2012 Fiscal Year Research-status Report
高等教育における発達障害学生のための認知的支援ツールの開発
Project/Area Number |
24530852
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | Kyushu University of Health and Welfare |
Principal Investigator |
藤田 英樹 九州保健福祉大学, その他部局等, 研究員 (50450606)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | 発達障害 / 高等教育 / 障害学生支援 / 認知特性 / 判別的評価 / 一般学生中間層 / 初年次教育 / 社会人基礎力 |
Research Abstract |
平成23年度の大学入試センター試験より、発達障害のある受験生が特別措置を申請することが可能となり、高等教育における発達障害学生支援が課題となっている。しかし、視覚障害、聴覚障害、運動障害などの他の障害に比して、発達障害は「曖昧」で「分かりにくい」として関係者の戸惑いがある。その原因として、1.発達障害概念について(診断と特性が1対1で対応していない、診断の併存例が多い)、2.一般学生との相違について(発達障害学生と一般学生の境界はどこか、具体的に何を支援するのか、学生生活のどの範囲まで支援するのか)が挙げられる。 まず1の点について、発達障害では診断の併存例が多く、併存例では臨床像が類似している。しかし、臨床像が類似していても、その原因特性が異なる場合があることが、基礎研究の知見により示されている。そこで「発達障害併存例の類似した臨床像の判別的評価法」として、(1)不注意、(2)行動抑制、(3)対人コミュニケーションの類似した臨床像について、対比的な原因特性として、それぞれ(1)自己モニタリングと心的努力・意欲、(2)反応意思決定と運動実行抑制、(3)前注意的知覚と統合的知覚を挙げ、それらが異なる支援アプローチを必要とすること具体的に示した。これにより、異なる支援アプローチを的確に使い分けることが可能となる。 次に2の点について、高等教育では、発達障害の診断がなく支援を受けている学生が、診断があり支援を受けている学生の2倍の数になり、高等教育段階で新規の支援ニーズが生じている。一方、一般学生についても、初年次教育の実施や社会人基礎力の養成が課題となっており、発達障害学生も一般学生も、同じく高等教育における環境の変化に支援ニーズがあるといえる。そこで「発達障害学生に対する支援と一般学生中間層に対する学生支援の融合・共用化の提案」として、支援内容に共通性があることを具体的に示した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
発達障害支援では、高等学校までの特別支援教育の支援資産があるものの、単にその延長線上として、高等教育の支援を捉えることはできない。高等学校までの学校教育に比して、高等教育では学校の管理や保護が減少し、学生の置かれる環境が大きく変化する。すなわち、高等教育の環境とは、学校教育と社会生活の中間的性質をもつといえる。その環境の変化に伴い、高等教育の段階で新規の支援ニーズが生じており、発達障害の診断がなく支援を受けている学生が、診断があり支援を受けている学生の2倍の数になっている。その支援ニーズについても、単に学習支援というよりも、むしろ学生生活支援を含めた総合的支援が求められている。また、高等教育において、こうした新しい側面に対する支援ニーズが生じたことにより、従来の発達障害支援に関する未解決の潜在的課題が顕在化しており、根本的な問い直しの段階に来ている。現在、発達障害支援に求められているのは、新しい支援技法というより、むしろ新しい発想や視点、支援の枠組みであるといえる。 本年度は、発達障害学生支援を導入するにあたり、関係者の間で戸惑いの原因となっている発達障害の「曖昧さ」や「分かりにくさ」を解消するために、1.発達障害の類似した臨床像の原因特性を判別的に評価するための方法を示し、2.一般学生支援においても課題となっている初年次教育の実施や社会人基礎力の養成について、その支援内容が、発達障害学生支援と共通性をもつことを示した。これらの成果は、発達障害の曖昧さや分かりにくさを解消することに貢献し、高等教育における発達障害学生支援の推進力となるだけでなく、発達障害支援全体に対しても、支援のための新しい発想や視点、枠組みを示したものといえる。
|
Strategy for Future Research Activity |
1.発達障害の適応スキルと生活支援技術 発達期の適応、とりわけ高等教育の適応においては、適応には2つのものがある。すなわち、学業への適応と社会生活への適応である。高等教育は学校教育と社会生活の中間的な性質をもっており、高等教育の段階において初めて発達障害の支援ニーズが生じている学生(診断のない発達障害学生)がいることは、学業と社会生活では適応のためのスキルが異なっていることを示している。高等教育における支援では、学業と社会生活の適応スキルを併せて身につけることが必要となる。この社会生活への適応について、厚生労働省の平成22年度発達障害者支援開発事業でも、支援技術の不足が指摘されていた。そこで、発達障害の適応スキルと生活支援技術について、①自己管理、②対人コミュニケーション、③社会的判断・意思決定などに関する適応スキルを系統的に整理し、具体的に例示すことを目標とする。これにより、高等教育における支援の目的や目標が明確に位置づけられることが期待される。 2.発達障害の相談援助技術 発達障害の相談援助技術は「専門性の谷間」であるといえる。すなわち、発達障害の専門家は、学習支援や認知アセスメントが専門であり、カウンセリングについては専門ではないと考え、一方、カウンセリングの専門家は、発達障害のことは「曖昧で分かりにくい」ので、それは発達障害の専門家の仕事であると考える。発達障害の相談援助技術は、高等教育の学生相談や学生支援において、実際のニーズがありながらも、どちらの専門家からも取り組まれなかったテーマであるといえる。高等教育の学生相談では、先行事例はあるものの、系統的に蓄積されている状態ではなく、知見が散在している。そこで、発達障害の相談援助技術について、系統的に収集、整理し、具体的に例示すことを目標とする。こうした相談援助技術は、日常的な学生支援においても利用されることが期待される。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
|
Research Products
(6 results)