2012 Fiscal Year Research-status Report
成年後見制度における社会福祉士の視点を生かしたアセスメントシートによる実証的研究
Project/Area Number |
24530754
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Nagano University |
Principal Investigator |
山口 理恵子 長野大学, 社会福祉学部, 准教授 (90582263)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | なし |
Research Abstract |
2000年の社会福祉基礎構造改革により創設された成年後見制度は、施行12年を経た現在、申立件数の増加とともに制度に内在する多くの問題が指摘されつつある。2012年度はこのような課題のうち社会福祉士が成年後見制度を受任する際に最も専門性を発揮するといわれる身上監護において本人不在となった事例を中心に課題を整理し、実践を通してアセスメントシート作成の基礎となる研究を行った。 成年後見制度における最大の課題といわれる「本人の意思の尊重と本人の保護の必要性とを後見人の客観的視点も踏まえ、どう整合させていくか」という問題に対し、まず社会福祉士の受任事例から、本人の意思が十分に尊重されなかったケースを「本人不在問題」とし、独立型社会福祉士に対して次の2つの視点を基にヒアリング実施した。①社会福祉士という専門職の視点からどのようなケースを「本人不在」と捉えているのか。②どのような場面や経緯をもとに判断し、結果的に「本人不在」となったか。さらにそれぞれの事案について、どのような根拠に基づき最終的な支援の方向性が導き出されたのか、その過程の検証を通じて本人不在問題に対する一定のガイドラインを作成する基礎となるものを導き出した。 その結果、後見制度の利用動機の正当性はともかく、制度利用が本人の最善の利益につながるように支援の行うことが重要であり、意思決定者が本人の最善の利益に到達するためにはソーシャルワークの視点を重視した過程(プロセス)を経る必要性が明らかになった。またガイドライン及びアセスメントを作成することは、後見人等の側からみれば代行決定をするにあたり本人の意思を十分精査したことの証明となり、後見人責務としてのリスク回避にもつながる。同時に社会福祉士によるソーシャルワークの視点に基づいた身上監護の専門性を担保することとなることを示唆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度実施計画に掲げていた資料研究及びアセスメントシート構築のための実践研究のうち資料研究である「成年後見問題研究報告書」、「成年後見制度の改正に関する要綱試案」については先行研究における分析を整理した段階であり、まだ自己の新たな視点に基づく検討にいたってはいない。理由は次のとおりである。平成23年度にNPO法人「シビルブレイン」の調査スタッフとして関西3府県110市町村に対し、成年後見制度利用支援事業の実施状況の調査(アンケート、ヒアリング)を行った。平成24年度は同NPO法人の調査報告書を作成するにあたり編集作業にも携わった。したがってこれを基礎資料とし、同24年度より開始した障害者分野における同事業の必須化に対する実施状況の分析を行い、自らの問題意識と独自の視点に基づく同事業の現状と課題について考察をまとめ、論文投稿を行った。これは平成26年に実施予定である成年後見制度の利用を社会福祉の法定サービスとすることをめざす本研究に対し、24年時点における自治体の格差の状況把握と成年後見制度利用支援事業の課題について整理を行うという視点から26年度研究の基礎的研究として位置づけられる。 一方、24年度に予定していた社会福祉士における成年後見受任事例から被後見人等の最善の利益を追求するためのアセスメントシート作成の準備については、予定通り社会福祉士に対するヒアリングを実施し、現在実践の場面で課題とされている「本人不在問題」に対する基礎的考察、「成年後見制度における「本人不在問題」に関する研究-社会福祉士による受任事例を中心に-」として日本社会福祉学会第60回大会にて、自己決定と本人保護のバランスを図るための方法論について一定の成果の発表を行った。当初計画していた成年後見制度創設時の資料研究については次年度へ持ち越すこととなったため上記の評価とした。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は成年後見制度創設時における資料①「社会福祉基礎構造改革中間まとめ」、②「成年後見問題研究報告書」、③「成年後見制度の改正に関する要綱試案」のうち特に①②を中心に財産管理と身上監護の位置づけの変遷について検証を行い、今後社会福祉の視点に基づく双方の職務の目指すべき方向性に対する研究を行う。具体的には上記をふまえ、平成24年度に行った研究成果に基づきソーシャルワークの視点を重視したアセスメントシートの作成し、独立型社会福祉士による実践での活用をふまえて課題と改善を繰り返し、より的確なアセスメント方法を構築する。アセスメントシート作成手順は以下のとおりである。1.後見事務の内容から身上監護用と財産管理用の2種類のアセスメントシートを作成する。2.高齢者と障害者の特性に配慮したものを作成する。3.計4種類のアセスメントシートについて研究協力者を中心とした社会福祉士に使用を依頼し改善点について事例検討会等の場で話し合う。その際特に次にあげる点に留意する。a.対象者属性(障害者・高齢者)から生じる制度の違い、b.専門職同士、あるいは専門職と親族後見等、複数後見における課題、c.親族に対する専門職後見監督人の視点から生じる課題、5.実践とともに先行研究や海外における先駆的実践を基にアセスメントシートの改善を重ねる。 5については近年注目されているイギリスにおける2005年意思決定能力法(The Mental Capacity Act 2005)による行動指針におけるベストインタレストの視点も参考とし、この意思決定支援としてのしくみを比較・検証することにより、現行制度の中でソーシャルワークの視点に基づくアセスメントを具体化していく手段を、実践と理論の双方からの分析を行い、最終的なアセスメントシート構築を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度については複数の社会福祉士にヒアリングを行うため、先方の都合によってはヒアリングを分けて実施することも考えられるため旅費を多く確保する。物品についてはパソコン等高額なものについては24年度に購入しているため、昨年度より10万円低く予定している。従って以下のとおりとなる。(1)物品費 100,000(先行研究を含む関連書籍、自治体報告書、学会誌等)(2)旅費 300,000(ヒアリングにおける上田⇔大分間又は上田⇔福岡間 計年3回)(3)人件費・謝金 50,000(社会福祉士5人で想定) (4)その他 50,000(会場使用料、研究協力者学会費)
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