)してその任に当たる。また、特に大大阪期における在阪企業の状況について詳しく知るために、企業史の専門家に研究協力者として専門的知識の提供を受ける。 第3年度には、研究の成果をまとめ、研究代表者(小笠原)が関係学会(日本社会福祉学会、日本地域福祉学会、社会事業史学会のいずれか)で発表し、また学術雑誌(『京都光華女子大学紀要』等)で公表する。また最終年度中にまとめる予定の論文「大大阪期の在阪企業経営者の社会貢献から学ぶ企業の社会的責任」(仮題)を踏まえて、在阪企業家・実業家が果たした社会事業への貢献について考察し、企業の社会的責任について学ぶべきことを最終成果報告書として準備する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
①大大阪期に社会事業に顕著な貢献をした在阪企業家・実業家の属した企業等の社史等の関連資料その他の史資料を入手に17.5万円(設備備品費)。 ②研究協力者との対面的な意見交換を実施するために研究代表者が研究協力者の勤務校等に出張(京都→首都圏)する出張旅費、国立公文書館、国会図書館等に所蔵されている資料、特にマイクロフィルム資料を、現物を閲覧しながら内容を確認するために研究代 表者が出張(京都→東京)してその任に当たるための出張旅費、合計年2回分(京都→横浜および東京)で9万円(旅費・資料複写費)。 ③研究第2年度までの成果発表を関連学会で行うための出張旅費6.5万円(旅費)。 ④企業史の専門家に研究協力者として専門的知識の提供を受ける謝金として2.5万円(人件費・謝金)。 以上を予定している。
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