2012 Fiscal Year Research-status Report
繰り返される自然災害下の被災者の複雑性外傷後ストレス障害と支援対策の研究
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24530858
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
藤森 立男 横浜国立大学, 経営学部, 教授 (00192732)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | PTSD / Recurring Disaster |
Research Abstract |
わが国の災害研究を概観すると、一過性の自然災害による被災者の精神健康を取り扱った研究は多いが、繰り返される自然災害下で生活する被災者の精神健康とその支援対策に関する研究はほとんどなされていない。本研究では繰り返される自然災害下の被災者の精神健康に関する未解明な問題(複雑性PTSD)に焦点をあて、これを検討する。具体的には、繰り返される自然災害下で生活する被災者の反復性トラウマや複雑性PTSDを測定し、被災者がどの様な症状に悩まされているのか、被災者の精神健康に関する未解明な問題を解明する。 従来、三宅村で実施されている被災者のPTSDに関する研究は厳密には無作為に実施されたものがない。そこで、本研究では三宅村の住民台帳に基づく住所録を作成し、ランダムサンプリングによる反復性トラウマと複雑性PTSDの調査を実施する。本研究の初年度にあたる平成24年度は、本格的な調査に入るための準備作業を行った。具体的には下記の通りである。 1.東京都三宅村役場を訪問し、村長および関係部局に対して本研究の趣旨や意義を説明し、研究実施のための理解と許可を得ることができた。 2.平成25年度に実施する本調査のために、三宅村役場の住民台帳に基づいて、被災者に関する氏名、性別、生年月日、住所等を確認し、20歳以上の2450名について転記作業を実施した。これにより、被災者の氏名や住所等を確定することができた。 3.本調査のための質問票作成のために、2000年6月の雄山噴火から、同年9月の島外への避難生活、2005年2月からの三宅帰島後の生活に関する悩みや不安等について予備的な面接調査を行い、災害からの復興過程に関連する重要な出来事や要因等について検討を行った。これにより、有益な予備的知識を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の応募計画書において述べているように、平成24年度は東京都三宅村の役場や東京都保健所(島しょ保健所)三宅出張所等を訪問し、本研究の趣旨や意義を説明し、村長および関係部局から研究実施のための理解と許可を得ることができた。また、三宅村役場・村民生活課に勤務し、被災者を最前線で支援している保健師らに面談し、被災者のおかれている現状や問題点等について話を聞き、被災者支援の連携のあり方について検討し、継続的な意見交換の機会を持てるようになっている。 さらに、平成25年度に実施する本調査のために、三宅村役場の住民台帳に基づいて被災者に関する氏名、性別、生年月日、住所等について転記作業をし、伊ヶ谷・神着・伊豆・阿古・坪田等の5地区をあわせると、20歳以上の住所登録者が2450名であることを確認した。これにより、無作為調査のための住所録の作成を完了している。 こうしたことから、当初計画した通りに概ね順調に研究が進められている。
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Strategy for Future Research Activity |
第1に、平成25年度に実施する本調査の質問項目を総合的に検討し、最終的な調査項目を決定する。これに基づいて、繰り返される自然災害による被災者の複雑性PTSDに関する作成を実施する。標本誤差を6%に設定し、サンプル数を300とする。男女の性別が1対1になるようにし、各年代層がほぼ同等になるように無作為にサンプル数を割り当てる。300サンプルのデータ収集は個別面接調査法を用いて実施する。個別面接調査の実査にあたっては、災害現場での支援経験を有する臨床心理士1名、大学院学生6名、そして研究代表者である申請者の計8名で実施する。また、収集されたデータは整理し、データファイルを作成し、多変量解析を行うことにより、複雑性PTSDに寄与する因果モデルを提案する。 第2に、調査結果をフィードバックするために、申請者が三宅村役場の保健師らに対し、複雑性PTSDの状況と被災者に特有な症状について研究報告を行う。また、研究報告に基づいて、三宅村の保健師が行っている「保健福祉相談」事業のなかに、繰り返される火山ガスによる慢性的ストレス(複雑性PTSD)の問題や生活環境の悩みに関する「慢性的ストレスと生活環境の悩み相談」の項目を追加し、被災者の心のケア活動を促進するための具体的な提案を行う予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は、繰り返される自然災害による複雑性PTSDの個別面接調査を実施する。 300サンプルのデータを個別面接調査法で8人のスタッフが収集する場合、1人の調査員が収集する人数は約38人となる。1日に3人の被災者に対して個別面接調査を実施することによりデータを収集すると、13日間の滞在が必要になる。このため、8人で三宅村を13泊14日の旅費(学生6名:103.5万円、社会人2名:41.3万円)が必要になる。収集するための調査票の印刷費は9万円(300部x300円)となる。調査によって収集したデータの整理とデータファイルへの入力作業の費用(1人(8千円)x15日=12万円)が必要になる。また、わが国のPTSD研究に関して研究実績のある精神科医1名と臨床心理士1名から本研究に関連する知識の提供を受け、研究の充実を図る(1人当たり2.1万円x2名=4.2万円)。なお、前年度の準備作業は予定通り完了し、4.9万円が残金となっていた。この金額は無理に使い切るのではなく、平成25年度に実施する本調査のための消耗品費にあてるのが適当であると考えた。このため、繰越金(4.9万円)はフラッシュメモリ、調査用ボード、筆記用具、書籍等の消耗品費にあてることとする。
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