2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24530793
|
Research Institution | Tokyo Denki University |
Principal Investigator |
小林 春美 東京電機大学, 理工学部, 教授 (60333530)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
伊藤 恵子 十文字学園女子大学, 人間生活学部, 教授 (80326991)
|
Keywords | 非言語情報の統合的利用 / 言語獲得 / 指示意図推測 / 他者意図理解 / 視線方向 |
Research Abstract |
本年度は、1)意図理解能力と非言語情報との関わり、2)養育者の非言語情報産出能力の検討、3)発達障害を持つ児童の養育者へのカウンセリング支援を行った。 1) 意図理解能力と指さしの動きについての研究では、論文化を目指し調査対象者を増やし実験を行った。また、非言語情報の統合的利用に関し、ASD児を対象に東京大学進化認知科学研究センターの協力の下、調査を行った。モニターを介した実験状況において教示中の視線行動を調べたところ、定型発達児とASD児は、視線運動に変化がないことが示唆された。この研究は、日本発達心理学会第25回大会で発表を行った。また、定型発達児がどのようなタイミングで視線を送っているかをビデオ分析から検討したところ、実験者の教示中に相手の顔を見ていたとしても、子どもはテスト場面では事物を見ていたことが示唆された。 2) 養育者の非言語情報産出能力の検討に関しては、2012年度で発表したデータを論文化するために、二人の研究者と議論しコードの再確認や再分析を行った。また、ASD児の養育者が事物の名前を自分の子どもであるASD児に教えているときのデータを3点収録した。 3) 自閉症スペクトラム障害(autism spectrum disorders:ASD)児へのグループ指導の実施、およびその保護者からの各種相談に応じた。その結果、知能検査や心の理論課題の実施結果の高低とはかかわりなく、表情や視線、指さしといった非言語情報から他者意図をくみ取ることが乏しいということがうかがえた。この結果に基づき、他者意図への気づきや自己の感情への気づきを促すための各種ゲームを実施した。同時に他者の意図理解におけるかれらの日常的な問題の背景を探り,その具体的な対応を保護者とともに検討し、支援を実践した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
視線と指さしの非言語情報の統合的利用と養育者の教示時の指示行動を検討、及び発達障害児を持つ養育者のカウンセリング・支援に関しての研究進捗はおおむね順調に進展している。 1に関して、モニターを介した場合でも事物提示時の実験者の視線が語意推測に果たす役割が大きいことがわかった。対面状態ではASD児は非言語情報を言語との統合的に利用をすることが困難であるという報告があった(安田・小林・伊藤・高田, JCSS 2010)。一方、本実験で行ったモニターを介し教示者が事物の名称を教示した場合、ASD児は定型発達児と同程度に語意味を推測していた。モニターを介すことで、ASD児でも相手の注意方向を推測して意図推測を行う可能性があるという知見は、研究当初に予測されていた結果よりも新規性が高い知見である。また次年度この知見を様々な条件で調べられるよう注視点計測装置を購入した。 2に関して、24年度の国際会議発表において、審査者から指摘を受けたコーディング方法について再度検討した。このことで国際ジャーナルに投稿する下地ができたと考えられる。また、ASD児の養育者が事物の名称を子どもであるASD児に教えているときのデータを3点収録した。 3の養育者カウンセリングについては、ASD児へのグループ指導の実施、およびその保護者からの各種相談に応じた。その結果、知能検査や心の理論課題の実施結果の高低とはかかわりなく、明示されることのない表情や視線、指さしといった非言語情報から他者意図をくみ取ることが乏しいということがうかがえた。しかしながら、養育者カウンセリングにおいて、平成25年度研究計画で提案された日常場面における行動を評価するための必要なデータログの収録を部分的には行うことができた。 以上のことから、平成25年度の研究実施計画の達成度は、おおむね達成したといえよう。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策 1.意図理解能力と非言語情報との関わり(小林): 平成25年度で得た視線の知見に基づき、国際ジャーナルに投稿できるように対象者数を増やす 。また、モニターを介すことで、非言語情報の統合的利用にどのような影響があるのかを成人を対象に調べる。これらの知見について国内・国際会議で発表を行う。また、指さしと視線情報の統合的利用に関して国際的な学術雑誌に投稿することを目指す。 2.養育者の非言語的情報産出と意図理解能力(小林、伊藤): 平成25年度で検討したコーディング方法に基づき、発達障害児を持つ養育者の指示行動について分析を行う。また、言語学習において、非言語情報の中でもあまり着目されていない間(ま)についても分析を行う。 3.養育者の日常的行為の定量的評価とカウンセリング・支援(伊藤、小林): 平成25年度で得た知見に基づき、養育者の行為を検討し、実際に行為の支援を行うための提案を行う。また、問題行動と養育者への支援についても検討を行い、日常場面における行動を評価するための手法を提案する。 4.次の学術雑誌へ投稿準備・投稿を行う。Developmental Science、 Journal of Child Language、言語聴覚研究。学会発表は次の各学会で研究発表を行う。Cognitive Science Society、Japanese Society for Language Sciences、 Robot-Human Interactive Communication、日本発達心理学会、日本認知科学会、日本特殊教育学会。 次年度の研究費の使用計画:本年度は、新規性の高い知見が見出されたためにそれを検証するべく、注視点計測装置を購入した。次年度の使用計画に関しては、分析補助者の謝金や国際会議旅費、国際ジャーナルに投稿するために必要な英文校閲に充てることを考えている。これらの予算を計上することで、実験や知見に対して精査を行い、多角的な視点から検討することができ、一層の精緻な知見が得られることを期待している。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
分析補助者として予定していた安田氏(博士(情報学))が、十文字学園女子大学人間生活学部人間発達心理学科助手として着任したため、雇用関係上により分析補助者として雇うことができなかった。また、旅費については、大学内研究費の予算を利用できたために、今年度の研究費では使用しなかった。 平成26年度に、研究室の卒研生または院生を分析補助者として雇用することを予定している。また、現在行っている研究へのサジェスチョンを受けるために、境界領域の国際会議に参加する予定である。研究協力者安田哲也氏と研究打ち合わせを行うため、交通費を支出する予定である。
|