2013 Fiscal Year Research-status Report
逸脱的消費者行動における実証的研究:特に溜め込み行為の心理的メカニズムに注目して
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24530801
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
池内 裕美 関西大学, 社会学部, 教授 (50368198)
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Keywords | ホーディング / 逸脱的消費者行動 / 溜め込み / ゴミ屋敷 / 死蔵 / アニミズム / 強迫性障害 / 社会的孤立 |
Research Abstract |
本研究では、個人や社会に否定的結果をもたらす「逸脱的消費者行動」の中でも、特に溜め込み行為(ホーディング:モノを溜め込み、処分できない行為)に焦点を当て、多面的な検討を試みる。具体的には、4つの基礎的研究と1つの発展的研究を予定しているが、本年度(平成25年度)は「研究実施計画」に基づき基礎的研究として、主に「日本におけるホーディングの実態分析」、「ホーディングの心理的メカニズム」および「ホーディングがもたらす心理的・社会的諸問題」の検討を試みた。 まず実態分析においては、ゴミ屋敷問題への対策に積極的な東京の足立区役所と大阪の生野区役所、生野区福祉協議会の各代表者に面接調査を実施した。また、実際に問題の住居を訪れ観察調査も行い、ゴミ屋敷に見られる共通点や問題が増加した社会的背景の探求を試みた。その結果、ホーダーにはコミュニケーションが取れない人が多く、解決には親族などのキーパーソンが不可欠であること、独居高齢者の増加や社会的孤立がホーディングの問題と強く関連していることなどが見出された。そして「ホーディングに至るメカニズム」の概念モデルが提唱されたが、本モデルの妥当性については、今後ホーダーへの調査を通して検討する必要がある。 「ホーディングがもたらす心理的・社会的諸問題」においては、平成24年度に作成した「ホーディング傾向尺度」を用いて、日常レベルでのホーディングと引き起こされる諸問題との関連性について検討を試みた。具体的には、2013年8月にweb調査(453名)、11月にグループ・インタビュー調査(高ホーダー6名、低ホーダー6名)を実施した。その結果、ホーディングが引き起こす諸問題は大きく「経済的問題」「精神的問題」「社会的問題」に分類され、ホーディング傾向の下位因子である「物質多量」や「処分回避」性向が各問題と強く関連していることが見出された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
上記のように評価した理由は、平成25年度に計画していた「ホーディングの心理的メカニズム」に関する検討において、課題が残されたからである。これまでホーディング傾向の規定因として、平成24年度は主に「強迫性購買」「アニミズム的思考」、本年度は「マテリアリズム」との関連性について検討を行ったが、未だいくつかの規定因が未検討のままである。したがって、考えられる規定因の中からホーディング傾向と特に関連性の強い要因を見出すこと、そしてそれら諸要因を組み込んだより妥当性の高い心理的メカニズムのモデルを構築することが、継続すべき課題として残された。 また、昨年度から持ち越された実態調査においては、調査方法を個人面接法から集団面接法に変更したことから、日常レベルのホーディングの中で、やや重篤な悩みを抱えるような人からもデータを得ることができた。それゆえ、こうした人々の現状や抱える諸問題等について、ある程度実態を知ることができ、一歩前進したといえる。しかし、病的な事例(ゴミ屋敷やゴミマンションなど)については、依然として行政機関への間接的な情報収集に留まっている。本研究は、あくまで日常レベルでのホーディングを対象としているが、その解明には強迫性ホーディングともいえるこうした超逸脱的事例との比較が有益な示唆を与えてくれる。したがって、今後はゴミ屋敷の居住者や周辺住人への調査を試み、より多面的な視点から溜め込みの実態に接近したい。 もう一つの課題であった「ホーディングがもたらす心理的・社会的諸問題に関する検討」については、概ね予定通り遂行できた。しかし本年度の研究を通して、高齢者がより深刻なホーディング状況に陥っていることが示唆された。したがって、ホーディングがもたらす諸問題や溜め込みに至る心理的メカニズムについて、年齢別に検討することも重要な課題として新たに浮上した。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、初年度から継続的に実施している「ホーディングの実態分析」の遂行を第一の課題とする。具体的には、本年度と同じく行政機関に面接調査を行い、溜め込みの現状に関する最新情報の収集を試みる。また、実際に溜め込みの現場に赴いての観察調査や周辺住人にも聞き取り調査を行い、日常的なホーディングと強迫性ホーディングとの関連性や、溜め込みに関するキーワードの探求を試みる。 その他、平成25年度の課題であったが、未達成のまま残された「ホーディングの心理的メカニズム」や「ホーディングがもたらす諸問題」に関する検討も継続して実施する。前者においては、上記の質的調査や既存研究から得た知見を基に、個人的・社会的要因の2側面からホーディングの生起と関連する諸要因を探求する。具体的には個人的要因として、優柔不断や強迫性パーソナリティ傾向などの性格特性、情報処理欠陥や過剰取得、衝動性障害などの行動特性に注目する。そして「ホーディング傾向尺度」(平成24年度の研究にて作成)の下位概念とこれら諸要因を組み込んだ、より妥当性の高い心理的メカニズムのモデル構築を目指す。その際、本年度の研究を通して、高齢者ホーダーの増加問題が浮上したことから、年齢別の観点からも検討を試みる。また、後者の「ホーディングがもたらす諸問題」に関しては、旬な問題として消費税増税による駆け込み購買やストック行動を取り上げ、ホーディング傾向との関連性について質問紙調査により探求する。 さらに次年度は、「研究実施計画」に発展的研究として掲げた「ホーディング傾向に関する国際比較調査」にも取り組む。昨年度の研究では、神道に根差すアニミズム的思考とホーディングとの関連性が示唆された。ゆえに次年度は、モノに対する価値観が日本人とは異なるであろうキリスト教圏を対象に質問紙調査を実施し、ホーディング傾向や人とモノとの心的関係について国際比較を試みる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
「次年度使用額」が相当額生じた原因として、主に以下の3点が挙げられる。 まず“直接経費にて物品購入を執行しなかった点”に一因がある。2点目は“海外での成果報告を延期した点”が指摘される。本年度、米国での成果報告として「海外旅費」を申請していたが、成果報告よりも国内での調査を優先して渡米を見合わせた。そのため「海外旅費」が未消化のまま繰り越すといった現況となった。最後に“国内出張の申請回数を減らした点”が挙げられる。本年度は東京での成果発表を予定していたが、主な学会がより遠方での開催となったため、出張費を学内研究費から支出した。また、昨年度の成果発表も含めて招待講演が複数あり、交通費が先方負担となることもあったため、「国内旅費」も相当額が残る結果となった。 使用計画について、上記の「今後の研究の推進方策」に基づき順に述べると、まず「ホーディングの実態分析」や成果報告のための「国内旅費」が挙げられる。また、本年度の課題であった「ホーディングの心理的メカニズム」や「ホーディングがもたらす諸問題」の検討については、継続してweb調査を実施する。この調査費用は、次年度は計上していないが「次年度使用額」で全て補えると思われる。そのため「次年度使用額」の大半は、調査会社への「業務委託費」に充当する予定である。その他、国際比較調査を計画しているため、海外での調査費用を計上しているが、現地の調査会社のモニターを使用することも可能なので、業務委託によるweb調査への変更を思案中である。その場合の「業務委託費」は「物品費」と「海外旅費」から充当する。さらに「外国旅費」に余裕があれば、2015年2月末に米国で開催される国際学会にて成果報告を行う予定である。
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Research Products
(10 results)