2012 Fiscal Year Research-status Report
逸脱的消費者行動における実証的研究:特に溜め込み行為の心理的メカニズムに注目して
Project/Area Number |
24530801
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
池内 裕美 関西大学, 社会学部, 教授 (50368198)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | ホーディング(hoarding) / 逸脱的消費者行動 / 強迫的溜め込み / 消費者問題 / ゴミ屋敷 / 対物研究 / 死蔵 / アニミズム |
Research Abstract |
「逸脱的消費者行動」とは、「購買や消費の結果が個人的、社会的に何らかの否定的結果をもたらす消費者行動のこと」をいう(田中, 2008)。本研究では、この逸脱的消費者行動の中でも、特に溜め込み行為(ホーディング:モノを溜め込み、処分できない行為)に焦点を当て、多面的な検討を試みる。具体的には4つの基礎的研究と1つの発展的研究を予定しているが、本年度は「研究実施計画」に基づき基礎的研究として、「日本におけるホーディングの実態分析」と「ホーディング傾向尺度」の作成を試みた。 まず前者においては、モノの溜め込みを自覚している人(ホーダー)3名を訪問し、個人面接調査を実施した。その結果、ホーダーは、衣類の死蔵率が極めて高く、さらに食料品や日用品における過剰ストックや、映像や写真なども撮りだめする傾向が見出された。また、共通して喪失不安が示唆されたが、これらの知見を一般化するには、今後より多くの対象者に調査する必要がある。 他方、「ホーディング傾向尺度」の作成においては、既存研究を基に予備項目を作成し、2012年の10月(予備調査410名)と12月(本調査234名)の2回、web調査を行った。なお、既存研究では、ホーディングはあくまで強迫性障害との関連において研究されてきたが、ホーディング自体は精神医学的診断がつかない正常な人にもみられることから(仙波,2007)、本研究では一般の人々を対象に尺度化を試みた。その結果「物質多量」「処分回避」「拡張自己」「記憶補助」「対物責任」「対物管理」の6因子28項目からなるホーディング傾向尺度が提唱され、併せて信頼性・妥当性も確認された。本尺度は、既存尺度に対して指摘された問題点が解消されているため、他の性格特性や行動特性との関連性の検討も可能となり、日常レベルでのホーディングの予防や対策を立てる上で有益な一助を与えることが期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
上記のように評価した理由は、「ホーディングの実態分析」で若干遅れが生じているからである。本来なら平成24年度の時点で、尺度作成よりも先に、京阪神在住の約10名のホーダーに個人面接調査を実施する予定であったが、実際にリクルーティングを開始して、改めて自宅への訪問調査の困難さが身に染みた。すなわち、なかなか協力者が見つからないのである。特にこちらが意図するような、日常レベルでのホーディングの中で、やや重篤な悩みを抱えるような人は、調査協力を依頼しても拒否されることが多い。しかし、そうした人たちでも「グループ・インタビューや自宅訪問以外の形でなら協力しても構わない」というケースも多く、また調査対象を全国に広げると、より多くの協力者も見つかることから、今後は調査方法を改変しながら継続的なデータ収集に臨みたいと思う。 また、本研究はあくまで日常レベルでのホーディングを対象としているが、そのためには病的な事例(例えば俗にいう「ゴミ屋敷」等)との比較も必要となる。そこで今年度は、ゴミ屋敷問題を解決するために全国で初めて「生活環境保全条例」を制定した東京都足立区の生活環境調整担当課にてインタビューを行った。そして、ゴミ屋敷について行政が抱える諸問題や現状などが明らかとなり、また実際に現場の様子も確認できた。しかし、いわゆる“ゴミ屋敷の住人”の心理までは接近できていないので、今後は病的ホーダーである住人や、また可能なら周辺住人へのインタビューを試み、より多面的な視点から「ホーディングの実態分析」を行いたいと思う。 一方、もう一つの課題であった「ホーディング傾向尺度」の作成はほぼ予定通り順調に遂行できた。すなわち既存尺度の問題点を改善し、信頼性・妥当性を備えた安定した尺度が提唱できたので、今後は本尺度を基に、ホーディングに至る規定因や、ホーディングがもたらす諸問題について検討する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は、前年度に完遂できなかった「ホーディングの実態分析」の継続を第一の課題とする。その際、調査対象者を全国に広げ、ホーディングによって苦痛を感じている人を対象に面接調査を実施する。可能な限り自宅を訪問して個人面接調査を行いたいが、協力状況によっては、自宅以外の場所での面接調査や集団面接調査への変更も視野に入れる。そして「溜め込みに至った経緯や溜め込みにまつわるエピソード」や「ホーダーに共通する性格的・行動的特性」について検討し、KJ法やテキスト・マイニングによってキーワードの発見を目指す。また、日常レベルのホーディングと病的ホーディングの相違点を明確にするために、引き続き東京都足立区のゴミ屋敷の実態について物理的・心理的・社会的諸側面から検討を進めたい。 その他、平成25年度は、「研究実施計画」に基づき2つの基礎的研究として、「ホーディングの規定因およびホーディングに至る心理的メカニズムの検討」と「ホーディングがもたらす心理的・社会的諸問題に関する検討」を試みる。まず前者においては、平成24年度に作成した「ホーディング傾向尺度」を用いて、ホーディングの生起と関連する諸要因について、個人的・社会的要因の2側面から探求する。特に個人的要因に関しては、実態調査で明らかとなった過剰ストックや映像等の溜め込みといった行動特性との関連も検討したい。そして最終的に変数間の関連性をモデル化して、ホーディングに至る心理的メカニズムの解明を目指す。 また、後者においては、前者同様「ホーディング傾向尺度」を用いてホーディングが引き起こす心理的・社会的諸問題について明らかにする。本研究で取り上げる諸問題については、実態分析の結果を基に検討する予定である。なお、当初はいずれも郵送法を予定していたが、短期間で確実により大規模な調査をするため、web調査への変更を考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度の研究費の主な用途としては、上述した「今後の研究の推進方策」に基づいて順に記すと、まず「ホーディングの実態分析」に関わる「国内旅費」が挙げられる。国内旅費に関しては、次年度は「成果発表旅費」のみ計上していたため、かなり不足することが予想される。したがって不足分に関しては、前年度からの繰り越しに加え、「外国旅費」の全額を充当する形で確保したい。なお、外国旅費と関連する「海外での成果発表」においては、次年度はアメリカでの報告を予定していたが、日本でのホーディングに関する実態がより明確になってから、改めて発表を検討したいと思う。ちなみに国内の成果発表としては、11月に沖縄で開催される日本社会心理学会にて報告する予定である。また、実態分析の際に行う面接調査に関しては、被面接者や調査協力者に対して相当額の「人件費・謝金」が発生する。これについても計上分から不足する可能性があるが、前年度からの繰り越しと、場合によっては「物品費」を一部充当する形で対応したい。 「ホーディングの規定因およびホーディングに至る心理的メカニズムの検討」と「ホーディングがもたらす心理的・社会的諸問題に関する検討」においては、当初は郵送法による質問紙調査を予定していたが、より大規模な調査を行うためweb調査への変更を予定している。そのため、「調査票郵送料」「印刷費」として計上していた金額を、全て調査会社のipsos株式会社への業務委託費として変更する予定である。
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Research Products
(9 results)