2013 Fiscal Year Research-status Report
知恵と社会的適応を育み心理・行動上の問題を予防する持続可能な心理教育に関する研究
Project/Area Number |
24530870
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
安藤 美華代 岡山大学, 教育学研究科(研究院), 教授 (60436673)
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Keywords | 心理教育 / いじめ / 抑うつ / 不安 / 自己理解 / 他者理解 / 自己効力感 / 予防 |
Research Abstract |
平成25年度においては,本研究で新たに実施した小学1~3年生,多職種新人医療従事者を対象とした,各プロセス評価研究の結果に基づいて,それぞれ改訂した心理教育“サクセスフル・セルフ”プログラムを用いて実践を行い,効果に関する検討を行った。その結果,以下のような変化が示された。 レッスンの間隔や実践者,学校規模が異なる2校の全児童(1,007名)を対象に実践を行った。その結果,いずれの学校の男女とも,統計的有意に介入前から介入後で,衝動性・攻撃性のコントロール,問題行動の誘いを断る自己効力感,社会性の向上,うつ傾向,いじめの減少が見られた。 新人医療従事者を対象としたものについては,4年間にわたり改訂を重ねながら行っている実践のプロセス評価研究を行った。各年度の入職1年目の多職種新人医療従事者85名を対象に,効果に関する検討を行った。その結果,いずれの年度に実施した群においても,統計的有意に介入前から介入後で,社会性,対人関係に関する自己効力感の向上が見られた。半年後に追加のセッションを設けた3年目以降の群では,実践研究2年目までの群で見られた休職者が,認められなかった。 これらより,“サクセスフル・セルフ”は,児童期から成人期前期の人たちの心理・行動上の問題を予防し,心の健康や社会的適応を育むことが可能な心理教育のひとつとなる可能性が示唆された。 また,特別支援学校においては,比較的認知の高いグループへ対象を広げ,高等部の全学年の生徒28名を対象に実践を行った。プロセス評価の結果,授業に対する前向きな態度など多面的で肯定的変化が見られた。さらに,糖尿病をもつ人を対象とした心理教育“サクセスフル・セルフ”を作成し,糖尿病教室で実践を行った。42名を対象にプロセス評価を行った結果,糖尿病について振り返る機会となり,今後の生活に役立つ可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は,平成16年から実施し,人々の心理・行動上の問題を予防し,心の健康や社会的適応を育むことが報告されている心理教育“サクセスフル・セルフ”(安藤, 2007等)を,小学1年生から成人前期まで対象者を広げ,心理社会的発達に応じたプログラムの開発を行い,実証的・実践的研究を実施し,持続可能な取り組みにすることである。平成25年度の研究内容は,関係者のご協力により,おおむね順調に進展した。 取り組みが多年代層および多領域で実施されるようになってきたことから,各実践がよりよい実践として発展することを目指して,実践者同士が協議し合えるよう,“サクセスフル・セルフ研究会”を開催した。 小中学生を対象とした“サクセスフル・セルフ”については,アウトカム評価の結果を参考に,学校教育のなかで継続して実施しやすいことを目的に,年間4回,9年間継続して行うプログラムとしてまとめる予定である。また,家族と連携した取り組みを開始し,プロセス評価を行っている。詳細な解析を行い,必要に応じてプログラムに取り入れる予定である。特別支援学校高等部に在籍する生徒を対象とした“サクセスフル・セルフ”の実践については,個別およびグループでの実施・検討を行い,必要に応じて加筆修正を行っていく予定である。大学生を対象とした“サクセスフル・セルフ”の実践については,定期的に実施・検証を行い,必要に応じて加筆修正を行っていく予定である。多職種新人医療従事者を対象とした“サクセスフル・セルフ”については,4年間にわたる評価研究の結果を基盤に,新任ならびに転入学校教員を対象とした“サクセスフル・セルフ(学校教員版)”を作成,実践を行い,プロセス評価を行う予定である。 人生における難問に対処するスキル(ウイズダム)および他者援助志向に関する心理教育内容の基盤となる書物の翻訳を完成させ,刊行した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの結果とそれに基づく改訂をまとめ,小学校・中学校・高等学校ならびに特別支援学校で学校教育のなかで継続して実践するためのワークブックの作成を行う。ワークブックは,各セッションの目的を達成するためのワークシートに加えて,伝えたいポイント,自己振り返りシート,家族と行うホームワーク,取り組みによる変化を見るための質問シート等を含め,充実させる予定である。 青年期版“サクセスフル・セルフ”については,大学の関連講義で実施し,評価を行い,必要に応じて加筆修正をしていく予定である。また,大学の学部や大学院の専攻の専門性を考慮して,専門的な職業に就く際の不安等心理的負担感の緩和や適応をねらいとした内容で構成されたプログラムを作成し,プロセス評価を行う予定である。 成人前期版“サクセスフル・セルフ”については,職種,年齢層を広げ,対象に合った内容で構成されたプログラムを作成し,プロセス評価を行う予定である。特に,新任や転任の学校教員を対象としたプログラムのプロセス評価を行う予定である。 これら多領域での研究を円滑に推進するために,実践者や実践コーディネーターと綿密に連携をとり,実施への参観・観察,コンサルテーションを丁寧に行っていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度に予定していた打ち合わせのための交通費については,ネット会議なども活用したため,当初予算を下まわりました。また,国内外の学術学会への参加に際しての宿泊費や交通費について,予算を超えないように慎重に検討したことで,予算を下まわりました。 平成26年度は,ワークブックの作成を予定しているため,レーザープリンタ,印刷費が必要です。前年度同様,調査票・実施要項の印刷費が必要です。また,打ち合わせのための交通費が必要です。引き続き,国内外の学術学会へ参加して,この領域の最新の知見・資料を収集したり,申請者自身の研究成果を発表したりする予定です。その経費が必要です。臨床心理学・健康心理学・発達心理学・統計学に関する図書の購入が,必要です。ワークブックの校正の補助員1名程度が必要で,時給800円で50時間を予定しています。
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