2012 Fiscal Year Research-status Report
知恵と社会的適応を育み心理・行動上の問題を予防する持続可能な心理教育に関する研究
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24530870
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
安藤 美華代 岡山大学, 教育学研究科(研究院), 准教授 (60436673)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 心理教育 / いじめ / 抑うつ / 不安 / 自己理解 / 他者理解 / 自己効力感 / 予防 |
Research Abstract |
本研究では,人々の心理・行動上の問題を予防し,心の健康や社会的適応を育むことが報告されている心理教育“サクセスフル・セルフ”(安藤, 2007等)が 持続可能な心理教育になることをねらいとして,小学1年生から3年生向けのプログラムを新たに追加し,実践的研究を行った。公立A小学校の全校児童327名を対象に学級単位で実施し,児童に自記式調査を行い,効果に関する評価を行った。その結果,介入前から介入後で,学年・性に関わらず,衝動性・攻撃性のコントロール,いじめ・器物破壊・対人暴力・不登校の誘いを断る自己効力感の増加,不眠の減少が見られた。さらに,学年によっては,対人暴力,夜遊び,落ち込み,泣いたり泣きたい気持ちの減少も見られた。以上より,本プログラムは,小学生の心理・行動上の問題を予防し,心の健康を育むことが示唆された。 “サクセスフル・セルフ”大学生版を応用し,研修医版を発展させ,新人医療従事者を対象とした“サクセスフル・セルフ”プログラムを作成し,改訂を重ねながら3年間にわたる実践的研究を行った。A総合病院における各年度の入職1年目の新人医療従事者(医師,看護師,薬剤師,臨床工学技士,放射線技師)62名を対象に自記式調査を行い,効果に関する評価を行った。その結果,介入前から介入後で,いずれの年度に実施した群でも,社会性の増加が見られた。改訂を重ねた平成24年度のプログラムで実施した群では,さらに,混乱の減少,困難や問題解決の自己効力感の増加が見られた。プログラム終了後の感想分析から,いずれの群においても本プログラムへの参加は,自己理解,対人関係の重要性,他者意見の有用性を認識する機会になったと考えられた。以上より,本プログラムは,多職種の新人医療従事者の社会的適応を育み,心理・行動上の問題を予防し,心の健康を育むことが可能であることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は,平成16年から実施している心理教育 “サクセスフル・セルフ”を,小学1年生から成人前期まで対象者を広げ,それに応じたプログラムの開発を行い,実証的・実践的研究を実施し,持続可能な取り組みにすることである。研究目的に沿って計画した平成24年度の研究内容は,関係者のご協力により,おおむね順調に進展した。平成24年度に得られた結果は,平成25年度の研究計画につながるものである。 平成24年度には,これまで岡山市教育委員会指導課と連携し中学校区単位の小中学校が連携して行ってきた小学4年生から中学3年生を対象とした取り組みが,他の岡山市内の小中学校でも実施可能なように,『サクセスフル・セルフ実践事例集』として冊子にまとめ,岡山市内の全ての公立小中学校へ配布するとともに,実践のための教材を岡山市教育ポータルサイトにアップした。 “サクセスフル・セルフ(児童期版)”については,新たに対象とした小学1年生~3年生向けの内容を加え,全小学生を対象としたプログラムを作成し,複数の小学校で実践を行った。プロセス評価の結果,いずれの学年の児童においても,内容の理解度,難易度については,適度であると考えられた。さらに,プログラムの前後に行う自記式調査の解析を行い,必要に応じてプログラムに関する加筆修正を行う予定である。 多職種新人医療従事者を対象とした“サクセスフル・セルフ(成人前期版)”については,これまでの結果を参考に,内容・実施方法を洗練させ,離職者予防をねらいとして,半年後にブースターセッションを実施した。プログラムの前後の自記式調査の結果,改訂した平成24年度の実践群の方が,心理社会面により肯定的な変化が見られた。ブースターセッションの質的評価分析から,その重要性が示唆された。さらなる多職種の参加に対応可能で,継続的に安定して実践する工夫を検討していく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
児童期・思春期版“サクセスフル・セルフ”については,小中学校における全学年の児童生徒を対象に継続して取り組めるように,更なる工夫を行い,その評価を行う。特に,平成25年度は,平成24年度から試行しているプログラムへの保護者参加をさらに充実させ,全学年で実施する予定である。また,特別支援学校の自立活動として,これまで適応対象者を検討しながら実施している取り組みが,高等部の全学年で体系的に実施できるように,内容を充実させる予定である。 青年期版“サクセスフル・セルフ”については,関連の大学の講義で実施し,評価を行い,必要に応じて加筆修正をしていく予定である。 成人前期版“サクセスフル・セルフ”については,職種,年齢層を広げ,それに合った内容で構成されたプログラムを作成し,プロセス評価を行う予定である。 これら多領域での研究を円滑に推進するために,実践者や実践コーディネーターと綿密に連携をとり,実施への参観・観察,コンサルテーションを丁寧に行っていく。 人生における難問に対処するスキル(ウイズダム)および他者援助志向に関する心理教育内容の基盤となる書物の翻訳を完成させる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
プログラムの継続的な効果に関する評価を行うために,自己記入式のアンケート調査を行っている。協力機関からの要望もあり,今年度からマークシート方式での実施を予定している。そのためマークシート専用の用紙を購入する費用が必要です。また,解析のためのスキャナーおよび解析関連ソフトウェアが必要です。 前年度同様,打ち合わせのための交通費が必要です。引き続き,国内外の学術学会へ参加して,この領域の最新の知見・資料を収集したり,申請者自身の研究成果を発表したりする予定です。その経費が必要です。 臨床心理学・健康心理学・発達心理学・統計学に関する図書の購入が,必要です。 プログラムの実施とデータ入力・整理の補助員1名程度が必要で,時給800円で50時間を予定しています。 調査票・実施要項の印刷費が必要です。
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