2013 Fiscal Year Research-status Report
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24530881
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
梶原 和美 鹿児島大学, 医歯(薬)学総合研究科, 准教授 (40243860)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
緒方 祐子 鹿児島大学, 医歯(薬)学総合研究科, 助教 (50549912)
中村 典史 鹿児島大学, 医歯(薬)学総合研究科, 教授 (60217875)
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Keywords | 臨床心理学 / 口唇口蓋裂 / 母子関係 / 心理的援助 |
Research Abstract |
本研究の目的は,口唇口蓋裂(Cleft Lip and/or Palate; CLP)をもって生まれた子どもとその家族に対する有効な心理的援助を実現するための方法論を確立するために,母子間の相互作用に着目し,CLPに関わる心理的問題の発生と展開過程を明らかにすることである。 本年度は以下の3点について検討した。(1)言語聴覚士および口腔外科医師によって「心理的問題」の存在を疑われ,臨床心理士に面接を依頼された事例を対象とした面接調査の実施(昨年度より継続中):就学前の患児の母親が育児に不安を抱くきっかけとなったのは,乳幼児健診および就学時健診において言葉の遅れや発達障害の疑いを指摘されたことであったという報告が多く,乳幼児期からの継続的な発達フォローが必要であることが確認された。(2)CLPチーム医療における臨床心理士の役割に関する検討:これまでの臨床実践の経験および文献調査を通して,周産期・乳児期,幼児期前期,幼児期後期,学童期,青年期の各年齢段階別に発生が想定される心理的問題を列挙し,スクリーニング調査項目の原案を提示した。(3)CLP告知をめぐる親子関係の混乱に関する事例研究:幼児期後期から学童期にかけて一部の養育者を悩ませるのが「児にどのように本当のことを伝えるのか?」という問題である。本年度は告知を受けて親子関係が揺らいだ体験をし,かつそれを自分なりに消化できたと自認する成人CLP者に協力を依頼し,これまでの人生経験を物語ってもらった後,それを研究者とともに整理する中で,子どもの側が望む告知のあり方を検討した。 本年度の成果は,CLPの患児と養育者に対する心理的支援に関して具体的な示唆を提供できるものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
目的(1)の母子関係に潜在する心理的問題の抽出に関する面接調査は継続中であるが,臨床心理士(研究代表者)以外のスタッフが実施可能なスクリーニング調査の実施には至らなかった。本研究が想定する対象患児の年齢は乳幼児期から青年期までと幅広く,調査項目も患児が受診する診療科も多岐に亘る。昨年度よりCLP治療チームスタッフ会議が立ち上がり,本年度も引き続き現状の問題分析を行っているところである。各診療科間,異職種間の連携がスムーズになる中で心理学的調査も支障なく行えると考えられる。そのためにはなお一層の努力が必要である。 目的(2)の母子相互作用の記録に関しては,スタッフの異動に伴い観察を予定していた場所の変更を余儀なくされたため,録画記録の動画分析による観察調査を一旦保留することにした。その代替として,母子関係が揺らいだ体験の詳細な談話記録を成人CLP者から採り,丁寧に検討することによって母子相互作用に関するリスクファクターを回顧的に検討することとした。その第一報は平成 26年度の第14回世界乳幼児精神保健学会世界大会で発表する予定である。 なお本年度は分担研究者(緒方・中村)が12th International Congress on Cleft Lip/Palate and Related Craniofacial Anomalies(Florida, 5月)に出席し,CLP治療体制の中で求められる心理的支援に関して,原疾患だけではなく児の発達全体を把握し,養育者と連携することが重要とされている国際的な動向を具体的に把握することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度に引き続き,鹿児島大学医学部・歯学部附属病院CLP専門外来を受診した患児とその養育者,およびCLP治療の専門職を選んだ成人CLP者を対象に,研究の主旨を文書および口頭で説明し,同意が得られたことを確認した上で,治療に支障をきたさない範囲で以下の調査を実施する。なお,得られたデータは研究代表者・梶原が厳重に管理し,個人情報が決して漏れないようにする。調査が対象者の心身に不必要な負担をかけ,治療の妨げになると判断される場合には,すみやかに中止する。 ① 母子関係に潜在する心理的問題の抽出:昨年度に引き続き,児がCLPであることに関する心理的ストレス・対処方略・ソーシャルサポートに焦点を当てた面接調査を行う。言語聴覚士の緒方が転出のため研究分担者から外れたが,音声言語学的評価に関しては研究代表者が実施可能な評価方法に変更した上でデータを収集し,心理的にハイリスクな母子を同定するための指標を策定する。得られた結果を日本心理臨床学会において発表する。【調査項目の選定:梶原,データ収集:梶原・中村,解析:梶原】 ② 「告知」をめぐるナラティヴの分析:自分自身の当事者体験をふまえてCLP治療の専門職に就くことを選択した成人のライフストーリーを聴取する。逐語記録をKJ法で分類した後,複線径路・等至性モデル(TEM)に則り時系列上に体験を配置し,CLPであることの体験が周囲他者や社会との関係の中で変容していったプロセスを図示する。その図を対象者に提示し,さらに対象者の体験を聴取する。この手続きの中で親側の告知の仕方と子ども側の告知の捉え方に影響を与える要因を抽出し,事例数を増やすことによって一般化を目指す。【調査の実施と結果の解析:梶原】
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度実施する予定であったビデオ録画による観察調査を保留したため,設備備品費として執行する予定であったデジタルビデオカメラ2台とデータ解析用パーソナルコンピュータ1台(計600,000円)およびそれに付随する物品費(ソフト,増設メモリ,データ記録用HDD等,計100,000円),カメラ設置に係る諸経費(約100,000円)の請求を行わなかった。本件については研究環境が整備され,調査の実施が可能であることを確認した上で研究計画を再検討し,執行する予定である。 旅費については研究代表者(梶原)が本務の都合上,アメリカ合衆国で開催された12th International Congress on Cleft Lip/Palate and Related Craniofacial Anomalies(Florida, 5月)への参加を取りやめたため,次年度使用額が発生した。 研究代表者(梶原)は次年度イギリスで開催されるWorld Association for Infant Mental Health (WAIMH)の14th World Congress (2014年6月,Edinburgh)で発表することが決定しており,外国旅費(450,000円)および参加に係る諸経費(参加費・英語論文の校閲料,計100,000円)を使用する。また成人CLP者に対するインタビュー調査を引き続き実施する予定であるが,研究協力者1人あたり最低3回の調査および貸し会議室の借り上げ料がその都度発生する。現在調査を予定している対象者は全国に在住しているため,国内旅費および諸経費(謝金,その他)として1件あたり100,000円~300,000円必要となる。 なお,前項で述べた通り本年度実施しなかった観察調査が可能になり次第,設備備品費および物品費を執行したいと考えている。
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Research Products
(3 results)
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[Journal Article] 口腔口蓋裂児の健やかな笑顔を育む社会環境作り-鹿児島大学近隣地域における口唇口蓋裂治療ならびに国際医療援助活動-第46回MBC賞を受賞して-2013
Author(s)
中村典史, 西原一秀, 松永和秀, 岐部俊郎, 川島清美, 宮脇正一, 大牟禮治人, 前田綾, 深水篤, 菅北斗, 西山毅, 葛西貴行, 緒方祐子, 三浦尚子, 梶原和美, 小倉敦子, 馬場輝子, 森尾里香, 福重雅美
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Journal Title
鹿児島大学医学部医学会誌
Volume: 33
Pages: 1-8
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