2014 Fiscal Year Research-status Report
逸脱的消費者行動における実証的研究:特に溜め込み行為の心理的メカニズムに注目して
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24530801
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
池内 裕美 関西大学, 社会学部, 教授 (50368198)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ホーディング / 逸脱的消費者行動 / 溜め込み / ゴミ屋敷 / 死蔵 / アニミズム / 強迫性障害 / マテリアリズム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、個人や社会に否定的結果をもたらす「逸脱的消費者行動」の中でも、特に溜め込み行為(ホーディング:モノを溜め込み、処分できない行為)に焦点を当て、多面的な検討を試みる。具体的には、4つの基礎的研究と1つの発展的研究を予定しているが、本年度(平成26年度)は研究実施計画に基づき基礎的研究として「日本におけるホーディングの実態調査」「ホーディング傾向尺度の精緻化」、そして発展的研究として「ホーディング傾向に関する国際間比較調査」の項目作成を試みた。 まず実態調査においては、昨年に引き続きゴミ屋敷問題への対策に積極的な東京の足立区役所の代表者に面接調査を実施し、また実際に昨年訪れた問題住居も再訪し、この一年間の変化について追加情報の収集を行った。その結果、溜め込みに関する苦情は月10件ペースで増加し続けていることや、問題住居の堆積物も明らかに増加していることが認められ、ホーディングの深刻な実態が再確認された。その他、本年度はホーダーへの面接調査も行い、モノへの激しい執着と衝動抑制の困難さが特徴として認められた。 「ホーディング傾向尺度の精緻化」においては、本研究で作成したホーディング傾向尺度が類似概念であるコレクティングとの分類指標として適切であるか否かを、web調査のデータ(2012年実施)を再分析することにより試みた。その結果、ホーディング傾向尺度はNeziroglu, et al.(2004)のコレクティング項目群とほぼ無相関であることがわかり、基準関連妥当性が確認された。つまりホーディングとコレクティングは、やはり本質的に異なる心理特性からなる行為であることが本研究でも示唆されたといえる。 「ホーディング傾向に関する国際間比較調査」においては、調査会社の内部事情により先送りせざるを得なくなったが、質問項目は完成しており、既に国内調査は実施したところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
上記のように評価した理由は、平成26年度に計画していた「ホーディング傾向に関する国際間比較調査」において、未着手の部分があるからである。本課題は、本年度の主たる調査テーマとして掲げていたが、サンプリングの協力を依頼していた調査会社の事情により海外での実施が困難となり、来年度に先送りせざるを得なくなったことが遅れの大きな要因である。しかし本年度の後半になり調査の目途が立ったため、まずは日本語・英語バージョンの質問紙の作成を行い、国内調査から実施した。現在485名の回答が得られ、これから分析を開始するところである。 また上記の課題で用いた質問紙は、初年度からの継続課題である「ホーディングの心理的メカニズム」の再検討も意図した内容となっている。これまでホーディング傾向の規定因として、「強迫性購買」「アニミズム的思考」「マテリアリズム」等との関連性について検討を行ってきたが、本質問紙はこれらの尺度に、「ホーディングがもたらす諸問題」の項目群や「精神的健康尺度」も加わり、より包括的な視点から「心理的メカニズム」に関するモデル構築が可能となっている。 なお、その他の課題であった「日本におけるホーディングの実態調査」と「ホーディング傾向尺度の精緻化」においては、新たにデータを追加したり、これまで収集したデータを再分析したりと、概ね予定通り遂行できた。特に、超逸脱的な事例ともいえるゴミ屋敷の住人に面接調査を行い、その心理的・物理的実態に接近できた功績は非常に大きいといえる。しかし、現在のところ事例数が僅少で結果の一般化は難しい。よって今後も継続的に様々なタイプのホーダーへの面接調査を実施し、データの蓄積を試みたい。なぜなら、本研究対象はあくまで日常レベルでのホーディングであるが、そのメカニズムの解明にはこうした強迫性ホーディングとの比較が有益な示唆を与えてくれると考えられるからである。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、「研究実施計画」に発展的研究として掲げた「ホーディング傾向に関する国際間比較調査」の遂行を第一の課題とする。具体的には、モノに対する価値観が日本人とは異なることが予想されるキリスト教圏を対象に質問紙調査を実施し、ホーディング傾向や人とモノとの心的関係について国際間比較を試みる。なお比較対象としては、当初は国民の約7割がキリスト教徒である英国を予定していたが、現在は米国を検討中である。その理由としては、英国でのホーディング研究が予想以上に少ないこと、一方米国はホーディング研究の先駆的な存在であるため研究の蓄積も多く、比較という点では非常に適していること等が挙げられる。 二つ目の課題としては、初年度から継続的に実施している「ホーディングの実態調査」を挙げる。特に次年度は、実際にモノを溜め込んでいる様々なタイプのホーダーに面接調査を行い、溜め込みの現状や心理的背景等について探求したい。またホーディングは、家族や周辺住人など社会的にも少なからず問題をもたらす。よって、周辺関係者にも調査を行い、溜め込みに関するキーワードの探求を試みると共に、三つ目の課題である「心理的メカニズム」の検討を補足する質的データの提供を目指す。 第三の課題としては、これも初年度からの継続的課題である「ホーディングの心理的メカニズム」の再検討が挙げられる。具体的には、「アニミズム的思考」や「マテリアリズム」、「所有欲」や「精神的健康」などの個人特性が、「ホーディング傾向」を媒介して、いかなる諸問題(物理的、社会的、精神的等)を引き起こすのかについて、より妥当性の高い因果モデルの構築を目指す。これらの各概念は、既に本研究で「ホーディング傾向」との関連性が個別に確かめられている。したがって次年度は、質問紙調査を基にこれら諸概念を全て組み込んだ包括的モデルの作成を試み、一連の研究の集大成としたい。
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Causes of Carryover |
「次年度使用額」が相当額になった原因として、主に以下の3点が挙げられる。まず“国際間比較調査の実施を先送りせざるを得なくなったこと”が挙げられる。その結果、本年度の海外調査費用が全額繰り越されることとなった。二つ目は“海外での成果報告を延期した点”が指摘される。2015年2月に開催されたアメリカ社会心理学会での成果発表を予定していたが、学内業務と重なったため取り下げざるを得なかった。その結果、「海外旅費」を未執行のまま繰り越すといった現況となった。 さらに三つ目の理由としては、“予定していた経費が発生しなかったこと”が挙げられる。本研究の場合、次年度に予定している国際間比較調査を遂行するために、かなりの金額を委託調査費として用意する必要があることも、次年度使用額が大きくなった一因として挙げられる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今後の使用計画については、主に先送りされた上記2点の執行が挙げられる。まずipsos日本統計調査に登録している米国人と日本人モニターを対象に国際間比較調査を実施する。本調査の実施には、項目数も多く対象者の出現率も低いため、「調査委託費」として110万円ほどかかる予定である。調書作成段階では、現地の大学を訪れ質問紙を配布する予定であったが、調査対象者の年齢幅に偏りが生じるため、調査方法をwebによる質問紙調査に変更した。不足分については、物品費や人件費等から充当する予定である。 もう一つの大きな使途としては、海外での成果発表が挙げられる。具体的には、8月にフィリピンで開催されるアジア社会心理学会にて成果発表を予定しており、既にエントリーも済ませている。よって、約20万円の「海外旅費」が見込まれる。その他、日本社会心理学会が東京で開催されるため、その分の「国内旅費」も発生する予定である。
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Research Products
(14 results)