2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24530789
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | Gunma University of Health and Welfare |
Principal Investigator |
大野 俊和 群馬医療福祉大学, 社会福祉学部, 教授 (70337088)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | 少子化 / 高齢化 / しろうと理論 / 誤信念 / 認知バイアス / 社会福祉 |
Research Abstract |
本年度は、今後の研究に向けたアイデアの生成のため、2点の研究を実施した。すなわち、①パイロット研究でのデータの再分析、②研究論文・書籍レビューを実施した。 ①以前に行ったパイロット研究でのデータの再分析を実施した。すなわち、丸山・小田(2008)の「高齢化社会クイズ」を改良し、73名の小中高教員に対し行った質問紙調査データを本研究の目的に沿って再分析した。0から100パーセントといった比較可能な質問形式を用いた23項目の中から、項目の正解と項目回答平均との乖離が大きく、かつ、回答の標準偏差が、23項目での回答の標準偏差平均よりも小さい項目として5項目を抽出した。この5項目の内容は、「核家族化=近年の産物」という誤解、「少子化=近年の産物」という誤解、「老後の暮らし」への誤解としてまとめられるものであり、またこの5項目のうち4項目は、丸山・小田(2008)でもとりわけ誤解が大きい項目として取り上げられていた項目であった。調査対象者の異なる2つの調査結果でほぼ一貫した結果が得られたことは、しろうと理論がきわめて頑強な形で存在していることを示唆している。 ②これまでの少子高齢化に関する議論整理および認知的なバイアスについての文献レビューを行った。具体的には、社会福祉学、社会学での論文・書籍をレビューし、戦後からなされてきた少子高齢化についての言説を整理した。社会心理学、リスク心理学、認知心理学といった学問領域で行われてきた、一次的バイアスをはじめとする認知的バイアスについての研究論文・書籍をレビューした。とりわけ、パイロット研究で共通してみられる「昔は良かった」、「世の中はこれから悪くなる」といった、根拠のないノスタルジーもしくは暗い未来についての認知的バイアスについてレビューを行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、交付申請書に記したように、文献収集に基づいた諸概念の整理を実施した。 ひとつは、わが国での少子高齢化問題についての議論の整理であり、もうひとつは、社会福祉だけでなく、社会現象についての認知上でのバイアスについての文献を収集し研究アイデアの生成を行った。この中で、人々が、少子化や高齢化が強調されるあまり、実際の数値以上に少子化や高齢化が生じていると認識している可能性があること、根拠のない少子化や高齢化の原因を重視しがちであること、少子化や高齢化によるメリットについてはまったく考慮されていない可能性のあることを指摘できた。 また、社会現象に関する認知的なバイアスの整理のため、複数の学問領域で行われてきた認知的バイアスについての研究論文・書籍をレビューを実施したところ、離婚や犯罪といった、我が国で見られる社会現象に関する人々の認識が軒並み実際よりもネガティブであること、「昔は良かった」ないしは「世の中はこれから悪くなる」といったノスタルジーバイアスとも言うべき認知的バイアスは広範な話題でみられること、そして、この認知的バイアスは、われわれ日本人が、知らない問題に直面したときに用いやすいバイアスである可能性が指摘できた。 以上、本年目的としていた文献レビューから、多くの概念整理と、パイロット研究との関連付けもなされており、あらたに「ノスタルジーバイアス」とも言うべきバイアスについての考察も深めており、この点からしても本年度の本研究目的の達成はおおむねなされていると言えよう。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の研究として、インタビューによる聞き取り調査を実施する予定である。すなわち、聞き取り調査を通じて、しろうと理論が、どのような知識を用いて構成されているかについて定性的に検討していく予定である。パイロット調査の結果、人々は一貫して、核家族化、少子化、高齢化の3点に関して極端に誤った回答をしていた。それでは彼らはどのような知識を用いて誤った回答に至ったのだろうか。誤った回答に共通してみられるノスタルジーバイアスはどのような過程を経てリアリティを得ているのだろうか。この点を検討するために、比較的自由に回答できる方法を用い、そこでの自発的な発言を眺めていくことが有効であると考えられる。 そのため、今後、50名程度の調査対象者に聞き取り調査を実施し、探索的に、聞き取り内容の定性的な分析を試みる計画である。具体的には、最初に調査対象者に、パイロット調査とほぼ同様の質問紙に回答してもらった後に、聞き取りを開始し、なぜそう回答したのかの理由を尋ねていくことを予定している。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度には2つの研究を予定している。ひとつは、半構造化面接調査を実施し、しろうと理論がどのような知識を用いて構成されているかについて定性的に検討することである。パイロット調査の結果、人々は一貫して、核家族化、少子化、高齢化の3点に関して極端に誤った回答をしていた。それでは彼らはどのような知識を根拠に基づいて回答に至ったのだろうか。この点を検討するため、50名程度の調査対象者に面接調査を実施し、探索的に、聞き取り内容の定性的な分析を試みる予定である。具体的には、最初に調査対象者に、パイロット調査とほぼ同様の質問紙に回答してもらった後に、聞き取りを開始し、なぜそう回答したのかの理由を丁寧に繰り返し尋ねていくことを予定している。この調査によって、調査対象者間で共通して用いられやすい知識の存在が明らかになることが予想される。なお、聞き取り調査のためには、録音用メディアの購入が必要となる。また、調査対象者への謝礼、聞き取りデータをテキスト入力する作業のために雇用する2名程度のアルバイトへの20日分の謝金が不可欠となる。 予定しているもうひとつの研究は、パイロット調査であきらかとなった結果を「ノスタルジーバイアス」という認知的バイアスとして解釈する試みである。上述のとおり、パイロット調査では、異なる内容をもつ3つのしろうと理論が見出された。しかし、実際のところ、これらの結果はたんに1つの認知的バイアスの示唆しているだけかもしれない。そこで、次年度は、再度質問紙調査を実施し、回答から項目間の因子構造を眺めながら「ノスタルジーバイアス」についての理解を深めることにしたい。 なお、質問紙調査の実施・分析のためには、印刷代および、SPSSなどの統計ソフトの更新代金、調査対象者への謝礼、データ入力作業のために雇用する2名程度のアルバイトへの7日分の謝金が不可欠となる。
|
Research Products
(1 results)