2013 Fiscal Year Research-status Report
情報提供場面における相互不信からの信頼回復プロセスの検討
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24530805
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Research Institution | Central Research Institute of Electric Power Industry |
Principal Investigator |
小杉 素子 一般財団法人電力中央研究所, 社会経済研究所, 主任研究員 (20371221)
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Keywords | 情報提供 / モニタリング / 信頼 |
Research Abstract |
前年度の研究では,情報の非対称性のある二者関係において,情報優位者の報告内容の真偽を確認できるサーチ(監視行動)オプションを劣位者に付与することで,提供者の正直報告が促進されることが示された。社会的ジレンマに関する先行研究では,Sanction制度が非協力行動を抑制する効果を持つことが示されており,罰と監視は近似した効果を持つと考えられる。そこで今年度は,劣位者の監視と罰の行使の効果に着目し,それが優位者の劣位者への信頼や正直報告に及ぼす影響について検討するためにシナリオ質問紙調査を実施した。 シナリオ質問紙では,登場人物Aが自分の行動について報告行動を行い,登場人物Bには報告内容が正直であるかどうかを確認できる監視権が付与されていた。シナリオには,登場人物Aの報告行動が正直/不正直,登場人物Bの監視の行使/非行使,罰の行使/非行使の3条件が設けた。 回答者には上記の8通りのシナリオがランダムな順番で呈示され,自分が登場人物Aであると仮定して登場人物Bの信頼性を評価するよう求められ,すべてのシナリオに回答した後,一般的信頼および用心尺度に回答するよう求められた。調査は2014年3月にweb上で実施した。回答者は,調査会社のモニター1117名(男性552名,女性565名)であり,年齢は20歳から49歳(平均年齢38.3歳)であった。 分析の結果,登場人物Bが監視を行使しない方が行使する場合よりもBに対する信頼が高いこと,将来もBと相互作用を継続したいという評価が高いこと,登場人物Bが罰を行使した場合行使しない場合よりもBに対する信頼が低いこと,今後の相互作用を継続する意思が低いことが示された。この結果は,相手の監視の行使と罰の行使が,相手に対する信頼と将来の相互作用継続への意思に逆方向の効果を持つことを示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度の研究計画では,H24年度の実験室実験の結果から,情報優位者の劣位者に対する信頼を維持・向上させる方策(オプション)について仮説を導き,その仮説を検証するための実験計画を設計するところまでを行う予定であった。しかし,「情報劣位者のサーチ(監視)オプションが,情報優位者の劣位者に対する信頼の維持・向上に効果を持つ」という仮説を導くのに時間がかかったこと,シナリオの作成にも時間がかかったことから,実験計画の設計がやや遅延している。
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Strategy for Future Research Activity |
小杉(2012)とH24の研究から,情報提供者に対する受け手の信頼を維持・向上させるためには,受け手に虚偽報告が発覚しない限りは受け手は相互作用が継続するにつれ提供者に対する信頼を高めること,提供者が虚偽報告をしないためには受け手に対する信頼が維持されていることが一つの重要な要因であるが相互作用を継続するだけでは受け手に対する信頼は維持されないことが示された。また,提供者が受け手に対する信頼を維持・向上させるためには,受け手が報告が虚偽かどうかを確認できるオプションが効果を持つことも示された。しかし,繰り返しの相互作用関係において監視の行使回数が多いことは,受け手の提供者への疑いのシグナルとなり,提供者の受け手に対する信頼を低下させる方向に働くこと,提供者を罰するシステムは,不正直報告を抑制する一方で提供者の受け手に対する信頼を低下させる効果を持つことが昨年度のシナリオ質問紙調査により示唆された。 以上の経緯から,H26年度は情報提供場面において情報提供者の不正直報告(虚偽報告)を抑制し,かつ提供者の受け手に対する信頼を維持,向上させる方策として,受け手の監視に焦点を当て,受け手の監視が提供者の受け手に対する信頼に及ぼす効果を明らかにする。また,罰システムと比較することにより,受け手の監視が提供者にとってどのような意味を持つのかについても明らかにする。 具体的には,継続的な相互作用を行うペアに情報の非対称性を導入し,情報劣位者に監視または罰のオプションを付与する実験室実験を行い,監視条件のペアと罰条件のペアの信頼や行動の比較により,監視の効果を詳しく検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度予定している実験室実験の設計のために,実験室でのプレテストを行う予定であったが,プレテストの形態をシナリオ質問紙に切り替えた。そのため,実験助手,実験参加者への謝金,ノートPCのレンタル等にかかる予定であった額よりも低額で実施してきたため。 情報提供場面において情報提供者の不正直報告(虚偽報告)を抑制し,かつ提供者の受け手に対する信頼を維持,向上させる方策として,受け手の監視に焦点を当て,受け手の監視が提供者の受け手に対する信頼に及ぼす効果を明らかにするための実験室実験を行う。 具体的には,継続的な相互作用を行うペアに情報の非対称性を導入し,情報劣位者に監視または罰のオプションを付与する条件を設ける。 予算は,実験参加者(120名),実験制御のプログラミング(1名×20日),実験者(2名×7日)への謝金,実験機材レンタルや備品購入等に使用する。
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Research Products
(1 results)