2013 Fiscal Year Research-status Report
地域差を考慮した若者の「甘え」と友人関係に関する研究
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24530819
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
谷 冬彦 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 准教授 (70320851)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小野 博史 共愛学園前橋国際大学, 国際社会学部, 非常勤講師 (30573042)
稲垣 実果 京都聖母女学院短期大学, 児童教育学科, 講師(Lecture) (40537990)
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Keywords | 教育系心理学 / 民俗学 / 甘え / 友人関係 / パーソナリティ |
Research Abstract |
「甘え」は日本人の対人関係を捉える上で有効であるとされながらも,日本国内における地域差については看過されてきた。関西では親しい友人を「ツレ」と呼び親密な関係を持つが,関東にはそのような関係がほとんど見られないことが一般的に知られており,「甘え」概念は再考すべきものといえる。本研究は関東と関西で実証的な研究を行うことで「甘え」理論を精緻化するとともに,地域差を踏まえた新たな展開を示すことを目的とする。 平成25年度は日本人心性の鍵概念とされる「甘え」と友人関係の地域差を数量的に捉えることを目的とし,関東および関西の大学生を対象として「甘え」尺度や友人関係尺度等からなる質問紙調査を実施した。その結果,「甘え」の心理や友人関係の構造や関連性において両地域では相違があることを予備的分析から数量的に把握できた。この調査成果から「甘え」や友人関係に地域差が存在することを実証的に示す見通しを立てることができた。 また,過去の若者習俗が現代の若者の友人関係の文化的背景となっていると予測し,関東と関西において民俗学的調査を実施した。その結果,関東では親しい友人を示す語彙が不明確で,労働や冠婚葬祭に際しての互助関係がほとんど認められなかった。一方,関西ではごく親しい友人を「ツレ」とよび,日常的な交際や労働において親密な関係が,若者だけでなく年配者にも見られる。以上の成果から友人を示す語彙と関係において,両地域では大きな違いがあることが明確になりつつある。 心理学分野の研究実績は「甘え」概念をより精緻にするだけでなく,地域差の存在という新たな知見を加えることにつながる。また,民俗学分野の調査成果を援用することで「甘え」のあり方を,より良く理解できるとともに,若者の友人関係における対人コミュニケーションについて,地域の違いを反映したより実際的な知見を得ることになるであろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
心理学分野では,谷(2000)の「甘え」尺度,稲垣(2007)の自己愛的甘え尺度,安井・谷(2008)の友人関係尺度,谷(2001)の多次元自我同一性尺度,甘えに対する態度項目などから構成される119項目からなる質問紙を確定し,作成した。そして,質問紙の冊子を印刷・作成するとともに,関東および関西の大学生を対象として各地500人程度を対象に調査を実施し,データを収集した。また,一部のデータについては,予備的に分析を行い,ほぼ仮説を支持する方向の結果を得た。 民俗学分野では,関東および関西地方でフィールドワーク調査を実施した。関東地方の調査地点として千葉県松戸市の幸田地区と紙敷地区を調査地として設定した。幸田地区ではインタビュー調査を行い,親しい友人を示す語彙が不明確であること,また親しい友人との間に労働や冠婚葬祭に際しての互助関係がほとんど認められないことを確認した。関西地方では大阪府大阪市周辺の資料調査と,兵庫県内の資料調査および神崎郡福崎町・姫路市におけるインタビュー調査を実施した。資料調査では大阪府・兵庫県とも現在の友人関係について記した文献はごくわずかであった。ただし,フィールドワークでは年配者はもちろん現在の若者も同じ性別のごく親しい友人を「ツレ」とよび,日常的な交際や労働などにおいて行動を共にすることが確認できた。以上から友人を示す語彙と互助関係においては関東と関西で明確な違いがあることが現在の民俗調査において明らかになった。また関西に限定すれば現在の若者の友人関係は伝統的な友人関係と大きな違いが無いことも確認できた。 以上,心理学分野および民俗学分野において研究は計画通り進捗しており,達成度は,おおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
心理学分野では平成25年度に引き続き,質問紙調査を実施するとともに分析を進める。調査分析については,具体的には確認的因子分析に多母集団同時分析を適用し,関東・関西における若者の「甘え」や友人関係の因子構造の差異について検討する。さらに,友人関係に関する語彙や慣行および出身地や居住地について整理を行い,各々の記述統計的分析を行うとともに,より綿密な質的分析を行う。 民俗学分野では関東地方の事例として千葉県松戸市域で新たに調査地を加えるとともに,群馬県前橋市を調査地とすることで,関東地方における若者習俗をより明確にすることを目指す。関西地方では大阪府岸和田市,兵庫県神戸市でのフィールドワーク調査を行う。文献調査等から岸和田市では現在も「ツレ」若者同士の密接な関係が明確であること,これに対して神戸市では文献で過去の若者習俗の記述があるものの,質問紙調査では現在の若者は「ツレ」という語をあまり用いていないことが明らかとなっている。関西では「ツレ」の関係が明確であると民俗学では通説的に理解されているが,現在では差異を生じているのであれば,その要因を明らかにすることを目的として2地点を調査地とする。 平成26年度は上に記した各分野の調査研究に加えて,研究の総括のための会議に重点を置くことで,研究成果をとりまとめる。全員参集の研究会は神戸大学および共愛学園前橋国際大学大学で数回開催して成果の報告を行い,心理学的通説である「甘え」に地域的差異が存在することを示し,従来画一的に理解されていた若者の友人関係の特質をより詳細に論ずる。加えて民俗学的調査の成果を援用して,「甘え」の地域差に文化的背景として伝統的な若者関係や習俗の影響について検討し,その論理的接合をはかる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初の計画では全員参集の会議を複数回実施する計画であったが,分担者1名の本務が予想以上に多忙となり,会議日を予定通り設定することに支障をきたした。会議日を減らした対策は,調査・出張の機会に打ち合わせを個別に実施することや,メールでのやりとり等で補うことで研究の進捗への影響を最小限にとどめることができたが,結果的に次年度使用額を生じることとなった。 平成26年度分として請求した助成金の使用計画については大きな変更はなく,会議のための出張旅費と調査のための出張旅費,研究成果報告のための学会出席の出張旅費や資料分析のための出張旅費等として用いる予定である。その他,人件費,物品費として用いる。 次年度使用額は,この研究計画を補強するために使用する。平成26年度は研究の総括を行い,同時に社会に向けて成果を示す方策を検討する計画であるため,全員参集の会議は不可欠となるので,そのための旅費として一部を用いる。加えて,分担者1名が本務校の学生を雇用し調査資料入力を行うため,その人件費に充てる。また,調査資料入力作業のために机が必要であるため,物品費として,その購入の費用に充てることとする。これらの用途に用いることで本研究のさらなる推進をはかる予定である。
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